第四章 よすが -11-
氷の城が砕け散る。
彼女のオルタアーツが砕かれたいま、その術式全てが霧散する。
氷城祭壇も七つの矢も、この瞬間に打ち砕かれた。
がくり、と立里京香が膝を折る。
「そんな……」
もう彼女に策はない。砕かれたジェネレートはすぐに発動しなおしても直るわけではない。
カテゴリー5さえ討ち滅ぼす剣をクイーンへと捧げる。そんな彼女の傲慢で愚かな夢は、既に破れていた。
この場で彼女を拘束する。それが上崎たちの最後の仕事だ。
「――一つだけ、聞かせてくれませんか」
茫然自失の京香へ、六花はどろどろに刃先の溶けた剣を握ったまま静かに問いかける。
「なんで、上崎先輩だったんですか」
――クイーンへと捧げるのが目的なら、誰だってよかったはず。
自分自身でもいいだろうし、あるいは、篠原三善という選択肢だってあった。むしろ魔術師としての才覚の話をするのなら、きっと二人の方が適性も高かったはずだ。
それでも彼女は上崎結城を選んだ。その理由を彼女は問うているのだ。
「……なにを、当たり前のことを」
何もかもを失った京香が、力なく笑みを浮かべて言う。
「だって、こういうときには一番大切なものを贈るべきでしょう?」
『――っ』
その言葉に、上崎は悲痛に顔を歪めた。
彼の脳裏に過るのは、ある日、彼女が喫茶店で投げかけてくれた些細な助言だった。
――大切な人へは大切にしてるものを贈りたくなるものでしょうけれど。
そんなどうしようもなくありふれた言葉は、けれど、彼女の本心だったのだろう。
彼女は歪んでいた。狂ってしまった。――だけど、それでも、きちんと上崎のことを見てくれていた。想ってくれていた。
その結果がどれほど惨たらしくとも、その気持ちだけは、きっと、輝いて見えたから。
だから上崎は、いっそ目が潰れそうになるほどの眩しさから逸らすように、一人静かに天を仰いだ。
瓦礫の山に囲まれて、広がるのは鉛色の空だけ。
もうそこに、星はなかった。




