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<第二十三話>脱 出

 灰原に自宅に強引に連れ込まれてしまった佳菜ちゃんとモコ。

 玄関から一番遠い奥の部屋にまで連れていかれ、そこに入れられた。



 「いいか、絶対に声を出すな!そして勝手に部屋から出るな。」

 灰原から脅すように強く言われ、少し手荒く部屋の床に叩き付けるように座らされた。


 今まで望月家では、誰よりも一番大切に扱われ、育てられていた佳菜ちゃん。彼女は、見知らぬ大人からこのような怖い思いをさせられた経験など一度も無かった。



 佳菜ちゃんは、この恐怖心からすっかり怯えてしまい、モコをギュッと抱きしめ、先程手荒く座らされた姿勢のまま、身動きが取れなくなってしまっていた。


 そして、その佳菜ちゃんの恐怖心は震えながら強く抱きしめていたモコにも伝わり、彼も腕の中で小さくなっていた。





 最初のうち灰原は、子供を閉じ込めた部屋の様子を気にかけていた。しかし、数分おきに確認する部屋の様子は、怯えた子供と犬がその場から全く動かない状況だった。


 やがて、部屋の扉を開ける度にビクつく子供の様子のみが、むしろ唯一の動きと感じた灰原は、部屋を覗く事を止めていた。




 こうして灰原は、誘拐がこんなにすんなりと上手くいった事を喜んでいた。


 そして彼は、身代金をもらうために、今後はどう動けば良いのかの行動計画に入り、思案に暮れていた。



 灰原は、非常に金使いの荒い男であった。見た目や趣味のバイクに湯水のように給料を注ぎ込んでいる上に、それの穴埋めをする為という理由から、ギャンブルにものめり込んでいた。


 


 そんな彼は、今回の誘拐によって取れる金額について考えた時、望月がしていた娘の話を思い出した。そして、娘の事を後生大事に話している望月の様子から、自分の希望通りの額を間違いなく受け取る事が出来ると考え、その身代金をいくらにするのかワクワクさえしてきていた。






 佳菜ちゃんとモコが部屋に入れられてから、どの位の時間が経ったのだろう。


 「モコ、どうしたの?」

 今まで、ずっと佳菜ちゃんの腕の中で怯えていたモコが、突然スッと顔を上げた。




 そして、一度も出ようとしなかった佳菜ちゃんの腕の中から抜け出すと、部屋の中をウロウロ動き回り、そのまま扉から外に出ようとしたのだった。




 「モコ、駄目だよ!静かにしていないと怖いおじさんに怒られちゃうよ。」

 灰原に怯える佳菜ちゃんは、モコを抱き上げると、必死にモコを静かにさせようとした。


 しかしモコは、静かにはならなかった。彼は、佳菜ちゃんの顎を舐め、また下に降りたがっている。






 「わかった!!!


 モコ。犬飼が近くに来ているんだね。」


 佳菜ちゃんにモコの考えが伝わった。そして、きっと犬飼が助けに来てくれたんだと思えた安心感が、ずっと怯えていただけの佳菜ちゃんに勇気を与えた。




 「よし、一緒に犬飼の所に行こう。でもね、おじさんには見つからないように行かなきゃなんだよ。」


 佳菜ちゃんは、扉にそっと近づいた。そして聞き耳を立てて、扉の向こうの様子を伺っていた。



 灰原が何かをしている物音が、聞こえたり、聞こえなかったりしていた。


 その間、佳菜ちゃんはモコを抱きしめながら、静かにジッと待っていた。


 




 やがて、

 「はぁ、一息入れるか。」

 灰原の声が聞こえてきた。そして、少し遠くで扉を閉める音がした。




 (きっとトイレに入ったんだ。今だ!部屋を出るチャンスなんだ。)


 「行くよ、モコ。」


 佳菜ちゃんは、モコを抱えたまま、音がしないように静かに扉を開けてみた。

 そして、部屋の中に灰原の姿が見えない事を確認するやいなや、玄関に向かって急いで駆けて行った。



 佳菜ちゃんは、玄関から外に出ると急いで辺りを見回した。




 しかし犬飼の姿は、どこにも見当たらなかった…


 「モコ、犬飼いないよ。何処にいるの?」



 すぐに犬飼に会えると思っていた佳菜ちゃんは、そのショックから足が止まってしまった。そして急に重たく感じてきたモコのことを、その場に下ろしてしまった。

          (続く)



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