第05話 優しくしてください……
まさか女の子同士で子供が作れる世界だったとは……なんという天国に来てしまったのだろう。
こんなに幸せなことがあっていいんだろうか。もう今この場で踊り出したい気分だ。
そんな内心の動揺と高揚感を必死で抑えながら、
「いや~でも、改めて考えると凄いわよね。女の子同士で子供が作れるなんて」
「ええ、本当に凄いですよね。約400年前に術式が確立されて、今では女性同士での婚姻も一般的になりましたし――」
400年!? そんな前にこんな素敵なことを……!! その術式とやらを考案した人にハグとキスをしてあげたい!!
だがそうなると、気になるのはやはりその”やり方”だ。
なるべく自然に聞きだしたいが、どうしても興奮で声が上ずってしまいそうになる。
「だ、だよねぇ~~で、ほら、それってどうするんだったっけか? その……作り方?」
「えええ? それくらい知ってますよね……? 常識ですよ!? ――まさか」
まずっ、しくじった!? そんなに常識だったとは――
焦る私だったけど当のエメリアは、
「私にそれを言わせたいんですか? そうなんですね? え、えっちですっ……」
両頬に手を当て、身をよじっていた。
セーフだった。やっぱりエメリアの脳みそはだいぶピンク色だ。
「う、うん、そう、エメリアの口から聞きたいなぁ~」
隣に移り、膝に手を当てながらおねだりをする。
すべすべで実に気持ちいい。
「ふぁっ……も、もう……しょうがないですね……えっと、一番一般的なのは、愛し合う二人がその、そ、そういうことを何度も何度もして……魔力回路をしっかり繋いで、そこで魔力を込めた魔法カプセルを、相手に飲んでもらうことですね……」
「魔力回路を繋ぐのが大事なのね?」
「そうです……」
でも私が聞きたいはその”そういうこと”なのよねぇ。
「で、繋ぐためにする”そういうこと”ってどういうことかしら?」
「そ、それは……!!」
手を腰に回し、お互いの吐息がかかるほどの距離まで抱き寄せながら更に追究する。
「ねえどういうことをしないといけないんだっけ?」
「えっと、それは、その、二人っきりで、その……」
「私たちも今二人っきりよね?」
「そ、そうですけどっ……!」
エメリアが慌ててる。可愛すぎない? この子。
「それは、ひょっとしてこういうことかしら?」
「あっ……」
さしたる抵抗も受けず、肩に手をかけエメリアを座席に押し倒した――
「それで、ここからどうするのかしら?」
「あ、あうっ……」
エメリアの潤んだ瞳に私が映っているのがわかる。
頬は上気して桜色に染まり、両の手はぎゅっと胸の前で合わされ小さく震えている。
そんなエメリアを見下ろしながら、ここからどうからかってやろうかと考えていると――
「ど、どうぞ……」
「えっ」
手を胸の前から下ろして私を迎え入れる意志を示す。
目を閉じ、恥ずかしさに耐えきれないかのようにふっと顔を逸らした――
「初めてなので……優しくしてください……私、元気な赤ちゃんを産みますから……」
重力にも負けずに存在を主張する豊かな膨らみが制服を押し上げている。
襟からのぞく真っ白な首筋と乱れる黒髪からは、理性が消し飛びそうになるほどのいい香りが漂ってきてめまいがした。
思わずゴクリと生唾を飲み込んでしまう。
「あ、あら……」
マジか。据え膳……!?
この子、私――アンリエッタに本気で惚れてるわよ!? 子供を産みたいとまでおもってるじゃないの!!
こんなにも自分を好きでいてくれているこの子に、よく手を出さなかったわね昔の私!?
………………でも、だからこそ、
「――なんてね。ほら起きなさい」
彼女を優しく抱き起す。
彼女が好きなのは、私の記憶にない”昔の私”。他人を愛しているようなものなのだ。
こんな状態では彼女の愛を受け入れるわけにはいかない。
……惜しいけど、…………本っっ当に惜しいけどっ!
呆然としていたエメリアが、徐々に自分の発言を振り返り……
「かっ……からかったんですね!? もぉぉぉぉぉ!!」
腕をブンブン振ってむくれる。そんな姿もまたとても可愛い。
「ま、まぁほら!! あれですよ!! 私のも、じょ、冗談でしたけどね!! 引っ掛かりませんでしたねー!! 残念!!」
「はいはい。それは残念ねぇ」
照れ隠しをしているエメリアの頭をよしよしと撫でてやると、「むぅ……」と唸りながらくすぐったそうにはにかむ。
そんな彼女をしっかりと愛して、私自身を愛してもらってから…………私の百合ハーレムに第1号として加わってもらおう。
そして今度こそ失敗しない百合ハーレムを作るのだ!
そう、決意を新たにしたところで、
「まったく……アンリエッタ、今日はなんか変ですよ……? 積極的といいますか、いたずらっぽいといいますか、まるで人が変わったみたいですね」
乱れた服を直しながらの、だいぶ恨めし気なエメリアの言葉にギクリとする。
もちろん本気で人が変わったなどと思っているわけではなく、からかわれたことへの恨み節なのだろうけど。
――だがまさか本当に生まれ変わったなんて言えるはずもない。
「あはは……まさかそんな」
適当に笑ってごまかしたが、その時何か大事なことを思い出したような気がした――
生まれ変わった。そう私は生まれ変わったのだ、この魔法の世界へ。
でも――そもそもどうして生まれ変わった? どうして私は今度こそ失敗しないと思った?
ぼんやりしてた前世の記憶が、エメリアの言葉をきっかけとして徐々に鮮明になっていく。
私の前世での名前は熊谷志保、女学園の3年生で、そこで様々な女の子を口説いて百合ハーレムを作っていた。
3年間の間、同級生や下級生、上級生はもちろん、生徒会長や教師、はてはシスターまで私の恋人にして百合百合な日々を送っていたのだけど――
――それがあの今朝の夢に繋がってしまうのだ。
さすがに彼女……志倉遥の姉と妹にまで手を出したのは節操がなさ過ぎた。
結果、彼女の嫉妬と怒りをかった私は毒を盛られ、無理心中の末にこうして転生した――
「というわけか……」
――うん、今度はあまりに無節操なのはやめて、嫉妬とかで失敗しないよう慎重に立ち回りながら百合ハーレムを作ろう――
そう思ったのだけど…………あれ?
なんかとんでもない可能性に気付いたような……
無理心中で死んだ私がこうやって異世界に転生してきたってことはだよ……?
――私と心中したあの子もこっちに来てるかもしれないってこと……?
お読みいただき、ありがとうございますっ!! 第1章完結です!
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