第四章 憧れ -9-
――痛い。
――痛い。痛い。痛い。
――痛い痛い痛いいイタイいたいイタイいたいイタイいたいイタイ――――…………
左腕は熱した油の海に突っ込んだみたいな灼熱の中。そこから骨髄や神経の中を噛みつきながら這うように、頭蓋へ目がけて痛覚が上ってくる。もういっそ首から下を切り落としてしまいたいと、そう思うほど。
泣き喚く喉も涙を流す眼も持たず、ただ暗闇の奥底で冬城アリサは激痛に脳髄を冒されながら時間が過ぎるのを待っていた。
膨大な倒懸に思考は蝕まれ、論理は破綻していく。
――あぁ、これは罰なのかもしれない。
脳の奥を焼き焦がしながら、冬城アリサは漠然とそんなことを思った。
努力を踏みにじることを悪だといいながら、自分勝手なプライドを守るあまり周囲を見ることもせず、たった一人の親友の大切なものさえずたずたにして。
その罪科から目を背けるために自らの喉を掻き切っておきながら、死することもなく天界などという場所でのうのうと暮らして。
そのくせ。
こうして、また誰かの努力を踏みにじっている。
いったいどれほどの罪を重ねるのか。救いようがないとはこのことだ。
痛みに押し潰されながら、アリサは顔もない暗闇の奥底で自嘲気味な笑みをこぼす。
――もう、嫌だ。
何も見えない闇の中で、それでもなお瞼を鎖して、冬城アリサはうずくまる。
――もうたくさんだ。
――もう傷つきたくない。
――だから。
小さく息を吐いて。
冬城アリサは今度こそ、自分の命を終わらせることにした。
辛い思いも痛い思いも何もかも、これで最後にするために。




