<第七話>同伴出勤
「モコさくと一緒に少し私のお部屋で遊んできていい?」
佳菜ちゃんが犬飼におねだりするように聞いた。
「はい。ダイニングの片付けが終わりましたら、お部屋に参ります。そしたら、宿題をする時間にしましょう。」
犬飼が微笑みながら答えている。
「やった。じゃあ、行こうモコさく。ありがと、犬飼。」
佳菜ちゃんは、ニコニコ笑顔で二匹の犬と一緒に自分の部屋に行ってしまった。
犬飼は、食卓の上の食事が並べられていた仕切り箱や汁椀などを手際よく重ねて片づけを始めた。
「お仕事中すみません、少しお話を伺えますか?あっ、作業は続けてください。」
青野が近づきながら話しかけた。
「はい、大丈夫です。ありがとうございます。」
犬飼が言われた通り、手を休めることなく答えた。
「郵便受けから発見された脅迫状について伺いたいのですが。」
「あっ、それを見つけたのは、下飼です。昼前には出勤しますので、直接彼女から聞いてはどうでしょうか?」
犬飼が素っ気なく答えた。
「そうでしたか。ではそうします。犬飼さんは、片付けとかもするのですね。」
青野が話を続けた。
「そうですね。下飼がいないので。」
「先程の二匹の犬、佳菜ちゃんに懐いていますね。」
姫子が話題を変えた。
「彼らと一緒に出勤するようになってもう3年近くなりますから。ああ、すみません、犬連れなんかで仕事をしていて。以前会長から、長時間勤務になった時に、連れてきていいと同行の許可を頂いたのです。」
犬飼が照れ臭そうに答えていた。
「長時間勤務というのは、佳菜ちゃんの長期休暇中のことかしら?」
姫子が聞いた。
「いいえ、今の勤務時間の事です、変な言い回しをしてすみませんでした。最初は、一日に数時間奥様のお手伝いをしていただけだったので、ついそう言ってしまいました。私が大学でバラの研究をしていた話を奥様が覚えていて、病気のバラの様子を見に来てほしいと頼まれて、こちらに伺ったのがきっかけでした。」
バラの研究。そういえば庭には夏だというのに素晴らしいバラが咲いていたわ。
手入れの行き届いたバラ園のような庭の事を姫子は思い出していた。犬飼の話は続く。
(続く)