第61話 魔法ってホントとんでもないことを可能にするのね
……お友達? 幽霊と? いやでもこの子凄く可愛いしなぁ。幽霊ってだけで断るのも悪い気もするし。
「それはいいけど」
「わぁっ! いいんですか!? ありがとうございますっ!!」
もともと宙に浮いてるけど、そのままぴょんぴょん跳ねて喜ぶ。可愛い。
「でも、どうして私と友達になりたいって思ったの?」
「え、えっと……」
理由を聞かれたマリアンヌが、手を後ろで組んで照れくさそうにしている。
「端的に言いますと……一目惚れです」
「……はい?」
え? 一目惚れって。つまり、そういうこと?
「わ~アンリエッタ様凄いですねぇ~。幽霊の女の子にもモテるんですねぇ」
「も、ってやっぱりアンリエッタはモテるんですか?」
「それはもう、モテモテですよ~。かく言う私もアンリエッタ様のお嫁さんにしてもらう予定です」
シンシアが、エヘンとそのたわわ過ぎる胸を張る。
嫁の前にまず彼女になってもらってからなんだけどね。
「お嫁さん!! もうそこまで決まってるんですね~」
マリアンヌがそれを聞いて驚いた顔をする。まぁ確かに学生で結婚の約束をしているのは早いのかな?
「あ、ちなみにこちらで気絶している3人も、アンリエッタ様と結婚する予定です。私達はアンリエッタ様のハーレムメンバーと言うわけですね~」
「すっご~い! でも確かにそれだけの魔力を持ってたらハーレムを作っても当然ですよね」
「そ、そうかな」
言われて私は頭をかく。
「つまり、アンリエッタは女の子が大好きなんですね?」
「うん、好き、大好き」
「じゃあ……私も付き合えたら、その中に入れてもらえたり……?」
「えっ?」
今なんて言ったの? 私も入るって……? まさかハーレムに?
「あ、あの、勿論最初はお友達からでいいんですけど、できればその、そうなりたいなぁ、なんて……」
マリアンヌは頬を染めながらふよふよと漂っている。
――いやいや、急展開過ぎでしょ。まだ会って1時間もたって無いのに。しかも。
「え、でも……マリアンヌ、幽霊よね……?」
幽霊がハーレムメンバーとか、聞いたことないんだけど。
私が困惑していると、シンシアがとんでもないことを言い出した。
「いえいえ、アンリエッタ様、過去の記録によると幽霊の女の子と恋をした偉大なる魔術師は、最終的にその子を受肉させることに成功した、と伝えられてるんですよ」
「受肉って何?」
聞いたことがあるようなないような……
「受肉と言うのは、霊体である幽霊にこの世での肉体を与えることです。言い換えれば『人間にしてあげる』ことです」
「そんなことできるの!?」
「今はその術は失われていると言いますけど……。その魔術師はその子と結婚して、百合子作りで子供まで作ったとか」
「子供!?」
何それ凄い。幽霊と女同士で子供を作るとか、魔法ってホントとんでもないことを可能にするのね。
「ええ、私もその伝説は聞いたことがあります。アンリエッタほどの魔力ならあるいは――」
「えっと、つまり受肉したいから私と付き合いたいの?」
私ならそれができると思って近づいてきたんだろうか?
