第198話 【個別エンディング シンシアその2】 遠い遠いこの異世界で
「そう言えばお姉さま、この子達の名前考えてもらえました?」
「もっちろん」
前に頼まれてからうんうん唸って考えていたからね。それにいわゆる前世風の名前がいいって指定もあったからある意味では楽だったし。
「長女がモミジ、次女がカエデ、3女がコズエでどうかな?」
「モミジにカエデにコズエ……統一感があっていいですねっ!」
「でしょ?」
それにこうやって方向性を決めておけば今後子供が増えても迷いが少なくなるし。まぁ確実に増えるんだけど。
「それで? この子達はクラリッサとの子供と婚約させるの?」
「その予定です。今から楽しみですよっ」
シンシアはウキウキした感じで、まだ宿ってさえいないクラリッサとの子供のことを想ってお腹を撫でている。
しかしなんというか、実に壮大な計画よね。私とクラリッサという自分が愛する女性との子供同士を結婚させようとしているなんて。
「愛だねぇ」
「愛です。だって私、お姉さまもクラリッサ様も心の底からお慕いしていますから。愛する女性との子供同士が結婚したら、素敵だと思いません?」
「それは、まぁ確かに」
「この世界だからこそ許されている愛の形ですよねっ……!! 私、アンリエッタ様がお姉さまだって知った時、絶対こうしたいって思いましたもん」
「そ、そうなんだ」
目を輝かせて希望を語るシンシアは本当に楽しそうだ。
「でも、一応本人たちの希望は確認するからね?」
「それは勿論です。まぁ私も貴族に仕える身ですから親が子の結婚相手を決めるってことは普通だとは思ってもいますが、それと同時に前世の感覚もありますからねぇ」
そうそう。あくまでも親としては子供達には自由恋愛の結果として結婚して欲しいのだ。もっとも、政略結婚やお見合い結婚から生まれる愛もあるのだからどっちがいいなんて一概には言えないんだけど。
「でも、なんか不思議な気持ちよね、まだ産まれてもいない……というかまだこの世に影も形もない子との結婚が予定されてるって」
「それは確かにそうですね。でも私がクラリッサ様のお子を授かるのは決定事項ですし」
「それはそうだけど。……でも、やっぱ妬けちゃうなぁ」
理解してはいるし、私もクラリッサは大好きなんだけどそれでも妬けちゃうのは仕方ない。だって私の愛しい遥が他の女の子の子供を産むっていうんだもん。たとえその相手が妻であるクラリッサとは言え、それでももにゃもにゃしてしまう。
でもシンシアはそんな悶える私を見てなんとも幸せそうな顔をしているんだよねぇ。
「うふふっ、お姉さまが焼きもちを焼いてくれるなんてっ」
「だってぇ、私遥のこと大好きだもん」
「嬉しいですよっ、お姉さま」
シンシアはイタズラっぽく笑うとベッドから身を起こして私にキスをしてくれた。普段受け身な遥からこういうのは本当に珍しく、不意打ちでドキッとしてしまう。それこそおもわず押し倒して百合子作りしたくなっちゃうくらいに。
「クラリッサ様のお子を産みましたら、今度はまたお姉さまにお子を頂きますから」
私をあやすように、シンシアは私の頬に手を当てて優しくなでている。
「約束だよっ? 絶対だからね?」
「勿論ですよ。私、お姉さまの赤ちゃん、いっぱい、い~っぱい欲しいですから。お姉さまこそ、腹をくくってくださいね?」
「オッケー! 任せてよ!!」
もう10人でも20人でもがんばっちゃうぞっ!! あ、でもちょっと確認しておかないといけないことが……
「あのさ、クラリッサと百合子作りするわけじゃん?」
「はい、そうですけど、それが何か?」
「えっと……その間も、さ」
「はい」
「……私のとこに夜来てくれるよね?」
「それは当然じゃありませんか」
何をバカなことを言うんだって顔をしていた。
でも良かった。それならいいんだよ、うん。百合子作りの術式って言うのは私みたいに手慣れているならともかく、普通はかなりの長期間をかけて術式を進行させていくものだからね。その間シンシアと夜会えないのは辛すぎるし。
ちなみに当たり前だけど百合子作りが進行している場合、他の人が百合子作りで上書きしたりとかは決してできない。それはそれは強固なプロテクトがかけられているのだ。この点も本当によくできた魔法よね。
「て言うか、私がお姉さまと百合子作りの術式を進行させている間も、私はクラリッサ様のお相手もしていたわけですし、当然そうなるって分かりますよね?」
「そ、それはそうなんだけどさぁ、ちょっと気になってぇ」
「んもうっ! 心配し過ぎですっ! 私がどれだけお姉さまのこと愛しているか、まだわからせ足りないんですか?」
「いやいや、それは存分にわかっていますとも!」
それはもうたっぷりと! 愛し過ぎてるあまり私と無理心中しちゃうくらいに愛してるって言うのはわかっていますとも!
「まったくもう、考えてみても下さいよ。私がお姉さまから離れられるとでも思っているんですか?」
「いや、全く思わない」
これはうぬぼれでも何でもなく、ただの事実だからね。それくらい私とシンシアは愛し合っている実感があった。
「そういうことです。たとえお姉さまが他の子とイチャイチャしていても、そこに割って入りたいくらいに私はお姉さまが大好きなんですよ?」
「それは光栄だね」
「まぁでも最近は割って入るよりは、その子のことも一緒に愛してあげたいな、とか思いますけど」
「言うねぇ」
「だって、ルカさんのこともありますし。できればエメリアさんのことも愛してあげたいんですけどねぇ」
「あの子は私専用だからだ~め」
「そう言うと思ってましたよっ、ちぇ~、いいなぁエメリアさん、そんなに愛されて」
シンシアはぷぅっと頬を膨らませた。可愛い。
「まぁまぁ、愛してる度合いで言ったらシンシアも同じくらい愛しているからさっ」
「ホントですかぁ?」
「ホントだってば。だって私、遥に殺されても許すくらい愛してるんだよ」
「それを言われちゃいますと、信じるしかありませんねぇ」
バツが悪そうにシンシアは頬をかいている。
「じゃあこれからも、ずうっと愛していただけますか?」
「勿論」
「どうやって証明していただけます?」
からかうように、小悪魔的な笑みを浮かべて私に身を寄せてくるシンシアに対し、私はそのお腹に手を当ててこう返すのだ。
「クラリッサとの赤ちゃんを産んだら、直ぐにでも証明してあげるよ」
「ふふっ、花丸ですっ」
――そしてその言葉通り、数奇な運命の果てに再会を果たした私達は、前世からは遠い遠いこの異世界で末永く愛し合い、多くの子供をもうけたのである――