2.男聖女、旧知と出会う
さてと、ほとんどその身一つで出てきた訳だが、いかんせんお金が無いんだよな。
「致し方ないですが、ここのギルドに登録しますか........。」
曲がりなりにも聖女ですからね。ツテがないわけではありません。
滞在していた冒険者ギルドに入ると、自分に対し周りの人間が冷ややかな視線を送っていることに気がつく。
(ふむ、相変わらず噂の伝達は早いものですね。私が勇者パーティから追放されたことがもう知れ渡っているとは。)
理由はどうあれ、他人から見れば勇者パーティを追放された爪弾きものであり、このような視線を当てられてもおかしくはない........ということでしょうか。
(まあ、それは所詮人を肩書きでしか見ていないということを自分から露呈しているにすぎないだけですが。)
とりあえず受付に行こう。
「すみません、冒険者ギルドに登録したいのですが……。っとおや、メイではありませんか。」
「…えっシャルル様っ!?」
「ああぁっちょっ静かにお願いします…。」
彼女はメイ。私の侍女…というと変だな……。いやでも聖女の世話係だから侍女か…?
いやまああまり考えないことにしましょう。元々そういう立場の子だったのですが私が旅に出るとなって教会の仕事をするとともにギルドの受付も始めたみたいですね。
「わかりました…。一応新人冒険者という扱いにいたしますのでこちらにお名前の方おねがいします。」
隠す必要もないので正直にシャルルと記入する。
「…かしこまりました。それでは説明に入りますので、こちらの部屋についてきてくださいますか?」
あれ?ギルドの説明に裏に通されるとかありましたかね?
おそらく旅している間に形式が変わったのでしょう。指示には従うとしましょうか。
部屋に通されると、メイと厳かな雰囲気の男が待ち構えていた。
…なるほど、そういうことでしたか。
「…ようこそいらっしゃいましたシャルル様。」
「お久しぶりですね、イゴール。ギルド長になってから会うのは初めてですね。今の私はただの新人冒険者です。そんなにかしこまらなくていいんですよ。」
彼はイゴール。元々私の右腕として動いていた神父だったのですが私が旅に出ると同時にこの街のギルド長と兼任する形になった男です。まあ、聖女が不在なので教会側も良くも悪くもすることがないんだろうなぁ……。
「ご冗談を。新人冒険者だったとしても、我々が守るべき聖女であることには変わりありませんから。」
「ええ、頼りにしていますよ。」
「…ところで、なぜ今回は我々のギルドへ…?」
「…お恥ずかしい話、実は勇者パーティを追い出されてしまいましてですねぇ…。」
「「…はぁ!!??」」
受付嬢とイゴールが同時に驚いた。
「な、なんでまた聖女であるシャルル様が…!?」
「いやぁそれが何度も説明しても私が聖女だってことを信じてもらえなくてですねぇ。」
「同行したニーナはどちらに……?」
「勇者パーティはどうもニーナを聖女だと勘違いしているようで。ニーナも私も何回も説明したんですがそれでも動かず…。違うとはいえ聖女の立場をパーティ内で与えられているニーナを連れ出すことは難しかったんですよ。」
「シャルル様はなんの扱いだったんですか……。」
「どうやら私は『ただの』『無能な』『魔術師』という認識みたいだそうですよ。」
「いったい何をみていたんだ……。」
「さぁ……。ただ私がパーティから離れた影響で彼らに継続して加護を貼れなくなってしまったんですよね。」
「あ…、それって不味くないですか……?」
「ということはご加護にある魔力が尽き次第……。」
「まぁ、加護は切れてダメージはそのまま入ることになるでしょうね。」
ニーナが一番心配ですが、元とはいえ親友を見捨てるのも後味が悪い。
……まぁ、その時になったら考えましょう。
「そもそも彼らは勇者とその仲間たちですから。ダメージを受けなければ魔力の加護が減ることもありませんし。きっと大丈夫ですよ!」
メイがとりあえず心配しておくといった口調で言う。
「そうですね。」
「彼らにその力があれば…ですが。」
次回は一旦主人公が脱退した後の勇者パーティの描写になります。
彼が抜けた後のパーティはどうなっているのか…。
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