表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2 -落第魔術師が神殺しの魔剣になった件-  作者: 九条智樹
#3 クイーン・トリビュート
121/130

第四章 よすが -3-


 崩れたセレモニーホールの端で、秋原佑介は白いハルバードを構えて眼前の女――立里京香へ牙を剥くように睨み付ける。

 しかし、そんな視線を浴びてもなお、京香は飄々とした笑みを浮かべるばかりだ。


「おや。誰かと思えば結城くんのお友達ですよね」


「……惚けたこと言ってんなよ」


「いえいえ、惚けたつもりはありませんよ。けれど物騒ですね。セレモニーホールごと壊すだなんて。被害があったらどうするんですか?」


「とっくに避難させてるよ。――結界の外にまでいた魔獣。あれもあんたの仕業か」


「……おや。少し見くびっていましたね。まさか一人であれを討伐しましたか」


 カテゴリー2とはいえ結構な数だったはずなんですが、と、京香は感嘆の拍手を送る。それに、佑介はいっそう声を荒げる。


「ほとんど面識ないから、昼休みに抜けて花を手向けるだけでも、なんて来てみればこの有様だ。この会場にいたのは、あんたの施設の子供たちなんだろ。それをなんで……ッ」


「もう用はありませんから」


 何を言っているのだろう、と、心底から理解できていないような顔で、彼女はきょとんと首を傾げている。


「結城くんにはオルタアーツの才能がありますから、彼の魂を使うことは決めていましたが、試作もせずに彼に何かあっては困りますからね。手近なところの魂を、試しに使わせてもらっていただけです」


 だから、彼女はあっさりと魔獣に食わせようとした。証拠を隠滅しようとしてすらいない。下手に残して予期せぬことが起きるくらいなら、と、そんな気軽さで、家族同然の相手を消し去ろうとしていたのだ。


「……あんた、狂ってるよ」


「そうでしょうか」


 結界に阻まれ、佑介は京香と上崎の会話のほとんどを聞いていない。それでも、いま目の前に立つ女がどれほど異常であるかくらいは理解できた。


「でももう無駄だ。――どのみち、応援の魔術師がじきに駆けつけてくる。あんたが何を企んでいても終わりだよ」


「来ませんよ」


 ばっさりと。

 彼女はいっそ断言すらした。


「私の戦力がここにいる魔獣で全てだと思いましたか? ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「な――ッ!?」


 突きつけられた事実に、佑介はポーカーフェイスすら忘れて目を剥いた。


「なにせ私も元魔術師ですから、この周囲の魔術師の数や配備はある程度頭に入っています。どこにどれほどの魔獣が出現すれば、通報を受けた魔術師がどう出動するのか。その程度の予測は容易に出来ます。――どれほど早く見積もっても、ここにはあと三〇分は魔術師の一人も駆けつけられませんよ」


 あなたのようにたまたま傍にいるというのは想定外でしたが、と言いながら、彼女は深紅の剣の切っ先を佑介へと向ける。


「……っ」


 その輝きに、佑介は身動きを封じられた。まるで銃口を突きつけられたかのように、ぴくりとも動けなくなる。

 佑介の迂闊な挙動一つでも、引き金を引くような気軽さでその喉笛を掻き切ってしまう。そんな光景が目に浮かんだ。


「結城くんを連れ去られてしまいましたが、早いうちに取り戻させてもらいますね」


「させると、思うか」


「強がるのはやめた方がいいですよ。私が外に配備した魔獣を一人で討伐したのでは、無傷とはいかないでしょう? 隠しているつもりかもしれませんが、左足と腰を庇っているのが見え見えです」


「……、」


 図星を突かれ、佑介はもはや取り繕うことすら諦めた。ずきずきと痛む足と腰は、あらゆる攻撃の起点だ。そこを負傷している以上、京香の言うとおり、相手になるとは思えない。


 けれど。

 それでも。


「関係あるかよ」


 そう吐き捨てて、佑介は身体の痛みなど無視して、白いハルバートを高く掲げるように構え直した。


「あんたが結城にとってどんな存在なのかは知らない。――だけどな」


 言って。

 佑介は彼女との間合いを一息に詰め、そのハルバードを振り下ろした。京香の深紅の剣に受け止められながらも、夥しい火花が互いの間に迸る。

 それでもなお押し潰さんと佑介は吠える。


「俺の親友をあんなにボロボロに追い込んだんだ。このままあんたの思いどおりになんかさせてたまるかよ……ッ!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