第06話 思い知らせてあげますわ!!
「そっか、遥がこっちに来ていてもおかしくないのよね……」
学園での入学式の間も、終わって教室に入ってからもそのことを考えていた。
私がこっちに来る原因となった子、それが遥だ。
もともと私のことが好きで好きでしょうがなったみたいで、独占欲の強い感じがする子だった。
それが私の恋人になってハーレムに入ってからはさらにその傾向が加速したみたいで。
私だけを見てほしい、私だけのお姉さまでいてほしい、私とお姉さまの邪魔をしないで。
ことあるごとに言ってきていた。そのたびになだめて何とかやり過ごしてきたんだけど。
でもその想いは、遥の姉妹をハーレムに入れたことで限界を迎えたらしい。
表面上は仲良く3姉妹とデートをしていても、その嫉妬の炎は彼女の中で燃え盛っていたようだ。
最近はわがままも言わなくなったし、ハーレムも認めてくれるようになったのかな、と考えたのが甘かった。
そして私は何食わぬ顔をした彼女に食事に招かれて、無理心中をさせられてしまった……というわけである
うん、もうちょっと遥と真正面から向き合うべきだったわね。反省反省。
そして遥がこっちに来ているかもしれないという考えに戻ってくるわけなのだけど……もし可能ならば会いたい。
そして今度こそちゃんと私のハーレムに参加してもらいたいのだ。
心中させられたとはいえ、彼女への愛はちっとも変っていない。遥のことは本当に好きだったから。
でも私の姿かたちが変わってしまったように、見た目では全くわからないし、相手もこちらをわからないだろう。
それに繰り返しになるがそもそも来ているかもわからないわけで……
そんな埒もないことをグルグルグルグル考えていると――
「久しぶりですわね。 アンリエッタ・クロエール?」
肩に手を置いて話しかけられた。
艶やかな声の主に振り返るとそこには――
「2年ぶりかしら……あのバラ園で会ってから」
――とんでもない美少女がいた。何この子……陳腐なたとえになるけど、まるでお姫様のようだ。
彼女の周りだけ光り輝いているようにさえ錯覚するほどである。
胸はぺたんこだけど。
「あっ……えっと……」
「これは……!! クラリッサ・ウィングラード様!!」
隣の席に座ったエメリアが飛び上がってお辞儀をする。この反応ということは家より上の爵位ということだろうか……? でもエメリア、ナイスよ!
「え、ええ……久しぶりね、クラリッサ」
全く記憶には無いが、私も立ち上がって挨拶をする。
「ふふふ……あなたがユリティウスに来るとはねぇ……てっきり他の共学校にでも行くかと思ったわ」
ストレートの金髪を優雅にかきあげながら話してくる。
ん? でもなんか少しだけ言葉にトゲがあるような……気のせいかしら。
「魔力推薦ですって? 凄いわねぇ。でも魔力量が全てではないことを思い知らせてあげますわ!!」
「は、はあ……」
私が困惑していると、クラリッサの横からひょこりと、とても小柄なメイド服の少女が出てきた。編み込んだ銀の髪が光を反射してキラキラと輝いている。
でもその背丈に反して、その胸はもう何というか規格外だった。
……でっっっか!! なに!? この世界のメイドさんはおっぱいが大きくないとなれない決まりでもあるの!?
「いやぁ~アンリエッタ様がユリティウスに行くって聞いてから、お嬢様それはもう必死で勉強してらっしゃったんですよ~」
「シンシア!?」
「お嬢様の魔力量も並外れてはいますが、それでもユリティウスは難関でしたからね~」
「もうっ! シンシアってば、余計なことは言わなくていいの!!」
可愛いおでこにデコピンをかますクラリッサ嬢。
「ふっ……!! と、とにかく!! これから3年の学生生活、私がいる限りあなたにトップは譲りませんわ!! 見ていらっしゃい!!」
びしっ! と指を突き付けてくる。
「『これから一緒に居られて嬉しいわ。共に切磋琢磨して頑張っていきましょう。私を見ててよね』っておっしゃっています」
「……余計なことを言うのはこの口かしら~?」
ほっぺをつまんでむにーっと引っ張られている。
「ふなほになったほうはいいへふよ~おひょうはま~」
「このっ! このっ! うるさいわねっ!!」
むにむにと頬をこねくり回している。う~む百合百合しくて実にいい。ご馳走様です。
そうこうしているうちに予鈴が鳴って、
「も、もうっ……!! いいですわね……!! 必ず私を無視できなくしてさしあげますわ!!」
バタバタとクラリッサは席に戻っていった。
メイドのシンシアは護衛術とか礼儀作法を学ぶ、従者用の授業を受けに行くらしい。
「いやぁ……なんというか……」
「相変わらず賑やかなお方ですねぇ……」
「そうね、とても楽しい子達ね」
あの凸凹主従もハーレム候補にぜひ加えておこう。
「ええ、それにしても……あの一途さと言いますかメンタルの強さは見習いたいところです……私も負けてられませんね」
「え? 何が?」
「いや、何がってアンリエッタ様……」
内緒話をするために手招きされる。エメリアの吐息が耳にこそばゆい。
「クラリッサ様、昔お嬢様に告白して振られてるじゃありませんか……それでも追いかけてくるなんて、今でも一途に想われているんですね……」
えっ……? マジで? あの子を? 振った!?
……馬鹿じゃないのぉぉぉぉ!?
私は心の中で血の涙を流した。