表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2 -落第魔術師が神殺しの魔剣になった件-  作者: 九条智樹
#2 リバース・デスパレート

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/130

終章 いつか、また -3-


 ――すっかり外は夏めいていて、青く生い茂った木々が葉擦れの音を奏でる。


 そんな中、人気(ひとけ)の少ない放課後の教室に残る女子生徒二人を廊下から見つけて、少し傷んだような蜂蜜色の髪の少女はため息をつく。

 聞こえてくるのは、少し前に馬鹿な真似をした自分の噂だ。


「もう。それでその先輩、どうして死んじゃったの? 何かの病気だったとか?」


「それはね――……」


「……その先輩は、意地張って自分で首にナイフを押し当てたお馬鹿さんです。あと、あたし死んでないから」


 そんな事実を告げる声に、二人の女子生徒が「ひぇっ!?」と頓狂な声を上げて飛びすさっていた。


「あんまりひとの悪口広めるものじゃないわよ。――じゃないと、()()()()()()()?」


 首を掻き切るジェスチャーとそんなありきたりな脅し文句に、しかし女子生徒たちは悲鳴と共に蜘蛛の子を散らすように走り去っていった。


「なんて、するわけないでしょ」


 みっともなく逃げ惑う背中を見ながら、べ、と彼女――冬城有紗は舌を出す。その首にはもう随分と小さくなった傷痕を隠すように絆創膏があった。


「……有紗ちゃん、またそうやって悪役みたいなことする」


 そんな彼女の横で、唇を尖らせる眼鏡の少女が一人。冬城有紗のたった一人の親友の多田茉知だった。


「いいのよ、別に。本気でやるわけじゃないし、少しくらいからかってやらないと」


 からからと笑いながら「ほら、帰るわよ」と言って有紗は茉知に手を差し伸べる。

 病室で目を覚ましてから、まだひと月程度。退院したのはほんの少し前で、その間に学校には今みたいなでたらめな噂が蔓延していた。――出所は、まぁ考えるまでもないだろう。


「もう、あんな真似はしないよね……?」


「しないってば。それ何度目よ」


 きっとまだ続くであろう嫌がらせに対して、茉知は有紗の取る行動ばかりを気にしていた。それほどに彼女の心に深い傷を残してしまったのだろうと、有紗も反省するしかない。


「さすがにもう投げ出さないわよ。茉知を傷つけたくないし。――それに、好きな人に言われちゃったし」


 そのぽつりとこぼした言葉に、茉知は「え、え!? 好きな人って!?」と初々しい反応を見せてくれる。それが少しだけおかしくて、有紗は小さく吹き出していた。


「ど、どこで知り合ったの……っ!?」


「内緒」


「ど、どんなところを好きになったとかは……っ」


「思ったより食いつくわね……。でも教えない」


 鼻息を荒げる親友に少しばかり辟易しながら、有紗は先を歩く。


 ――どんなところを好きになったか、と問われると難しいが、でもそれは、間違いなく一目惚れだったのだろうと思う。


 臨死となって突如として天界の上空に放り出された彼女には、まだ意識があった。状況など微塵も理解できなかったが、それでも諦観だけはあったのだ。いっそこのまま墜落してしまえばいい、と。

 そんな自分自身さえ見捨てた彼女のために、彼だけは必死になって駆け寄ってくれた。どうにか地面と激突する前に受け止めて、心の底から安堵したような顔を浮かべてくれた。


 たぶん、その顔に絆されてしまったのだ。

 でなければ、年頃の乙女が裸体を見られても許せるものか。


「せめて責任は取ってもらわないと割に合わないわよね」


「せ、責任って……?」


「こっちの話よ。――まぁ、そんな好きな人から『がんばれ』って言われちゃったんだから。こんなとこで台無しにはできないわよ」


 もう彼女は自分を犠牲にしない。もちろん他人を傷つけたりもしない。

 正直なことを言えば、それで何かが解決したりするわけではない。きっとただ逃げ出すよりもよっぽど辛い日々が待っている。

 それでも、好きになった人からの期待をなかったことになんて出来なかったから。

 あの世の人間だなんて面倒なやつを好きになったものだと、自嘲気味な笑みをこぼす。


「そもそも次に会えるの何十年後なんだろ。それまであいつ独り身でいられるのかな……」


 隣を歩く茉知にも聞こえないような小さな声で、有紗は独りごちる。

 ずっと傍には水凪六花がいたし、そもそも自身の姉だって『ダーリン』なんて呼んでいたし、他にも探せばごろごろと女の影はありそうであった。


 考えれば考えるほど望みは薄そうだ。――けれど一方で、それでもいいかとも思う。

 きちんと勝負すればいいだけだ。逃げたり他人を貶めたり、そういう真似はするなとそう彼が言った。だからどんなにライバルが多くとも、正面を切って戦うのが上崎結城が望んだ冬城アリサの有り様だろう。


 彼の褒めてくれた蜂蜜色の毛先をくるくると弄んで、有紗は小さく笑みをこぼす。


 いつか必ずもう一度出会う。

 何年先、何十年先であっても、どこに移り住もうとも、必ず。

 だからそのときには。



「絶対に、あたしに振り向かせてやるんだから」



これにて『#2 リバース・デスパレート』編、完結になります!


ストックがつきましたので毎週投稿は一時休止とさせていただきます。

また春頃には戻ってくる予定ですので気長にお待ちいただければと思います!


お付き合いいただきありがとうございました!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