<第六話>一人目の使用人
「よろしくお願いします。」
食事が終わると、佳菜ちゃんが青野と私の所に来て、きちんとお辞儀をしながら挨拶してくれた。
「佳菜に気に入ってもらえたようですね。安心しました。私からも、お願いいたします。それでは、そろそろ出勤時刻ですので、失礼いたします。」
望月氏は、立ち上がると会釈して、ダイニングを出ていく。
「犬飼。」
部屋を出たところで、彼が少し大きな声で名前を呼んだ。
すると玄関の方から一人の男が近づいてきた。まだ聞いていた出勤時刻の九時前だが、待機していたらしい。
「おはようございます、会長。」
スッと姿勢を正して犬飼が、静かに答えた。
おや?
犬飼の後ろから、やはり静かに、でもシッポをフリフリと動かしながら二匹の犬も付いてきていた。
「ワンワンワンッ。」
一匹の犬が急に、吠えながら部屋の入り口まで駆け寄ってきた。犬飼のやや後ろから、こちらに向かってまだ吠えている。
「こらモコ。お客様だよ。怪しい人たちじゃないから。」
犬飼が優しい声で注意しながら吠えていた犬を抱き上げた。
するとすぐに静かになり、もう犬飼の顎をペロペロ舐めている。もう一匹は彼の足元にきちんとお座りの姿勢をしながら彼を見上げていた。
「おはよう。モコとさくらもおはよう、今日も元気そうだな。」
望月氏が笑顔で挨拶していた。
「こちらの青野刑事、姫子さんが一週間佳菜の警護をして下さることになった。何か普段と違うことが起きたらすぐ二人に報告するように。私には、緊急以外は、帰宅後でいい。判断に迷った時は、二人の指示に従うように。」
もう会長の顔つきに戻った望月氏からの指示であった。
「承りました。青野刑事、姫子さんどうぞよろしくお願いいたします。」
犬を抱いたまま、犬飼が私たちに一礼した。
「会長、お車の準備も出来ております。」
「ありがとう。佳菜、行ってきます。」
「行ってらっしゃい、パパ。」
佳菜ちゃんが手を振りながら挨拶している。
「行ってらっしゃいませ。」
犬飼も続けて言う。そしてしっぽを振って犬達もお見送りしている。
望月氏が出かけて行った。
(続く)