第187話 【個別エンディング モニカ】 解決してない後継ぎ問題
「ねぇモニカ?」
暖炉の前で椅子に腰かけて、靴下を編んでいるモニカに私は声をかける。
「なぁに? アンリエッタ」
「跡取り決まった?」
私の質問に、モニカがしばし沈黙し――そしてゆっくりと口を開いた。
「決まるわけないでしょぉぉぉ!? 何人いると思ってるの!?」
「ですよねー」
「もう娘が4人だよ!? それにほら、これ見てよっ」
モニカは自分のお腹を指さすと……そのお腹は例によって大きくなっていた。
「ここにもいるんだよ!?」
「だってぇ、モニカが可愛いから仕方ないよね~」
「ん、んもうっ……アンリエッタのばかっ……」
跡取りが欲しいからと私との百合子作りをお願いしてきたモニカを嫁にして、もうしばらくたった。
しかしながら跡取り問題はこのように、別の意味で非常に難航している。
最初に産んだのが双子だったこともあり、とりあえず保留していたらこのようにモニカは多くの子供を産むこととなったので、余計に決められなくなったのである。
この世界では長女が継ぐと言う決まりでもないらしく、家長が指名した子供が跡を継ぐのが普通らしいのだ。
まだまだ子供たちは小さくて元気いっぱいに遊んではいるけれど、そのうちだれかを跡取りとして指名しないといけないわけで、モニカはそれに頭を悩ませているというわけだ。
しかもその候補が年々増えていくのだからさぁ大変というわけである。
「ど、どうせあれでしょ……? この子達を産んだら、またすぐに百合子作りするんでしょ?」
モニカがそう言いながら私のことを見つめてくるけれど、その顔は暖炉に照らされているだけでは説明できないほど、期待混じりで赤く染まっていた。
「もちろん、だって私モニカのこと愛してるし」
「そ、そんなはっきり言われると照れるよっ……」
「妻のことを愛してるって言って何が悪いのさ。何回でも言うよ。愛してるよ、モニカ」
「はうっ……」
私の子供を宿した愛しい身重の妻をからかう。こんな幸せなことがあるだろうか、いや無いに決まっている。
「それにモニカってば、どんなに仕事が忙しくても絶対に週に1回は私のところに来てたじゃん」
「だ、だってぇ……私もアンリエッタに可愛がって欲しいんだもん」
可愛いことを言ってくれる妻である。可愛い。
「他の奥さんたちが可愛がってもらってる間、私は仕事仕事で……すっごいストレス溜まってるんだから」
「まぁでもこんだけ大きな会社になっちゃったからねぇ、モニカが差配しないと立ちいかないでしょ」
「それはそうなんだけどっ……でももっと私もアンリエッタと愛し合いたいよぅ……」
「まぁまぁ、でも今のモニカには――マリアンヌもいるでしょ?」
「え、えへへ……ま、まぁねっ……」
実はかねてからマリアンヌに想いを寄せていたモニカは、ついにマリアンヌに想いを伝えてめでたく結婚していたのである。魔力容量はギリギリだったけど、マリアンヌが何とかしたって感じだ。
そして――
「あ、モニカ、ここにいたんだ」
「噂をすればね、マリアンヌ、今あなたのことを話していたのよ」
「私のこと? 何の話?」
トテトテと歩いてきたマリアンヌは、卒業時はかなりロリだったのが数年の月日によってホムンクルスの体も少しだけ背が大きくなっていたが……それよりもそのお腹も大きくなっていたのだ。そのお腹にいるのは、モニカとの間の娘である。
「いや、モニカとマリアンヌが結婚したことの話」
「そっか~。でもアレよね。モニカったらすっごい優柔不断だったわよね」
「だ、だってぇ~」
マリアンヌは卒業後、直ぐにクラリッサを口説き落として既にクラリッサとの間に一子を設けていた。
そんなラブラブな2人に遠慮していたのかしばらく切り出せなかったモニカだけど、そんなモニカの気持ちに気付いたクラリッサがおぜん立てして、ようやっと現在に至ったというわけである。
クラリッサ、いい女過ぎる。
「どう? 2人ってラブラブなんでしょ?」
「うんっ、ラブラブよっ」
そう言ってはにかむマリアンヌは、一週間のうち私のところで3日、クラリッサのところで2日、残りをモニカのところで過ごすと言う3人の嫁生活を満喫している。なんかお肌もつやつやだし、毎日楽しくて仕方ないって感じだ。
「マリアンヌのおかげで仕事もはかどるんだよね~」
「そりゃあ愛しい新妻が待っているんだもん、早く家に帰りたいって思うよね~」
「えへへ~」
もうデレッデレね、モニカ。
「あ、でも次は私、お母さまの子供を授かる予定だからねっ」
「はいはい、わかってるって、そう言う約束だもんね」
私とクラリッサ、そしてモニカの妻になったマリアンヌは、それぞれ順番で3人の子供を宿す約束になっていて、今はモニカの番というわけである。まぁクラリッサとは戸籍上実の母と娘だから事実婚なんだけど。
「でもよかったねぇ、モニカ」
「うんっ、私、欲しいものみんな手に入れちゃったよ」
会社もこれ以上ないってくらい大きくなったし、跡取りは誰を選ぶか困るくらいできたし、私やマリアンヌという妻までできたわけだし。
「それもこれも、みんなアンリエッタと出会えたおかげだよ」
「どうだろ? モニカの才覚なら私の手助けが無くてもきっと成功してたと思うけど」
「それもそうだけど、それ以上にこうしてお母さんにもなれたし……何て言うかさ、アンリエッタは私に幸せを運んできてくれたんだよ。だからさ――」
モニカは私のことをまっすぐに見つめてこう言った。
「これからも、ずっとずっと一緒だよ、アンリエッタ、マリアンヌ」
「勿論だよっ」
私は愛しい妻に力強く答える。
「跡取りについてもっともっと困らせてあげるからねっ」
「あ、あははは……ほんとどうしようねぇ」
そしてモニカは頭をかきながらも、幸せそうに微笑んだのだった―