第二章 六花 -5-
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アウディの店にて。
ギアを修理用のコンテナに放り込んだ朱鳥は、生身で冷たい床の上に正座してミツキに事情を説明していた。真冬のこの時期のタイルの冷たさはなかなか拷問じみていた。
「確かに、君が未来視で見た状況から助かるなら一人での戦闘も必要で、その経験も大事だったかもしれないけど。――見えた未来でわたしの助けの跡がなかったなら、まさしくそんな思考で一人で戦ったときに殺されてたかも、って考えるのが筋でしょ?」
「仰る通りで……」
「まぁ仮にもゲームだから、勝手に戦うなとまでは言わないけどね。願いが叶う、とか以前に、アウディさんみたいに観戦を楽しむ人もいれば、アルケミストくんみたいにクリアと関係ないところで戦う人もいる訳だし」
「はい」
「でも、トリニティエンプレスのパーツを保有しているうちは絶対にやめて。せっかく出所不明の新人狩りから取ったのに、別の誰かに流れて追跡できなくなったら元も子もない」
「はい……」
とうとうと説教を喰らい、朱鳥はうなだれるばかりだ。視界の端でメイドのAIがただ「アホなご主人様……」とでも言いたげに朱鳥の方を見て微笑んでいる。
「まぁでも、説教はここまで。実際、技術的な特訓ばかりに意識が行き過ぎていて、戦う相手の選び方とかを教えなかったわたしのミスもないとは言わないしね」
そう言って、ミツキが楽にしていいよ、と言うので朱鳥はもはや痺れの感覚さえない足を崩してミツキと向き合った。
「いま、このSoCのver.4.1は佳境に入っているの」
「佳境ってことは、クリアが近い……?」
「そう。現在、四割以上もトリニティエンプレスのパーツを保有しているプレイヤーが二人いる。一人はわたし。――そしてもう一人がさっき戦った相手『リッカ』だよ」
言われて、ぞっとした。
何故彼女が朱鳥に勝負を仕掛けてきたのか、その意味が分かったからだ。
「たぶん彼女も、わたしと同じでアルケミストくんがトリニティエンプレスのパーツを隠し持ってると睨んでいたんだろうね。だから、それに勝った君がスクワッドを離れて一人でいるときに勝負を挑んできた」
知識のない朱鳥は、それをただのこのアリスゲートのどこにでもある良くある資金確保の試合の一つだと誤解して、特に考えることもなく試合に及んでしまったという訳だ。
「そんなに強い相手だったんですか……?」
「それはもう。むしろ、今日アスカくんが秒殺されなかったことの方が不思議でならないくらいだよ。実力で言えば、間違いなくわたしと同格。ギアの性能は残念ながら向こうに軍配が上がるんだから」
その言葉で、更に朱鳥は肝を冷やした。特訓で朱鳥はミツキの実力を知っている気にはなっている。少なくとも狙撃メインの機体でありながら、朱鳥に対して機巧能力も何もない高周波ブレード一つで手玉に取るレベルだ。
よくよく自分がこうして生きて帰って来られたことが疑問でならない。
「……それで、一つ相談があるんです」
「何かな?」
「俺が見た未来で俺を殺した機体。――あれはたぶん、ホワイトグレイスです」
その言葉に、ミツキは目を剥いた。そしてそうかと小さく呟いた。
「水晶みたいな刃って、アスカくん言ってたもんね。その正体が氷だったってことか」
「はい。――だから、俺はこれが正念場だと思ってます」
「……そうだね。トリニティエンプレスのパーツを持っている限り、また彼女は狙ってくる。何もせずにやられるから、なんて通信で命乞いをしたって罠だと思われて終わりだろうしね」
そもそもミツキにパーツを譲るという選択肢もあるが、意味はないだろう。
リッカが朱鳥の手にパーツがあると知っているのは、あの新人狩りを倒した、という噂が広まったから。つまりミツキに譲ったところで、そんな内輪の情報は出回らない。まだ持っているだろうと踏んで、リッカは朱鳥に勝負を仕掛けてくるだけだ。
「えぇ。だから、やるしかないんです」
ようやく、朱鳥は見えた未来の正体を掴んできた。だからこそ、ここで退く訳にはいかない。
「俺はこれを乗り越えて、未来を手に入れる。その為に、俺はこのイクスドライヴに乗っているんだから」
何の情報もなかったときはただ漠然とした対策しかとれなかったが、今は違う。
敵は分かっている。目的も分かっている。
ならば、後は未来を変えるだけ。
怯えている暇などありはしない。
ただ、生きてこの居場所へ帰る為に。




