第200話 【個別エンディング エメリアその2】 ここがゴールでもありスタートでもある
「ん~重いねぇ」
「重いのは当然ですっ! だって4人分ですからっ」
エメリアを膝に乗せた私はその言葉通りの4人分の命の重みを味わっていた。
「でも、それを差っ引いてもちょっと太ったんじゃない?」
「差っ引かないでくださいっ。赤ちゃんのためにいっぱい食べるのはお母さんの務めなんですよぉ」
私のからかいに、エメリアは膝の上で頬を膨らまして抗議を返してくる。そうは言いながらも実際のところは全然太った感じはしないんだけどね。
「うそうそ、太ってないよ。だってエメリアの体は毎日見てるからね、むしろエメリア本人より私の方が隅々まで良~く知っているくらいだよ」
「も、もうっ、えっちですっ……」
エメリアは片手を赤く染まっているだろう頬に当てて、もう片手で首に巻かれた首輪をいじいじと弄った。その首輪をそれこそ寝るとき以外はずっとエメリアの首に巻かれている首輪だ。
「その首輪、やっぱり好き?」
「はいっ! 私がアンリエッタのものだってみんなに見せびらかしたいですし!」
「もう家の誰もが知ってるんだけどねぇ。そもそも第1婦人なんだし」
「それでもですっ。嬉しいものは嬉しいんですから」
とまぁこんな感じで、エメリアは絶対に首輪を外そうとしないのだ。私としてもそこまで喜んでくれると嬉しいし、首輪自体にもすっかり慣れたんだけどね。
でもこの世界に来てからこの首輪文化には驚いたなぁ……。何せ付き合っている彼女に『あなたは私のものよ』って意思表示として首輪を贈るって文化があったんだもの。逆に『私をあなたのものにしてください』って首輪を贈って貰うパターンもあるんだけど、どっちにしても凄い文化だと思う。
私なんて妻全員に首輪を贈ってるから、全員で街に出る時なんてそれはもう凄い光景になる。その時の周りの羨望の眼差しと、嬉しそうな妻たちの顔ときたら、ねぇ。
「あのっ……アンリエッタっ……」
私が首輪のことを思い返してしみじみとしていると、エメリアが物欲しそうな顔でこちらに振り返った。あっ、これはいつもの日課となっているアレだな? アレがしたいんだな?
「したいの?」
「……はいっ、したいですっ」
まったく甘えん坊だなぁエメリアは、でも、これも妻の務めだからねっ。喜んでお付き合いしましょうとも。
「じゃあ……しよっか」
「はいっ……」
すとんと私の膝から降りてもじもじとしているエメリアに、私も椅子から立ちが上がると――
「さ、お手をどうぞ? お姫様っ」
「も、もうっ、そんなからかってっ……」
エメリアの手をぎゅっと握った。
「どこにしようか? 中庭でいい?」
「はいっ、今日は天気もいいですから――」
エメリアは窓から外を眺める。
「――絶好のお散歩日和ですねっ」
「そうだね、お腹の赤ちゃんの健康のためにも、運動しないとね」
そう、毎日の日課とは妻たちとのお散歩のことだ。妻が20人以上いると私の午後はほとんどこれで潰れてしまうんだけど、それもまた喜びというやつよね。
「いい風ですねっ」
「ほんとにねぇ」
私に手を引かれて中庭までやってきたエメリアは、お気に入りの場所である木の側で立ち止まった。
「覚えてますか? アンリエッタ、この木に登って降りられなくなったんですよね」
「そんなこともあったっけねぇ」
確かに取り戻した記憶の一端に、そんなのがあった。子供の私はずいぶんとわんぱくだったようだ。
「この木で遊んでいた私達が、こうしてアンリエッタの子供を宿してお散歩しているなんて……ほんと、生きててよかったです」
「大袈裟だなぁ」
「大袈裟なんかじゃないですよ。何度でも言いますけど、私はアンリエッタの子供が欲しくて欲しくてたまらなかったんですから。こうして夢がかなった今でも、幸せ過ぎて私が見ている夢なんじゃないかって思うくらいです」
「夢じゃないよ」
これが、私達がたどり着いたゴールなのだ。ここがゴールでもありスタートでもあるんだけど。
「ねえエメリア?」
「なんですか?」
「ありがとね」
「どうしたんですか? 急にお礼なんて」
エメリアは不思議そうな顔をしながら、小首を傾げた。
「色々とね……ほら、前に言ったでしょ? 私、入学式の当日に記憶が無くなったって」
「ですね……あの時はどうしようかと思いました」
「そんな私があの学園でやってこれたのは、ずっと支えてくれたエメリアがいたからなんだよ」
あの学園というか、この世界で、と言った方がいいかもしれない。私はエメリアがいなかったらこの世界で途方に暮れていただろう。
何も知らない異世界にやってきた私に、溢れんばかりの愛を注いでくれたのが、今私の目の前にいる私のメイドであり、妻でもある女の子なのだから。
「だから、ありがとね」
私はもう一度お礼を言う。様々な、これまでの想いを込めて。
「もうっ、変なアンリエッタですねっ」
エメリアはそんな私の様子を見てくすくすと笑っている。
「私がアンリエッタのために何でもしてあげるのは当然じゃありませんか。だって――」
そこで、エメリアはちょっとだけ間を作るように言葉を区切り、花のような笑顔を向けて当たり前の如くこう言うのだ。
「私はアンリエッタを愛していますから」
「私もっ、愛してるよ、エメリア――」
そして私は愛しい妻を抱き寄せて、永遠の愛を誓うためその可愛い唇に、そっと私の唇を重ねたのだった――
(おしまい)
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます! これにて完結となります!!
小説を書くのが初めてだった私がこうして拙いながらも完結まで至れましたのは、ひとえに読んでくださった皆様のおかげです!!
重ねてお礼申し上げます!! 本当にありがとうございました!!
次回作は悪役令嬢とか書いてみたいなって思ってます。もちろん百合で。
ではでは~