<第九話>二人目の使用人
食器類の後片付けが終わり、犬飼は、最後にダイニングの椅子をきれいに整え、佳菜ちゃんの部屋に勉強開始の声掛けに向かった。
「犬飼でしょ。」
突然、犬飼が扉をノックをするより早く、佳菜ちゃんが元気よく扉を開けた。
「モコさくがね、犬飼が来たって教えてくれたんだよ。」
部屋から出てきた二匹の犬が、嬉しそうに犬飼の方に近寄っていく。
「ありがとう、モコ、さくら。さすがだね。いい子にしてお嬢様と遊んでいたかい?
それではお嬢様、そろそろ勉強のお時間ですよ。」
「はあい。」
モコとさくらと一緒に楽しく遊んだ佳菜ちゃんが、機嫌よく勉強を始めた。
「青野さん、先程の犬飼さんの話を聞いていて思ったのですが、いいかしら?
今日の朝食会で、私達も警護をする事の合格がもらえてよかったわね。」
姫子が青野に小声で言った。
「そうですね、姫子さん。僕も思っていました。
もし会長や佳菜ちゃんに気に入られなかったら『やはり他の刑事さんにして下さい。』なんて言われたのでしょうかね?」
青野も姫子と同じように、今朝の食事会が自分達の面接だったのだと感じていた。
「おはようございます。」
玄関の扉が開き、買い物袋を持った一人の女性が入ってきた。
「おはようございます、下飼さん。」
階段から降りて来た犬飼が、挨拶に答え、女性の方に歩いて行った。
「あちらが、今日からお嬢様の警護を担当する青野刑事と探偵の姫子さんです。
今週、いつもと違うことがあれば、すぐにお二人に報告し、指示に従うこと。
それから、青野刑事が脅迫状を発見した時の話を聞きたいとのことでしたので、よろしくお願いします。」
犬飼が、買い物袋を受け取りながら、会長や青野の話を伝えた。
「荷物、ありがとうございます。
はい、分りました。」
下飼は、青野に礼を言った。
「今から昼食の準備がありますので、青野刑事へのお話はその後でもよろしいでしょうか?」
下飼は青野の方を向き、聞いてきた。
「ええ、それで大丈夫です。お忙しい所にすみません。」
青野がペコリとお辞儀をしながら言った。
「お嬢様は、お部屋で勉強中ですか?
飲み物は、もうお出ししていますか?」
自分が来た時に、挨拶の声も聞こえてこなかった佳菜ちゃんの様子から勉強中と判断した下飼が、犬飼に確認していた。
「すみません、まだお出ししていませんでした。」
犬飼が少し慌てたように答えた。
「では挨拶をしにお伺いする時に、一緒に私がお持ちしますね。
どうもありがとうございます。」
にこりと微笑み、下飼が台所に入っていった。