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2/2 -落第魔術師が神殺しの魔剣になった件-  作者: 九条智樹
#1 アンコール・ディザスター
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第一章 桜舞うころ -8-


 ――時間は少し遡る。


「ハッ!? 六花とポンコツがイチャイチャしている気配がする!」


「どうなってんだお前の感覚」


 上崎たちとは離れた別の棟で秋原兄妹は事件の捜査をしていた。とは言え、佐奈は全く無関係なことにアンテナを張っている始末だった。


「お前が向こうより重要な情報を掴めれば勝ちなんだろ、ちゃんと集中しろよ」


「それは分かってるけど……。でもいくら勝負の為とは言え、どうして六花とポンコツを二人きりにしなきゃいけないのよ。いつ六花が襲われるか……っ」


「結城にそんな度胸はねぇと思うけどなぁ……。せいぜいスイーツでも食べさせ合う程度か」


「間接キスは死罪よ」


「……その上まで行ったらどうなるんだよ」


「族誅」


「下手すると六花ちゃんまで殺しそうだな、それ……」


 妹の過激な発言を止めはせず、それどころか佑介は小さくあくびをする。


「第一、仕方ないだろ。上崎派か反上崎派かって分かれるんだし、結城と六花ちゃんが一緒になるのは当たり前だ。お兄ちゃんが大事な妹側に立ってやってるだけありがたく思え」


「お兄ちゃんと並んで歩くのだって恥ずかしくて死ぬほどヤなんだけど!」


「おい待て世界で一番傷つくことを言うんじゃねぇよ、お兄ちゃんうっかり泣いちゃうだろ」


 佑介が半ば涙目で訴えてくるが、佐奈の心には響かない。――そもそも、佑介がわざわざ佐奈を騙すような真似をしていたから。


「だったら、決闘するのを認めればよかったのよ」


 その言葉に、わざとらしい三枚目を演じていた佑介の顔が一瞬凍りついた。図星だと、妹の佐奈でなくともすぐ分かっただろう。


「……何のことでせう?」


「それでごまかせると思ってたならお兄ちゃんって呼ぶのやめるわ、馬鹿兄貴」


「そんな言葉づかいお兄ちゃん許さないからな!!」


 本気で泣きそうになる兄を白い目で見ながら、さっさと白状しろと促す。それに観念したのか、ため息交じりに佑介は口を開いた。


「……オルタアーツの勝負にしたくなかったんだよ」


「そうしたらあたしが勝っちゃうからでしょ。私闘に使ったら退学とか言ってたけど、バレるものでもないし。鍛錬目的で手合わせする人なんかいっぱいいるもの」


「そういう理由じゃねぇんだよ。――お前、オルタアーツって分かってるか?」


 あまりに基本的なことを問いかけてくる。そのことにいら立って、思わず佐奈の語気も荒くなった。まだ入学したてとは言え佐奈だって東霞高校、魔術師学校の学生だ。


「編纂結界の中だけで使える魔法みたいなものでしょ。基本的には自分の魂をいじるから、自分の意思一つで威力、方向性、形まで何だって自在。ただ鍛錬は必要だけど」


「あぁ、合ってるよ。――じゃあ質問してやる。その基幹となる編纂結界が解ける条件は?」


「まずは展開した者が正式に結界を『解除』した場合。それ以外なら術者の意識消失、あるいは編纂結界そのものへの閾値を超えるダメージで『破壊』される。どれだけのダメージで壊れるかは術者の腕によるけど」


「我が妹は優秀だな。お兄ちゃん誇らしい。なら最後の質問だ。――編纂結界が『破壊』された場合、何が起きる?」


 何を当たり前なことを、と佐奈は不快感を隠さずに渋々だが解答を続けた。


「術者にフィードバックするようにダメージが発生する。オルタアーツで変化を加えていた魂が急激に戻ろうとする反動でね」


「それさ。結城だったらどうなるだろうな」


 あ、と。

 そこまで言われて、ようやくのように佐奈はぞっとした。いら立ちなんか、跡形もなく引いていた。

 上崎結城は全身を剣へと変える。全身は当然、頭部――つまり核も含まれる。その状態で編纂結界が破壊されれば、オルタアーツで変化していた上崎の核まで、熱いグラスに冷水を注いだように砕け散る。それはすなわち、上崎結城の消滅と同義だ。


