第193話 【個別エンディング テッサ】 妻にして母
「どうしたの~? アンリエッタ~」
「これまた酔ってるねぇ」
「だっておめでたい日だもん、飲まないと損でしょ~?」
アリーゼから魔法薬を受け取った後、ふらふらとした感じでミリーのもう一人の母親であるテッサが現れた。
もうべろんべろんで、幸せいっぱいって感じなんですけど。
「いや~、めでたい!! ようやっとこの日が来たんだもんねぇ~」
「ちょ、テッサってばっ」
「まぁまぁ飲みねぇ、飲みねぇ」
テッサが手にしたボトルから私のグラスにドバドバ勢いよくワインを注いでくる。いや、零れる零れる。
「んふ~。いやぁめでたいなぁ」
「それさっき言ったよ」
「おめでたいのは何回言ってもいいの! ほら、アンリエッタも飲んで飲んで!」
「さっき注がれたばかりだよ!?」
そんなに娘が結婚したのが嬉しいんだろうか。私にも娘は大勢いるけれど、まだみんな結婚にはもうちょっとかかるしなぁ。まぁ既に姉妹同士で結婚の約束をしている子達はそこそこいるみたいだけど。
姉妹同士での結婚……いいよねぇ。
「めでたいめでたいっ」
「さっきからそれしか言ってないよ、テッサ」
「テッサぁ~? ねぇアンリエッタ? ちょっと言いたいことがあるんだけどぉ」
あかん、目が据わってる。何を言い出すんだろうかこの私の妻は。
「これからは、私のことをテッサお母さんと呼びなさい!!」
「……はい?」
何言っとるんだこの酔っぱらいは。
「だってそうでしょぉ!? 私の娘のミリーと結婚したってことはだよ!? それすなわち! アンリエッタが私の義理の娘になるって事じゃん!!」
「いや、そう言われるとそうなんだけど……」
「だから、今日からアンリエッタは私の娘!! 決定っ!!」
決定というかまぁ事実なんだけど。でもその母親であるアリーゼとテッサが私の妻だと言うのもまた事実でありましてね? なかなか複雑な人間関係になっているなぁ。
「ほらほらぁ、お母さんって言っていいんだよぉ~?」
「えええ……いや、でもテッサ私の妻じゃん」
「そうだけどぉ!! でも、私も自分の義理の娘といちゃいちゃしたいのぉ!! 義理の娘と子供をもうけるなんて、背徳的でいいじゃない?」
「ぶっちゃけすぎぃ! いや、気持ちはわかるけど」
もう10年以上イチャイチャして来ただろうが。現に今そのお腹にも私の子供がいるんだし。
こんな大きなお腹をした状態でここまでお酒を飲んでも一切平気なんだから、魔法ってすごい。ただし二日酔いだけは魔法でどうにもならんので翌朝のテッサは地獄だろうけど。
「ねぇ~? いいでしょ~? 私のことお母さんって呼んでよぉ」
「そ、それがしたくてミリーと私の結婚を勧めたんじゃないだろうなっ」
「んん~? そんなこと……ちょっとしか考えて無いよぉ」
「考えてたんかい!!」
このヘンタイめっ。いい趣味してやがる。
「お母さんって呼んでくれないと、ミリーとの初夜を邪魔しちゃうぞぉ~? このまま私と朝まで飲むのだぁ~」
「それだけは勘弁して」
おもわずマジトーンになってしまう。結婚初日に花嫁を待ちぼうけにさせたりしたら、一生頭が上がらなくなってしまう。ただでさえミリーは私から主導権を奪おうとあれこれ画策していると言うのに、初手でつまずくわけにはいかんのだ。
「んもうっ……て、テッサお母さん……これでいい?」
「んんんん~~~~~!!! いいねぇ!! 実にいいっ!!」
テッサはグラスのワインをぐっとあおり、その大きなお腹を満足げに撫でる。
「……つまりこの子は義理の娘との百合子作りでできた子なんだねぇ……うふふふふ」
「そ、そうなるねぇ」
普段はわりかし常識人なテッサなのに、お酒を飲むとどうしてこうなるのか。お酒って怖いわぁ。こうなるとアリーゼでもなかなか手に焼くからね。
そうこうしていると、そこに花嫁であるミリーがトテトテとやってきた。
「あ~、ママってばこんな酔っぱらってぇ」
「お~我が愛しの娘よ!! 結婚おめでとう!!」
「ありがとっ」
母親からの祝意にお礼を言うと、ミリーは私の腕にその手を絡ませて、その親譲りのたわわを押し付けてきた。うわぁい、おっきぃよぉ。
「アンリエッタママ、テッサママと何話してたの?」
「だ、だからママは止めてと言うに……」
「だぁめ、言ったでしょ? こうしたほうがアンリエッタママはドキドキするから、しばらくはママって呼ぶからねっ」
「こ、今夜もですか……?」
「勿論っ!!」
うへぇ、こいつぁ参ったなぁ。いきなりそういう趣向からですかい。いや、そう言うの嫌いじゃないけどね。
「その通りっ!! 我が娘アンリエッタよっ!! あなたは自分の娘を嫁にしたと言う事実を噛みしめるとよいのだっ!!」
「だまれぃ酔っ払い!」
「はっははは~! 早く私達に孫を見せてねっ!!」
「うんっ、勿論よテッサママ、私すぐにでもママの赤ちゃん欲しいもんっ。ね~ママっ?」
そう言いながら、さらにその大質量をぐぐぐぐぐぐぃっと押し付けてきた。いや、やめてくれ、今はまだ宴の最中で、生殺し状態になっちゃうから。
「うふふっ、私、アリーゼママからいいもの貰ったんだぁ~。楽しみだなぁ~」
ミリーはニマニマと笑いながら、私に体重を預けてくる。その顔は、勝ちを確信しているって顔だ。だが――
「いいものって……これでしょ?」
私はポケットから例の魔法薬を取り出した。そう、あのアリーゼから貰った体力増強の魔法薬だ。
「え、あ! ずるいっ! ママから貰ったのねっ!」
「いやぁ、勝負はフェアじゃないとね。これで互角だよっ」
「むぅ~~~っ、これでママは私のものだと思ったのにぃ」
「はっはっは、そう簡単に主導権は渡さんよ、娘よ」
「う~っ、いいもんいいもん! 絶対負けないからっ」
可愛いことを言いながら、その完璧な顔で私を可愛くにらんでくる。可愛いとしか言いようがない。
「うむうむ、良きかな良きかな。娘同士がイチャイチャしてるのは実にいい」
「あ、そっか、アンリエッタママってテッサママ達の娘にもなるんだ」
「そうなんだよねぇ」
「という事は、テッサママ達はアンリエッタママの妻にして母親……うわぁ、それってなんか凄くいいなぁ~」
ミリーがそんなことをのたまいながら目をキラキラさせている。イヤほんと、あなたってテッサ達の娘なのねぇ。
「でしょ~? いいでしょ~? 私、娘と結婚したことになるんだよ~」
そんなことを言いながら、私の妻にして私の母となったその酔っ払いは幸せそうにグラスを傾けたのだった――