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第94話 そこからかい!!

「いらっしゃいませ、クラリッサ様、シンシア」


 エメリアに出迎えられた2人のメイドが室内に入ってきた。

 ……しかし、分かってるねぇシンシア。何が分かってるかってそれはもちろんクラリッサのメイド服のチョイスだ。

 一口にメイド服と言っても、シックなものからフリフリのフリルの付いた可愛いもの、私がこの世界に広めたミニスカタイプなど、その派生形は実用的なものからオシャレなものまで多岐にわたる。

 その数ある中でシンシアが自分の主人に着せた初メイド服が……


「いいねぇ~その飾りっ気のないシックなロングタイプのメイド服……実にいい仕事よ、シンシア」

「ありがとうございます~お嬢様にはやっぱりこれかなって」


 私はシンシアと固い握手を交わす。そのさなかでも、クラリッサは着慣れない恰好が恥ずかしいのか終始無言でモジモジとしている。実に可愛い。


「いいチョイスね、シンシア。私でもこのチョイスをすると思う」

「でしょ~? この普段ツンツンしたタイプの子が実務一辺倒タイプのシックなメイド服に身を包んでご奉仕する……たまりませんわ~」


 メイド同士も固い握手を交わしている。どうやらエメリアのメガネにもかなったチョイスらしい。しかし自分の彼女とは言え主人でもあるクラリッサに遠慮のないセリフが実にシンシアである。


「……あれ? でもクラリッサ、首輪はしてないんだね」


 部屋に入ってスカーフを取ったシンシアの首には私が贈った首輪がしっかりと巻かれていた。エメリアも当然首輪をしている。

 しかしながらこの場にいる3人目のメイドであるクラリッサの首には何も巻かれていなかった。おかしいな、首輪を付けてくるように頼んでおいたんだけど。


「あ、そ、それは……その……し、シンシア……っ」

「ダメですよ~こういうことは自分の口から「お嬢様」にオネダリするものです。さ、どうぞ」


 シンシアはイタズラっぽく笑うと、自分の主人を私の前にグイと突き出す。

 突き出された方は慌てふためき、顔を真っ赤にしながら目を逸らしてしまった。


「あ、えっと……あううぅ……」

「どうしたの? クラリッサ?」


 それでもうつむいているクラリッサだったが、シンシアから「ほらほら」と促されるとようやっとその重い口を開いた。


「そ、その……ほら、言ったじゃありませんの……? あのお芝居の話……」

「ああ、聞いたね。それで?」

「で、ですから……えっと……」


 一層モジモジしながら、後ろに回していた手を前に持ってきたクラリッサ。その手には家に代々伝わると言う首輪があった。

 しばしの間葛藤していた様子だったが、ついに覚悟を決めたようにぐっと私の目を見つめてきた。


「あのっ……!! あ、あのお芝居であったセリフ……「これでお前はわたくしのものよ」って言いながら、これを付けて欲しいんですの!!」

「……ほぇ?」


 何とか言いきったクラリッサを、シンシアがいい子いい子しながら頭をなでている。え、つまりそういうこと? お芝居のシーンを私とクラリッサで再現して欲しいってこと? いい趣味をしている。


