第189話 【個別エンディング ノーラ】 百合神の神託
「ふぅっ、疲れました~」
「お疲れ様っ」
午前の務めを終えて休憩室に帰ってきたシスターノーラを、私はお茶とお茶菓子を用意して出迎えた。
「あっ、ありがとうございますっ」
ノーラは私の出迎えを見るとぱっと顔をほころばせて、大きなお腹をしたままトテトテとかけよってきた。
「来てくれたんですね」
「うん、ちょっと顔が見たくなって」
私と結婚してからもシスターとしての仕事を精力的に続けているノーラは、私との子供を授かったことにより今まで実体験が無かったという弱点を克服し、その結果相談件数はうなぎ上りになって国内でもかなり人気のシスターになっていた。
昇進の話も来ているそうだけど、やっぱり本人的には現場で恋バナを聞いてその相談に乗ると言うお仕事にやりがいを感じているらしく、当面昇進を受けるつもりはないらしい。
「はふぅ~。お茶が美味しいっ」
「でしょ? エメリアに習って練習したんだから」
「どうりで、とてもいい香りですね~」
目を細めながらお茶の香りを楽しんでいるノーラなんだけど……しっかしこの子、もう何人も私の子供を産んでくれているのに、ぜんっぜん容姿が変わらないんですけど。
もしかしてホムンクルスとかエルフとかっていうオチじゃないわよね? この世界にエルフがいるかどうかは知らないけど。
そんな私のまじまじと見つめる視線に気付いたのか、恥ずかしそうに頬を染めた。もう結婚して何年にもなるのに、この妻は何と初々しくて可愛いのだろうか。
「ど、どうしたんですかっ?」
「いやぁ~、相変わらず可愛いなって」
「も、もうっ、からかうのは止めてくださいって。私何歳だと思ってるんですか?」
「あとちょっとでさんじゅ――」
「あああああ~~っ!! 無し!! 今の無しで!!」
「そう? 気にすることないと思うけど」
だってこれこの通り、どこからどう見ても十代の少女にしかいまだに見えないもん。
そしてそんな少女にしか見えない女の子が、もう私の子を何人も産んでくれているんだと考えると、ちょっとドキドキするよね、未だに。
「お腹さわってもいい?」
「いいですよ~、どぞどぞ」
ノーラはその小さな体に不釣り合いなほど大きなお腹をさすさすとなでながら、私を招き寄せた。
「では遠慮なく~」
私がその大きなお腹に触ると、ちょうどいいタイミングで私の娘が元気にお腹を蹴ってきた。
「おおっ、動いた動いた」
「えへへ、この子もお姉ちゃんたちに負けず劣らずの元気な子ですよっ」
「うんうん、早く会いたいなぁ」
そうして愛しい妻のお腹をさすっていると、ふとした疑問が頭をもたげた。
「百合神って、女の子同士の恋愛全般を司っているんだよね、確か」
「はいそうですよ? この百合子作りの儀式も、神聖魔法によって百合神の力を降ろして、それを魔術で制御して子を成す儀式なんですから」
「ふむ……」
「どうかしました?」
いや、そもそもとして私は前世で一度遥と無理心中させられてこの世界に転生してきたわけなんだけど……それももしかして百合神のお導き、というやつなんだろうか?
私がこうして莫大な魔力を持って、女の子達を大勢嫁に迎えることができたのも、そうした百合神様のイタズラだったりするのかなってふと思ったのだ。
「その、百合神様と交信する手段ってないのかな?」
「し、神託ですか!? そ、それはなんとも大胆なことを考えますね……」
ノーラがギョッとしたような顔になっている。いや、その反応もごもっともなんだけど、気になってね。
「う、う~ん……神託ですか……神託を受けられるのはよっぽど高位の司祭じゃないとダメなんですよね」
「ノーラでも無理なの?」
ノーラは今でも現場にはいるものの、かなり高位の司祭であるはずだ。それでもダメなのだろうか。
「今の私では足りませんが……う~ん……でも、いっぱい子供も授かりましたし、もしかしたら将来的には……」
「あ、子供を持つとそういうのって上がるの?」
「はい。百合子作りで子供を授かると、百合神のご寵愛を受けやすくなると言われています。なにせ百合を司る神様ですから」
「ごもっともね」
百合を司る神様なら、百合の極致ともいえる百合子作りを積極的にしていたらそりゃ目をかけたくもなるよね。
「どうしても、神託が聞きたいんですか?」
「できるなら」
できるなら聞いてみたい。私がどうしてここにいるのかとか、それがあなた様のおかげなんですか、とか。感謝してもしきれないくらいの感謝も伝えたいし。
「そ、そうですか……で、では仕方ないですねっ、うんうん」
「ん?」
「そ、その……今言った通り、百合神のご寵愛は女の子同士で愛し合っている者ほど受けやすくなりますから……えっと……」
「あ、はいはい、そういうことね」
「はうっ……」
意図を察せられたノーラが頬を染めて俯いてしまう。よっぽど恥ずかしかったに違いない。
となれば、そんな恥ずかしい思いをしてまで告げてくれた妻の想いに応えねば妻の名折れってものよね。
「――じゃあ、ノーラ、午後は暇なの?」
「ふぇ!? ひ、暇、ではないですけど……あ、空けることはできますっ!! 午前中に頑張りましたからっ」
「そっかそっか、それじゃあ――しばらくぶりに2人っきりでデートしよっか」
私はそう言いながらノーラの手を取ると、ノーラはぱっと顔をほころばせた。
「は、はいっ!! ぜひっ!」
「うんうん、私どうしても百合神様に聞きたいことがあるからね~」
これは勿論建前というか、いわば口実というやつだ。だって実際のところはどうしても真実が聞きたいわけでもないし。だって今私すっごい幸せなんだから。
「そ、それじゃあ、いっぱいいっぱい、い~~~~~っぱい愛して頂かないといけませんねっ!! 百合神の神託を受けるなんて相当な偉業なんですから!!」
でもそれをわかって乗ってくれるノーラ、好き。
「そっかぁ、それじゃあ、ノーラ、覚悟してよ? 私、これまで以上にノーラのこと愛しちゃうからね」
「はいっ、覚悟しちゃいますっ、あ・な・たっ」
そして私は花のような笑顔を浮かべる愛しい妻の手を握り、街へと繰り出していったのだった――