「別に、魔術師自体が危ない仕事ではあるんだよ。魔獣と戦えば核を破壊されて消滅することもあるしな。ただ、結城の場合はどう考えたって人より危険度が高すぎるだろ。お遊びで使わせたくない」


「……それなのに、あいつは魔術師になろうって言ってんの……?」


 心が、揺らぐ。

 上崎のことは嫌いだ。自分がずっと仲良くしていた水凪六花を横からかっさらうみたいにして仲睦まじい姿を見せつけられれば、どうしたって腹も立つ。

 だが、何か本質を見誤っているような、そんな気がした。

 そもそも水凪六花は、いったい彼の何に魅かれたのだろうか――……


「だからまぁ、結城はお前が思ってるような奴ではねぇって話だよ。仲良くしたいかどうかはお前の感性次第だからそれは尊重するけど」


 照れたように言って佑介は佐奈から視線を外した。「さぁて、何から見て回るかね」なんて、信頼とか友情とか、そういう真面目でくさいことを言ったことをごまかそうとしているみたいだった。


 そんな中だった。

 ピリッ、と空気の中に静電気が混じるような、そんな不穏さを肌が感じた。


「なに――ッ」


 言葉は続かなかった。

 つんざくような悲鳴が、それをかき消していたから。

 叩きつけるような音に、思考が空白に飲み込まれた。何が起こっていて、何をすべきなのか。そんな当たり前に考えることすら恐怖に塗り潰された音が凍りつかせてしまう。

 それは、実際にはほんの一瞬のラグだっただろう。一秒にも満たなかったはずだ。

 だが、隣に立っていた佑介は違った。


「まだ動くなよ、佐奈。――結城か」


 佐奈に待機の指示を出した上で、携帯端末で上崎と連絡を取り合っていた。電話の向こうが狂乱に包まれているからか、怒鳴るような言葉で隣の佐奈にまで上崎の声は響いた。


『佑介、どこにいる』


「北棟の二階。お前は?」


『東の一階から飛び出したとこ。騒ぎの元凶は魔獣らしい。中心地は南一階のど真ん中。目の前だから俺たちで対処に向かおうって息巻いて六花が飛び出したから俺はそのフォローに回る。お前はプロの出動要請と、避難誘導を頼むぞ』


 この一瞬で、既に中心地まで把握していたのか。

 そんな遠巻きの感嘆が漏れそうになったところで、佐奈ははっとした。

 彼はいま何と言ったか。


「ちょっと待って、戦う気!?」


『あー、佐奈か。そんなわけだから勝負はお預け。俺が手を貸すって言うより六花の手を借りることになるだろうけど、怪我はさせないから心配すんな。説教があるなら後で聞く』


「ちょ、待ちなさいって――」


 文句を言うより先に通話は切られた。今は一分一秒が惜しいのだ。


「……ったく。何のために俺がこんな形の勝負にしたと思ってるんだか。――まぁ、結城らしいっちゃらしいけどよ」


 呆れたように呟いて、佑介はポケットに携帯端末をねじ込んだ。


「だそうだ。俺で避難誘導はしとく。最近じゃ災害対策とかで店側も訓練してるし、南棟以外なら楽勝だ。――お前は南に行って、結城と六花ちゃんに手を貸してやれ」


「は……?」


「中心地じゃ逃げたくても逃げられない人が大勢いる。避難ならそっちに人手を割くべきだ。――それに、お前だって見たいだろ? 結城がどれだけすげぇ魔術師かってところをさ」


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