「いやぁ~お嬢様、あのシーンが本当に気に入ったみたいで、どうしてもアンリエッタ様からああして欲しいらしいんですよ~。可愛いですよね~」

「も、もうっ……恥ずかしくて顔から火が出そうですわっ……」


 シンシアの豊満なお胸に顔を埋めるようにして顔をそらし、クラリッサは猛烈に恥ずかしがっている。超かわいい。

 この子が私の彼女で良かったと本当に思う。


「わかった。じゃあそうしてあげるから……で、どうすればいいの?」

「えっとですねぇ……」


 シンシアが言うには、


 ずっとお嬢様への想いを抱えていたメイドが、様々な困難を乗り越えた先に、意を決してお嬢様の部屋を夜遅くに訪れる。

 そこで思いの丈をぶつけたところ、お嬢様は戸棚からそのメイドのために用意していた首輪を取り出した。

 それを見て感極まったメイドは涙を浮かべながら薄明りに照らされた部屋の真ん中で跪いてこう言うのだ。


「私を、お嬢様のものにしてください」


 それを受けてお嬢様はその愛しいメイドに首輪を付けて、ここであの一言。


「これでお前はわたくしのものよ……」


 そして二人はその夜結ばれるのだった……


 というお話である。うん、実にベタだけどいい話だ。まだ若干……若干だけど首輪って点に違和感を覚えなくもないが、とりあえず無視だ。


「じゃ、じゃあ……準備、いい?」

「わ、わかりましたわっ……」


 クラリッサはそう言うと、さっき聞いた話の通り……


 バタン


 部屋から出ていった。


「そこからかい!!!」「そこからですか!?」「流石お嬢様!!」


 部屋に入ってくるところからやりたいらしい。生真面目というか凝り性というかなクラリッサらしいけど。

 そしてドアが開き――


『あ、あのっ……夜分に失礼いたします……お嬢様っ……』


 女優が入ってきた。いや!? 私相手役のセリフ知らんのですが!?

 そう思っているとシンシアがカンペを抱えて部屋の脇にスタンバイしていた。用意のいい子である


『いえ、いいわよ……ようやっと落ち着いたところだし……お前とも話したいと思っていたもの』


 ――立ち上がってメイドを迎えに行き、その肩を抱いて部屋の中央へ進む。


 と、書かれている。こまけぇ!!


『あのっ……私っ……私っ……!!』

『クラリッサ……』


 クラリッサががぎゅっと私に抱きついてきた。なかなかの好演だ。ていうかお芝居の内容完璧に覚えているの? この子……そうとう気に入ったのね。

 ちなみにここの名前部分、お芝居だとそのメイドの名前が入るようだ。


『ずっとお慕いしておりましたお嬢様っ……!!』

『……あなたに、ずっと渡したいと思っていたものがあるの』


 ――メイドを抱きしめた後、ゆっくりと離れて戸棚へ向かう(そこで振り返る)


 だから細かいよ!? 助かるけど!! ちなみに首輪は既にエメリアが戸棚にセット済みらしい。仕事のできる子だ。ちなみにそのエメリア、カメラ係である。


『……これよ』

『これは……お嬢様っ……!!』

『これをあなたに付けたいの……いい?』

『はいっ……!! 喜んで……!!』


 その場にすっと跪くクラリッサ。おおお……あのプライドの高いクラリッサがこんなすんなり跪くなんて……お芝居ってしゅごい。


『私を、お嬢様のものにしてください……』


 ――抱きしめて!! 抱きしめて!! そしてあのセリフです!!!(覚えてますよね?)


 シンシアはカンペを抱えながら親指を立てて、歓喜の表情を浮かべている。


 覚えてますよね? じゃないよ!? ちゃんとカンペしてよ!? いや覚えてるけどね!?

 私は指示通り、クラリッサを抱きしめる。視界の端に悶えるシンシアが映った気がするが……気にしない気にしない。

 そして首輪を付けてあげて、クラリッサお待ちかねのあのセリフだ。


『これでお前はわたくしのものよ……』

『お嬢様っ……!! 嬉しいですっ……これで、これでようやっとお嬢様の恋人になれたんですね……!!』

『そうよ……これからはもう逃がさないから』

『はいっ……どうか一生捕まえてくださいっ……』


 感動的なセリフのような気がするけど、首輪付けながらだから違う意味にも聞こえるのよね。しかもこの首輪、リードまで付いてるし。

 まぁでもたまにはこういう芝居がかった――いや、文字通りお芝居なんだけど――者もいいなぁと思った。だってクラリッサこれ以上ないってくらい幸せそうだし。

 そう思いながらカンペを出してくれたシンシアの方を向くと――


 ――そこで押し倒して結ばれる2人!! 初めての夜!! 撮影は任せてください!! ゴーゴー!!


 ……ゴーゴーじゃないわ!! アホか!! そういうビデオ撮影じゃないんだよ!! 

エメリアもハァハァしながらカメラ構えてるんじゃないよ!? 焼きもち焼かないの!? それともメイドものだから我を忘れてる!?


『お、お嬢様っ……』


 完全に役に入り切ったクラリッサの誘惑にあらがうのは、ものすご~く大変だった。だってめちゃくちゃ可愛かったし。



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