断章 冬城アリサの場合 -5-
ばすっ、と網にボールが吸い込まれる音が鼓膜に響く。
まだ見慣れない蜂蜜色の髪の間から滴る汗をリストバンドで乱暴に拭って、あたしはシュートを決めた喜びさえなくカウンターに備えて即座に走り出していた。
――あたしにはあれほど大きな変化はあったが、世界はそんなこととは関係なく回る。
結局、あの日以降の学校側の反応には肩すかしだった。
金色に染めた以上はと生徒指導室に呼び出されはしたが、ハーフということが影響したのだろうか。文化の違いがあるのか、なんて呟きと共に勝手に忖度されて、そのままお咎めはなかった。顧問もその裁定を聞いたらしく「……試合で結果を出せ」とだけ低い声で脅しをかけてきたが、元よりこちらはそのつもりだった。
そして、それが今の目の前の状況だ。
初戦の相手は格上。それにもかかわらず、第4クォーターに入ってもこちらが点をリードしたまま、むしろ点差を広げていく。
理由は簡単だ。
「――またスリーとか……っ」
敵チームの誰かが憎々しげに舌打ちする声が聞こえた。
同時、ボールの回ってきたあたしがディフェンスの頭を超えて3ポイントシュートを決めていく。今日の成功率は練習中にも匹敵するかそれ以上だ。二点ずつ決めていく相手チームでは、三点を決め続けるあたしに追いつけるはずがない。
「――っはは」
思わず、笑みがこぼれた。――それがあまりにも空虚で渇いたものだと、微塵も気づきはしなくて。
無残に切り刻まれた髪は、自分の意志で金色に変えて。
そのせいでつきまとう様々なレッテルさえ、もはやあたしを彩る華やかな箔に昇華して。
醜い嫉妬の全てをあざ笑えているかのような現状に、あたしはどうしようもない優越感――いや、全能感さえ抱いていたのだ。
もう誰にもあたしに文句は言わせない。
もう何も踏みにじらせたりしない。
試合終了の笛が鳴る。それはどこか、今のあたしをたたえるファンファーレにも聞こえて。
ユニフォームさえ着れなかったベンチの木﨑咲耶が惨めったらしく唇を噛む様に、胸が空くような思いだった。
――そういう。
――些細な復讐心を満たそうとしたあたしこそが、きっと何よりも卑小で。
――だから、彼女の努力さえ傷つけることになったのに。




