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第197話 【個別エンディング シンシアその1】 奇跡によって

「ほらほら見てくださいっ、私達の赤ちゃんですよ! お姉さまっ」


 シンシアがベッドに寝たまま我が子を抱きかかえ、私に誇らしげな顔をしてその子を私に見せてくる。でもその子が我が子だっていうのは私もよ~くわかっている。だってついさっきまで出産に立ち会っていたんだし。


「ああっ……なんて可愛い3つ子ちゃんなんでしょう……」


 シンシアが抱えている子が1人、そして赤ちゃん用ベッドですやすやと寝ているのが2人、計3人の愛しい娘たちがそこにいた。

 まだ赤ちゃんだと言うのにはっきりと器量よしだと思えるのは、これが親バカってものなんだろうか。でも実際可愛いからねぇ。


「シンシアもお疲れ様。3人は大変だったでしょ」

「大変でしたっ……産科魔法の補助はありましたけど、それでも死ぬかと思いましたもん……」

「いやほんと、お疲れ様」

「でもあれですよね……この魔法の補助無しで産むあっちの世界のお母さん方にはほんと頭が下がりますね」

「まったくよね」


 この部屋の中には私とシンシア――遥しかいないからこそできる会話だ。私と遥は『あっち』の世界からこちらに転生して来た、たぶんただ2人の人間なのだから。

 でもほんと、こうして遥が私の子供を抱いているなんてあっちの世界にいたときには想像だにしていなかった光景だ。女の子同士で子供が作れる世界だからこそ成しえた奇跡によって、今の私の目の前の光景があるのだと改めて実感する。


「お姉さま、何を考えているか当ててあげましょうか?」

「わかる?」

「顔に出てますもん。『あっちにいるときにはこんなこと考えても無かったなぁ』でしょ?」

「あたり~。よくわかったね」

「だって私も同じこと考えてますから」


 シンシアはそう言うと、腕に抱いた我が子を愛おしそうに見つめた後、私をジッと見上げてきた。その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。


「こうしてお姉さまとの赤ちゃんを授かることができるなんて……」

「それもこれも、シンシアのおかげだよねっ」

「お、おかげと言いますか何と言いますか……その……アレは今でも申し訳ないと思ってるんですよ……? ほんとですよ?」


 アレ、というのは私と遥がこっちの世界に来るきっかけとなった無理心中のことだ。生前の遥はもの凄く独占欲が強くて私を独り占めしたがり、それを拗らせた結果私との無理心中を図ったというわけなのよね。

 でも私はもうそのことに関しては気にしてないし、むしろ私が悪かったなって思ってるくらいなんだけど。だって遥にそこまで思い詰めさせてしまったのは私なんだから。


「まぁまぁ、結果オーライでしょ」

「私、一応お姉さまのこと1回殺してるんですけど、それをそう改めてあっけらかんと言われると……」

「いいからいいから、私がいいって言ってるんだからいいのよ」

「まったく。まぁお姉さまのそういうところも好きなんですけど」

「私も、遥の情熱的なところ好きだよっ」

「も、もうっ」


 愛をささやかれて照れるシンシアに、改めてお疲れ様のキスをするため頬に手をかけると、シンシアは私の意図を察してすぐに目を閉じた。

 そんなシンシアに私は小鳥がついばむような軽いキスをして――ひょいと離れると……シンシアはなんか物足りなそうな表情を浮かべていた。


「もっとしてくださいっ……」

「だぁめ、出産直後で疲れてるでしょ? 興奮すると体に悪いよ?」

「こんな生殺しの方が体に悪いですっ! それに産科魔法のおかげで全然大丈夫ですっ! それこそいまから百合子作りだって――」

「病院内でそれはあかんでしょ」

「物の例えですっ!! それくらい元気ってことですっ!! だから……ねっ? お姉さまっ……」


 私は昔から、甘え上手な遥のこういう顔に弱いのだ。


「わかったわかった。ほら、赤ちゃんベッドに寝かして?」

「はぁ~い」


 言われた通りに赤ちゃんをベッドに戻すと、シンシアは両手を広げて「お姉さまっ」って甘えるような声を出した。

 この感じ、もうなんか昔に戻ったような感じがするなぁ。よくこうやって遥からキスをねだられたっけ。


「遥……」

「お姉さまっ……」


 さっきの可愛いキスとは比べ物にならないほど濃厚なキスをして、私達は愛を確かめ合う。舌に伝わる唾液の味とか、舌や歯のかたちとか、以前の遥とこのシンシアで違うとこはあるけれどそれでもやっぱりこの子は遥なんだって実感できるのがこのキスの瞬間だ。

 私の背中に回されて痛いほど私を抱きしめてくるシンシアの腕の感触は、生前の遥そのものだし。てかやっぱりマジで痛い。でもそれがいいのだ。


「ぷはっ……」


 私の長い長い攻めから解放されたシンシアの口が、空気を求めて大きく開く。この時の遥のぽぉっとした顔が私はたまらなく好きで、それはシンシアとなった今も変わらず猛烈に可愛かった。

 ……ので私は再度攻撃を実行すると、油断していたシンシアは目を丸くして私の成すがままに蹂躙されてしまう。可愛い。


「ぷはぁっ……はぁ、はぁ、はぁ……も、もうっ、お姉さまのえっちっ」


 そんな上気した頬をして、まだ物欲しそうな顔で言われましてもどっちがえっちなのやら。


「んもう、そんな可愛い顔してるとまたキスしたくなっちゃうでしょ?」

「あ、赤ちゃんが見てるんですよっ」

「キスして欲しいって言ったのはシンシアでしょ~」

「それはそうですけどっ!! ……こんなキスされたらまた赤ちゃん欲しくなっちゃいますようっ」

「我慢我慢よ~」


 まぁ我慢しなきゃなのは私もなんだけどさ。だってここ病院だし。


「うう~っ」

「それに、シンシアが次にお腹に宿すのはクラリッサとの子供でしょ」

「それは、そうですね」


 私の他にクラリッサの嫁でもあるシンシアは、次はクラリッサとの間に子を成す予定なのだ。ちょっと妬けるけど、でも初めからそう言う約束だからね。


「でも、遥が私以外の子も好きになれるって不思議な気もするよ。自分で言うのも何なんだけど」

「それは私もそう思いますよ。だってあっちの世界の私って、本当にお姉さま一筋でしたもんねぇ」

「でもそれが今では私、クラリッサと結婚して、ルカとももうすぐなんでしょ? 変われば変わるものよね」

「まったくです。それもこれも、こっちの世界に来たおかげですねぇ」


 そして私達はしばし懐かしい思い出を語り合いながら、穏やかな時を過ごすのだった――


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