健気な人
昼の月を見るために顔を上げた
運の尽きかも知れないと思ったから
かけがえのない今日も涙と一緒に流れていく
震えている心臓は鼓動が弱くなって久しい
「明日は明日の風が吹く」と誰かが耳元で言う
こそばゆく感じていた耳の裏は
ひくひくと動くことを諦めていた
君はまだ大丈夫だ
若く元気で力があるから
優しく肩を撫でるように叩いてくれる笑顔
いつもの笑顔に今日は肩を落とす
流すまいと踏ん張った結果の潤んだ目
見せまいと下を向いたら、より気を遣わせてしまう
この人にはそうさせたくはないと
振り絞ったせいで震えた青白い口と
落とすまいと開いた赤い目
はっと目を合わせたとき、
「ああ、この人は本当に優しい人なのだ」と心の底から思えた
そこには僕がいたから
元気づけようと震えるのを堪えた口と
どうしてなのだと赤く充血した目
いつもとは違った皺が顔に広がっている
白髪と作業着がトレードマークの人は
その手を大切なものでも握ってるみたいにしてぎゅっと閉じていた
酷く寒い日、水の上に薄く氷が張っているみたいに
酷く暑い日、コンクリートの上に陽炎が出来ているみたいに
酷く嬉しい日、人生捨てなくて良かったと思えるみたいに
酷く悲しい日、どうして産まれてきたのか嘆くみたいに
どうせ移りゆくものなのに
思い出せもしないほど、記憶残らないことも多いのに
どうせいつかきっと跡形もなく、なくなってしまうと知っているのに
それでも、どうしても、惨めでも良いから
僕は生きていたいと思った