「いえ、それはあくまで出来たらでいいので。とりあえずは仲良くなりたいなぁと」
「それ、私が好きってこと?」
「はい。もう一目見たときからこの子だって思いました。これが初恋なんだって」
すっごいキラキラした目で見つめられた。
こ、困ったなぁ、いや、嬉しいけど何と言うか、まさか幽霊の子から告白されるとは思ってもいなかったし。
私はとりあえず気絶している3人を起こして、話を聞くことにしたのだった――
「ええええええ!? こ、この幽霊の子も彼女候補に!?」
「ほ、本気ですの!?」
「お、お嬢様が決めたことなら私はっ……で、でもっ……」
起こした3人は、まぁそれはそうよね、と言った反応だった。
「いや、まずはお友達からなんだけどね?」
「で、でもでもっ!! 幽霊なんでしょ!?」
「はい。幽霊のマリアンヌと申します」
ペコリと礼儀正しくお辞儀をされ、3人もつられてお辞儀をする。
「ご、ご丁寧にどうも……お嬢様の彼女のエメリアと申します」
「彼女候補のルカだよ……年明け位に彼女にして貰う予定」
「お、同じくか、か、彼女候補! の、クラリッサですわ……!!」
クラリッサ、動揺しすぎ。他の2人もまだ幽霊への怖さの方が勝っているのか、どうにも落ち着きがない。
「わぁ~、皆さん可愛いですね~。こちらの3人とシンシアが、アンリエッタのハーレム候補なんですね?」
「今のところはこの4人ね。もっと増やすつもりではあるけど」
現時点での他の候補は、メイド王国仲間のモニカ。それにアリーゼとテッサの両先生だ。
特にモニカはほぼ間違いなく嫁にする予定である。
「で、その……マリアンヌさん? も、お嬢様の彼女になりたい、ってことでいいんですよね?」
「はい!! ぜひ!!」
エメリアからの質問に、きっぱりと言い切った。
「で、でもさ……幽霊って、その……え、エッチなこととかできないんじゃない? ほら、キスとか、それ以上とか……」
「いえ、それが可能なんですわよ……受肉とかしなくても」
ルカの疑問にクラリッサが答える。
「できるの!?」
マジで!? 受肉前に!?
「子作りとかは流石に受肉しないと無理なんですけど、実体化した幽霊と恋人になった魔術師は、レアケースですけど無くはないんですの」
「お話とかでは聞きますね~」
「魔力的な契約を結んで魔力さえ与えてあげれば、理論上は実体化可能ですわ。ただ結構な量の魔力を常に供給しないといけないので、大掛かりな魔力炉を構築できる大魔術師に限った話だったはずなんですけど……」
クラリッサがちらりと私を見てくる。
「私ならできる?」
「……できますわ」
そっか、私の魔力量なら常に実体化させてあげることもできるのか。
「ま、まぁ『そういうこと』をする時だけ実体化してもらうって話とかも聞きますけど……」
「え? その『そういうこと』ってどういうことですか~? お嬢様~」
ぼそっと言った言葉を聞き逃さず、シンシアがご主人様の発言に食いつく。
「そ、『そういうこと』は『そういうこと』ですわ!!」
「ええ~私分かりませ~ん。教えていただけませんか~?」
「わ、私も聞きたいです!! クラリッサ様!」
実は脳みそピンク色のエメリアも乗っかる。何気に仲がいいなこの2人。
「も、もうっ!! は、ハレンチですわっ!!」
「つまり、『そういうこと』ってハレンチなことなんですね~?」
「クラリッサはエッチだなぁ」
ルカまでクラリッサの肩に手を置いてからかっている。少しは緊張もほぐれてきたようだ。
「え、エッチなことですか……し、したことありませんけど、アンリエッタが望むなら私っ……」
マリアンヌまで何を言っているのだ。この子もピンク色なのか。
「で、どうかな? まずはお友達からってことで……」
4人にお伺いを立てる。やっぱりこういうことはメンバーの同意がないとね。
「う、う~ん正直まだ少し怖いけど、悪い子じゃなさそうだし……」
「そうですわね……まぁとりあえずお友達からなら……」
「ですね、私はお嬢様が望まれるのでしたら、それで構いません」
「私は全然構いませんよ~……お嬢様を怖がらせてくれたらなおヨシです」
ヨシじゃないが。
「シンシア!?」
「だって~怖がっているお嬢様ってホント可愛くて……はぁはぁ……」
愛が歪んでるぅ~。ま、まぁこの主従はこれでいいか……
「じゃあ、いいんですか? 私とお友達になっていただけるんですか?」
「ええ、よろしくね、マリアンヌ」
「ありがとうございます!! 皆さん! よろしくお願いいたしますね!!」
そして順繰りに抱きつこうとして、マリアンヌに体をすり抜けられた3人はまたしても悲鳴をあげて気絶してしまった。
なおその様を見ていたシンシアは、実にうっとりとした目をしていたのだった――