第71話 華麗なる全敗を喫したのだった
「いや~お嬢様。良かったですねぇ~。ようやっとアンリエッタ様の彼女になれたんですね」
「ありがとう、シンシアっ」
物陰からこっそりと主人が告白されるところを、魔道具で動画撮影しつつのぞき見していたシンシアはさも「今来ました」感を装って私達に合流していた。
シンシアはシンシアで、私が気付いていたことに気付いていたようで、こっそりと指を口元に寄せて「内緒ですよ」のポーズをして見せた。
こういうところがやっぱり憎めないヤツである。後で動画を転送してもらおう。
なお幸せいっぱいと言った感じのクラリッサは全く気づいていないようである。
「さて、では……お嬢様との余韻を楽しんでいるところ悪いんですけど~」
「よ、余韻って、わたくし達は別に、そのっ……」
私に告白された後、散々唇を貪られたクラリッサが思い出したように手を頬に当ててクネクネとする。
そのときの、自らの意志で私に舌を絡めてきたクラリッサがあまりにも愛おしくて、もうこのまま茂みに連れ込んで食べてしまおうかと本気で思った。
それをギリギリで思いとどまったのは、シンシアの存在のせいだった。
「いやぁ~それにしても、このままお嬢様と致してしまうんじゃないかと思いましたよ~」
シンシアが未だ悶えている主人に聞こえないようにこっそりと話しかけてくる。
「だって、シンシア録画してたでしょ? それは流石にねぇ」
流石に上級者向け過ぎるわ。それに、シンシアとの約束もあったし。
「初めて食べるときは2人一緒にって言ってたでしょ? だからギリギリ踏みとどまったのよ」
「覚えててくれたんですね~嬉しいですっ」
シンシアがパッと顔をほころばせて私の腕に抱きつき、その豊満過ぎるものを押し付けてくる。
主従でここまでの格差があるのも珍しいのではなかろうか。
「あっ、ちょっ、シンシアっ」
ようやっと我に返ったクラリッサが自分のメイドが私に抱きついているのに気づく。
「でも~お嬢様が彼女にしていただいたんですし、次は私の番ですよね?」
「それは、まぁそうですわねっ。じゃあアンリエッタ、お願いいたしますわ」
「あ、うん、了解。場所はどうする?」
「ここでいいですよ~。今すぐ彼女にしてください。お嬢様の目の前で」
腕にしがみつきながら、シンシアが私からの告白を待つ。
ならばと私はコホンと1つ咳払いをして、この目の前の小さなメイドさんに告白をすることにする。
「シンシア――私の彼女になってくれる?」
「はい、勿論です。喜んで~」
シンシアは私の告白に即答すると、思いっきり背伸びをして私に口づけをしてきた。
「まぁっ」
「えへへ、隙あり、ですね~」
してやったり、と言った顔でシンシアがニヤリとする。
一方クラリッサは抜け目のない自分のメイドに目を丸くしていた。
「でもようやっとって気もしますね~アンリエッタ様の彼女になるのも」
「そうなの? そんなに待たせた気はしないんだけど……」
だって私のことがずっと好きだったと言うクラリッサはともかくとして、シンシアもずっと待ち望んでいたというのだろうか? そんなそぶりはあまりなかったけれど。
「だって私もお嬢様の付き添いでここにはよく来ていましたし、その頃から私は将来アンリエッタ様のお嫁さんになるんだと思ってましたよ~?」
「え?」
クラリッサが初耳って顔をしてる。もちろん私も初耳だ。そんな子供の頃から?
でも今までの感じでは、自分のお嬢様が1番好きって感じだったんだけど。
その疑問は次の言葉で解消される。
「だって、私はお嬢様の幼馴染メイドとして、お嬢様と絶対に付き合うつもりでしたし」
「わたくしは、その、身近過ぎてあまりピンと来てませんでしたけどね……それ」
クラリッサが頬を指でかきながら、照れくさそうな顔をする。
「で、そうなると私と付き合っているお嬢様が、アンリエッタ様のことが好きで好きで仕方ないなら、そうなるのも必然ですよね?」
「たしかに、そうなりますわね」
クラリッサがうんうんと頷く。いや、まぁそういうことになるのか。
付き合っている片方と彼女になるなら、もう片方とも彼女になる。この世界のルールだ。
「なので私は子供の頃から、このお2人の赤ちゃんを産むんだろうな~ってずっと思ってましたよ」
はぇ~子供の頃からそう思っていたとは、何と言うか、貴族に仕える子ってこんな感じなのね。赤ちゃんのこととか極々当たり前っていうか。
「そういうわけでして、私的にはこれも予定通りって感じですね~」
「そうなんだ……」
「そうでしたの……」
この子、やっぱり色々凄い子ね。
「ですから、私のことはアンリエッタ様の好きにしていいですからね?」
「はぇ!?」
「だって、ずっとずっとこうなるんだって色々と想像していましたし、本とかでいっぱいお勉強もしてますから。精一杯務めさせていただきますね~」
上目遣いで、物凄い色気のある視線を送ってくる。
上から眺めたことによってその豊かなお胸がはっきりとわかり、思わず喉をゴクリと鳴らしてしまった。
でもこんな子から「好きにしていいですよ」なんて言われたら、女なら誰でもこうなるよね。うん、これは仕方ないのだ。生理現象だ。
「わ、わたくしだって、その、お勉強してますわっ……!」
クラリッサが、私に猛アピールしている自分のメイドに対抗してきたけど……ウソね。
どう見ても何も知らなそう。だって顔が引きつってるし。
「な、何ですの? その疑いの眼差しは……!!」
だって、ねぇ。私はシンシアと目くばせして、ふぅ~っとため息をつく仕草をする。
「う、疑うんでしたら、今夜思い知らせてあげますわ!! アンリちゃんもシンシアも、わたくしのか、か、華麗なるテクによってメロメロにして差し上げてよ……!!」
うんうんすごいね~そうだといいね~。
精一杯の虚勢を張るクラリッサのぷるぷると震える姿はとても可愛かった。胸は震えていなかったけど。
ちなみに初戦の成績は、私とクラリッサでは私の完全勝利に終わった。
連戦と言うか同時開催になったシンシアとの初戦は、まぁ引き分けと言ったところだろう。今後のシーズンに注目である。
なおクラリッサはシンシアとの戦いでもぼろ負けし、華麗なる全敗を喫したのだった――