リリー16
砂漠男性と最近はよく見る赤毛の一族。彼らが私に喧嘩を売ってきた。
間近で観察した男性は、お買い上げしたばかりの王子リーンの前で、悪役の私をやっつけようと鼻息フンフンさせている。
私、やられないよ?
あんた達が主役のBLストーリー、簡単にハッピーエンドにたどり着けると思ったら、大間違いだからね。
そして奴隷制度に賛成してる、お前も心の病院行ってこい!
こっちも鼻の穴を広げていたら、砂漠男性ではなく、赤毛の一族が全面にしゃしゃり出てきた。
正直、その髪色には、イラッとさせられる。
別にこの子たちが原因ではないけれど、私がここに来ることになった元凶のあいつ。あのエメアの髪色に、とってもよく似てるよね。
「……」
だからなのか、余計に、八つ当たりしてやろうと火が着いた。
てかあなた、あなたがとても大切にされている良いところのお嬢さんならば、お家の人や警備員たちが、絶対にこんな変質者の集会でお買い物していいって、言わないはず。
一人でお買い物しただけで、どのお店に立ちよったかを、監視された経験はおありですの?
飴を買い食いしたとか、屋台のお肉を覗き見したとか、怪しいお店のスタッフルームに侵入し、高額な猫をうっかり家紋の分与して、それを全て書面で報告され、親族会議で警備員達が監視する中、兄貴たちに怒られた事はありますの?
私のお買い物行動は、セセンテァ警備員が所属する、パイオドというSEC○Mに全て記録されていた。
怖し。
そう、丸っと自由が無い。
それが真のお嬢様というものなのだ。
だからこんな場所で、堂々と椅子に座っていたこの娘は、真のお嬢様ではない。
それを詳細に説明してあげたけど、逆に怒りが倍増した顔をした。
真っ赤になって、私を睨み付ける赤毛の娘。周囲がひそひそ話をする中、突然、香水おばさんが「大商人様のお買い上げだ!」と大声を張り上げた。
お買い上げ?
いつの間にか精算されていたらしく、お支払タイムがやって来た。ここで慎重な私は、お財布を再確認する事にする。
今の私のお財布とは、ピアンちゃんのお兄さん。今さら支払わないよって言われても困るから、念押し確認。
「そういえばグラエンスラー様、私がお渡ししたあれ、今でもお持ち頂いているのかしら?」
「もちろんでございます」
よし!
「ならば貴方は、我が家の一部。その事もご存知かしら?」
「我が一生涯の栄誉であります」
確認完了。
怖いものは何もない。お金の力に物を言わせて、あの香水おばさんよりも、私の方が悪役だって、ビシッとクレーム入れつつ支払ってやろう。
「わたくし、裕福な上に優秀な人達に囲まれて、愛情をたっぷり注がれて成長しましたから、ここにお買い物をしたいと足を運ぶ、憐れな皆様の気持ちが全く理解出来ませんの」
「お話、痛み入りました。深く反省致します」
私に賛同してくれるのはお兄さんのみ。その他大勢には全く効果はなかったけれど、ピアンちゃんのお兄さんはベテラン店員、顧客満足度100%を目指して対応してくれる。
しかも彼は、私がずっと思い続けていたここの奴隷に関するモヤモヤまで見抜いていた。ちょこっとだけ、変態仮面さんを見直していたら、会場の出入り口がざわめいている。
騎士団?
(大分来るのが遅いけど……)
彼らなら、お兄様やノース家に連絡出来るのかな? と、そう思っていたら仮面のお兄さんがメイヴァーさんの家の話をしだした。
エール・ノースって、ダエリアと取り引きのあるメイヴァーさんのお父さんの領地の名前。住所は分からなかったけれど、家紋なら届くはず、そう思って練習したけど上手く書けなかった。
「ここから出るな!!」
「!?」
おじさんの怒号に悲鳴。客席は人が散り散りに逃げている。
過去世の警察番組でみたことがある、悪の現場に乗り込んで、犯罪者を取り締まる警察官の様に逮捕状見せたり読んだりしない。厳つい男たちが前に出ると、兵士は時代劇の様にバサッて斬り付けた。
倒れた男達が本当に斬られているのか、脇役を全うして倒れたのかもよく分からない。
境会の奴らに襲われた時とは全然違う。
自分が狙われた対象ではない。少し離れて見ていると、なんだか、現実感が無い。
「お前は、何者だ?」
「?」
振り返ると、大袈裟に警備員に護られた人々。その先頭に立っていた砂漠男性が、私の本名を聞いてきた。