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2/2 -落第魔術師が神殺しの魔剣になった件-  作者: 九条智樹
#2 リバース・デスパレート

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第二章 縁 -4-


 翌日、空がうっすらと赤らみはじめた、放課後のことだった。

 爛々と練り歩く学校帰りの高校生や疲労を滲ませ帰路についた会社員の行き交う、そんなどこにでもある繁華街にて。


「はじめまして、アリサちゃん。わたしの名前はレーネ・リーゼフェルトって言います。よろしくね」


 ハーフアップに結ったキャラメル色の髪をなびかせ、純白のスカートの下で膝を折って挨拶する、そんな淑女然とした猫かぶりがいた。


「……なるほど」


 そんな自己紹介を経て、蜂蜜色の長髪をくるくると弄んで、冬城アリサは白けたような視線を真横に立つ上崎へと向けていた。


「昨日の任せとけっていうのは、こういうことなわけね」


「そう。こちら、本日のパトロン様だ」


 恭しく頭を下げる上崎のつむじに、いっそうの嘆息が降る。しかしいまさら呆れられたところでない袖が振れないことに変わりはないのだ。

 そんな理由で、親友への昼食代と昨日の差し入れで近年まれに見る財政難に陥った上崎は、恥も外聞もなく素直に富裕層のすねをかじることにしたのだった。


「……あたし知ってるわ。こういうのヒモって言うんでしょ?」


「語弊しかないんだよなぁ……」


「半分くらいは事実だと思うんですけれど……」


 心外だと訴える上崎の後ろで、アリサ同様に六花もまた呆れたようにため息をこぼす。


「でもいいです。先輩に甲斐性は期待しませんから。むしろ私が稼ぎますので」


「本当にヒモを養成しようとしないで」


 ふんすと意気込む六花を上崎は嘆息混じりに制する。まともな魔術師にはなれない上崎としては、割と洒落にならない未来予想図であった。


「それより、はやく買い物に行きましょう? もう夕暮れだから時間もなくなっちゃうよ」


「別に本とか中古のゲームとかでいいから、そんな時間かける気――」


「なに言ってるの、まずは洋服からだよ!」


「えぇ……」


 なぜか当人よりやたらと意気込んでいるレーネに、アリサが心底げんなりとした顔を向けていた。


「だってアリサちゃんの格好、配給されるような安い服でしょ? 駄目だよ、せっかくかわいいんだからもっとオシャレしなきゃ!」


 力説するレーネに気圧されながらも、アリサはまだどこか渋っている様子だった。あまり服にこだわりがないのかもしれない。


「まぁでもレーネの言い分も分かるんだよなぁ……。そのアリサの格好、病院で買った白Tとデニムだろ。もう少しくらい着飾ってもいいとは思うよ」


 言われて、アリサ自身は「……そう?」と本当に気にしていなかった様子で自分の格好を見下ろしていた。

 低価格帯でデザイン性に乏しくはあるが、作り自体はしっかりしている。彼女の持ち前のルックスと合わされば、あえてそういうファッションにしているという風に見えてしまうのだから反則だろう。だがそれでももう少し手を加えれば、と男の上崎でも思えるのは確かだった。


「……そもそも病院に普通にアパレルショップが入ってたことには驚きなんだけど。配給のクーポン券みたいなので当面の服は無料で買えたし」


「あぁ。現世とは病院の目的が違うから違和感があるかもな」


「目的って、病院なんだから病気とか怪我を治すんじゃないの?」


「こっちはあの世だからな。頭の核ってやつが破壊されない限り死なないし、病気にもなんない。怪我も割とすぐ治るんだよ」


 たまに風邪くらいは引くけど、と上崎が捕捉すると、アリサは首をかしげていた。


「……じゃあそもそも病院とか要らなくない?」


「そう思うだろ。でも、現世での死に場所の多くは病院だ。死んだ魂は天界の同じ座標に現れるから、同じような位置に建物はあった方がいい。――それで、病院の目的はほぼ治療じゃなくて説明と保護になってるんだよ」


 様々な死因があるとはいえ、やはり病気や怪我の治療の末、残念ながらも病院で死亡する例は決して少なくない。だからこそ、死亡したばかりの魂に天界についての説明を行う場所は病院になっている。

 死亡数が多いならその場所をそのまま流用する方が移動の手間もなく効率的だし、まだ死を受け入れられないなど状況がうまく飲み込めずパニックに陥りやすい中で、静かで清潔感のある空間は望ましいというのもあるのだろう。

 そういう場になっているから、院内には低価格の服飾店が併設されるパターンが多い。アリサが病院で服を入手したのもそういう経緯があってのことだ。

 そんな風に話が一区切り付いたところで、レーネがパンと手を叩く。


「話を逸らしても駄目だよ。アパレル巡りは確定事項です。かわいい子はかわいい服を着なければいけないのです。ノブレス・オブリージュだよ」


「…………なんでこのお姫様は頑ななの?」


「俺に聞くなよ。レーネの考えを理解できたことなんて四年前から一度だってない」


 もはや引きずるような勢いで先陣を切ってアーケード街の服飾店へ向かうレーネに、アリサと上崎がそれぞれ違うベクトルでため息をつく。

 結局、本とゲームを奢ってもらうという負い目からか、アリサも渋々とレーネの着せ替え人形になることを決意したようで、諦めて華やかな店の中に引き込まれていったのだった。


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