第03話 良心が痛む……!
「それにしても……まさか私がユリティウスに入学できるなんて、夢のようです。ほら見てくださいよ! この可愛い制服」
くるくるとその場で回り、はしゃぐエメリア。可愛い。あとめっちゃ揺れてる。ゆさゆさ。
「試験は大変でしたけど……頑張ったかいがありましたよ」
「あ、あ~そうね、試験は大変だったわよね、うん」
「ご冗談を、お嬢様は魔力推薦で面接だけだったじゃないですか」
うっ、まずい、色々とボロが出そう……
とにかく記憶が無いのが痛い。上手くやり過ごさないと――
「い、いやほらエメリアの試験が大変だったなって」
「そうですね。お嬢様にも夜中までいっぱい勉強を見てもらいましたから……とても感謝しているんですよ」
……私だけのメイドさんに夜の個人レッスン……! 覚えてない! がっでむ!
「それは、ほら。エメリアと一緒の学校に通いたかったし」
「従者としてお供させていただけるだけでも、私には過ぎたことでしたのに……。せっかくだから生徒として通おうと、奧様に頭まで下げてくださって……」
あ、本来は生徒じゃなくて従者として付いてくる予定だったのね。
「ほ、他ならぬエメリアのためだからね! 当然でしょ!」
「『エメリアと同じ教室で勉強したいの! 私が責任もって教えるから!!』と奥様の前でおっしゃってくださったこと、私一生忘れません……」
うっ、そんな潤んだ瞳で見つめられると、覚えてないのに適当言ってるから良心が痛む……! やめてぇぇ。
「魔力量が多ければ加点してもらえるんですけど、私の魔力では規定ギリギリでしたから」
「そ、そうだったっけ」
「そうなんですよ。なので筆記で凄く盛り返さないとダメで、試験は本当に大変でした……受かったのはお嬢様のおかげです」
そう言って、深々と頭を下げられた。いや、その厳しい条件で受かったエメリアのほうが実は凄いのでは……
そう思い目の前の少女をじっと見つめると、ほほを染めてふっと目をそらしてしまう。
自分から胸を押し付けたりするのは無自覚なのに、可愛すぎる。天使か。
そして私は空気を変えようと話題を変更し、
「それにしても魔法女学園か~楽しみねぇ~」
乙女たちの花園のことを思い、期待に胸を膨らませた。
「え? どういう風の吹き回しですか?あまり乗り気じゃなかったようですけど」
「そうだっけ?」
「そうですよ。『貴族の義務とはいえ、女の子ばっかりのとこなんて行きたくないよね~』って……」
なんてことを言うんだ昔の私! 女の子ばっかりとか天国じゃないか! 昔の私をぶん殴ってやりたい。
「そんなことないわよ! 私女の子大好きだもの!」
思わず口走った内容にハッとなったけど、エメリアはなんか凄く嬉しそうにしている。
「そ、そうですか? そのほうが私としても嬉しいですけど……従者枠ででも、どうしてもお嬢様と一緒にいたかったので……」
エメリアが手をモジモジさせながらごにょごにょと呟く。
「え? それって……」
「あっ!? ち、違いますよ!? ほ、ほらお嬢様ってぽーっとしてるところがありますから、私がついていてあげないとって意味で、決して変な意味では……!!」
――一気にまくしたて、顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。
静かになってしまった……時計が刻むカチカチという音がやけに大きく聞こえる。
そうかそうか、ふむふむなるほど。では……
私はゆっくりと近づいていくと、うつむいたエメリアの頬に手を当てて顔を上げさせた。
「あっ……」
「ねえエメリア……名前を呼んでくれない?」
「えっ、あっ、アンリエッタ様……」
「様はいらないわ。アンリエッタって呼んで」
「そっ、それはダメですっ! 私はあくまでメイドですから!!」
首を横に降ろうとするが、ぐっと顎をつかみそれを許さない。
「一緒の学校に通う仲じゃない。いいでしょ?」
「で、でも、それは……私はメイドで……」
「じゃあ2人っきりの時ならいいでしょ?」
「あうぅ……」
「呼んでくれないならイタズラしちゃおうかしら? ほら……」
――エメリアの可憐な唇を、親指でもてあそぶ。
きゅっと押し上げたり、ふにふにと転がしたり、つまみ上げたりする度に、熱い吐息が零れ指先をくすぐる。
「お、お嬢様っ……ダメですっ……あっ……」
「ア・ン・リ・エ・ッ・タ」
口づけしそうなまでに顔を近づけたまま唇をもてあそばれ続け、ついに観念したようにエメリアは頷くと、
「あ、アンリエッタ……」
おずおずと名前を呼んでくれた――私の、これからの名前を。
「よろしい! エメリア、これから改めてよろしくね!」
そして私は彼女をぎゅっと抱き締めた――