断章 冬城アリサの場合 -6-
そうして時は経つ。
一年前にも見た桜色の風景もいつの間にか終わりを迎えていて、気づけば一面に葉桜が生い茂った頃。
無理矢理に切られた髪はようやく元の長さを超えたが、とくに理由もないまま蜂蜜色に染め続けている。そんな毛先をくるくると弄んで、あたしは今年も同じクラスになれたたった一人の親友と休み時間を過ごしていた。
「――すごいね、有紗ちゃん! 大会で優勝したんでしょ!」
「まぁチーム競技だから、全部あたしの実力ってわけじゃないけど」
そんな風に謙遜しながらも、ふふんと鼻を膨らませてあたしも得意げになっていた。
「嫌がらせも最近は落ち着いてきたしね。何やっても勝てないっていい加減に分かってきたんじゃない?」
去年の秋に新人大会で三位入賞と好成績を残してからも、木﨑咲耶たちの嫌がらせは確かにあった。物を隠したりバッシュの紐を切ったり、部活に必要な連絡から外されたりもした。けれど、どれもその程度だ。
髪を切りつけるなんて方法でさえ屈しなかった。これ以上はあたしを直接攻撃するしかない。だけどこの一年でさらに身長も伸びたあたしにそんな真似を出来る度胸のある人間なら、そもそもこんな姑息な真似はしないだろう。
もう何も打てる手がなくなってきたのか、進級してからはめっきり嫌がらせはなくなっていた。だからこそ、試合結果以上にあたしはどこか勝ち誇って茉知にそんな報告をしていたのだ。
「本当にすごいなぁ、有紗ちゃん」
「別にたいしたことないわよ。茉知だって絵でがんばってるでしょ」
そう言って、あたしはちらりと彼女の机の横に掛けられたカバンを見る。そこには、いつでも取り出せるようにしているのか、スケッチブックの端が顔を覗かせている。
「それ何冊目? あたしの知っている限りでも一〇冊超えてる気がするんだけど」
「あ、有紗ちゃんはわたしがいいよって言う前に勝手に見るのやめて……っ。わたし絶対そんなに見せてないはずなのに……っ」
そんな風に顔を真っ赤にする茉知に、あたしはからからと笑いながらごまかす。――彼女の絵を見ることが、あたしはとても好きだった。
元から絵の上手い子だとは思っていた。だけどこの一年、スケッチブックを見ているだけでもすごく上達していることは素人目にだって分かるほどだった。それほど彼女は努力してきたということだ。
そういう輝きを知っているから、あたしはなおのこと茉知の絵が好きなのだ。
だから、あたしは頬杖を突きながら素直にその気持ちを伝える。
「いいじゃない。あたし、茉知の絵が好きなんだもん」
「う、そんな……っ」
「すごく努力家なのに、それを表に出さないところも」
「そ、そんな風に言われたら怒るに怒れない……っ」
「あと、そういうチョロいところも大好き」
「有紗ちゃん!」
またからかってる! と怒る茉知がおかしくてあたしはまたお腹を抱えて笑っていた。
毎週水曜20時頃更新中!
いいね、ブックマーク、評価、感想、レビューお待ちしてます!
PVも公開中!! ぜひ見てください!!
第1弾:https://youtu.be/Lx9zCXHU_Xc
第2弾:https://youtu.be/0sfEBScwpdk




