第186話 覚悟していますとも
「いよいよ今日で卒業かぁ……」
私は卒業式の会場で椅子に座りながら感慨深げに呟いた。
前世で遥に無理心中させられてこっちの世界に転生してきてもうほぼ丸3年。
思えばいろんなことがあったなぁ。
一番大きかったのが……これよね。
「もうすぐだね」
「はいっ、後ひと月もたたずに産まれますよっ」
私は隣に座りながらニコニコと幸せそうに微笑むエメリアのお腹を撫でた。そのお腹はとても大きくなっており、ここに私とエメリアの子供が3人もいるんだという事を改めて実感できた。
――そう、私がママになるのだ。しかも相手は私が大好きな女の子で、女の子同士で子供を作れるというのがこの世界で一番素敵なことなのだ。
前世でも大勢の女の子達に囲まれてはいたけれど、こうしてママになることは出来なかっただろうし、それを考えると本当に私のためにあるような世界だと思うよ。
「私のお腹も撫でて下さいよ~」
感慨にふけっていると、もう片方の隣に座っているシンシアもお腹を撫でるようおねだりをしてきた。
この子が、私がこの世界に来ることになった原因となった遥だと知った時は本当に驚いた。もっとも本人も最初は全然気づいていなかったらしかったらしいから、きっとこの子も最初は驚いたんだろうなぁ。
「ふふっ、シンシアのお腹もおっきぃねぇ」
「それはそうですよ~。『お姉さま』の赤ちゃんがここに3人もいるんですから……私、本当に幸せです」
2人きりの時にしか使わない『お姉さま』呼びを敢えてしたのは、シンシア――遥も私同様に感慨深いからなのかもしれない。
私のことを独り占めしたくて、無理心中を図るくらい私のことを愛してくれていた女の子。
それがこうして私の嫁となって そのお腹に私の子供を3人も宿すことになるなんて、前世では夢にも思っていなかった。まさに奇跡である。
「お姉さまっ……」
シンシアがキスをねだるように、私の腕にしがみついてそのたわわ過ぎるたわわを押し付けてきたので私はそれに応えてキスをしてあげる。
「幸せ過ぎて怖いくらいですっ」
「私もだよっ……遥」
遥、の部分は他に聞こえないようにそっと耳打ちをする。これは2人だけの秘密なのだから。
「あああっ、ずるいっ、私もキスしてくださいお嬢様っ」
「わかったわかった」
私とシンシアがキスをしているのを見たエメリアが、負けじと私の腕にシンシアと並ぶたわわを押し付けてきた。
「ほら、目を閉じて?」
「はいっ……」
私はそっと目を閉じたエメリアに、優しくキスをした。思えば右も左も分からないこの世界で、エメリアがいたからやってこれたんだよねぇ。
私に献身的に尽くしてくれて、愛を注いでくれた女の子。私が間違いなくこの世界で1番に好きな女の子。その子とこうしてこの日を迎えられたことを感謝せずにはいられない。
「ぷはぁっ……」
口を解放されたエメリアがうっとりとした顔で私を見つめてくる。
「お嬢様っ……」
「こらこら、まだ式が始まってもいないんだよ? これだけで我慢しなさい」
まだまだ足りないって顔だったけど、両脇にずらりと並んで座っている私の嫁達が物凄~く羨ましそうな顔で見てきているから、ひとまずこの辺でね?
流石にもう式が始まりそうだから席を立ってキスをして回るわけにもいかないし、式が終わるまではお預けである。
「むぅ~っ、それもそうですけどっ」
「式が終わったら、いっぱいしてあげるから、ねっ?」
「約束ですよっ? いっぱいいっぱいキスしてくださいねっ?」
私から言質を取ったエメリアが物欲しそうな目で見つめてくる。いやいや、そんな目をされるとまたキスしたくなるから勘弁ね。
そんなエメリアの視線から逃げるように周りに目をやると、そこにはこの卒業シーズンのユリティウスの風物詩とも呼べる光景が広がっていた。
「改めてなんだけどさ、皆お腹大きいねぇ」
「それはそうですよ~。卒業に合わせて百合子作りをするのが普通ですし~」
そう、周りに座っている子達の実に半数弱程が大きなお腹をしているのだ。このユリティウスには魔力に優れた子達が集まる、いわば国内有数のお見合い会場なので生徒たちは卒業までに大抵お相手を見つけるのである。
そして、卒業に合わせて百合子作りを行うのでこうして卒業式ではこのように大きなお腹の女の子達であふれかえるというわけだ。
もちろん1年次とか2年次とか在学中に子を成すカップルもそこそこいるけど、大抵はこの卒業シーズンにも合わせてくる、いわばこの学園の伝統のようなものなのである。
「あ、ほら、先生達があそこにいますよ」
「ほんとだ、あ、アリーゼ先生とテッサ先生……それにシスターノーラ」
列席する先生達の中にもお腹の大きな先生はいたけれど、その中でもひときわ大きなお腹をしているのが私の妻である両先生とシスターノーラだった。
だって3人ともお腹の子は双子ちゃんだもんね。3人とも遠目に見ても幸せそうな顔をしているのがわかって嬉しかった。
「それにしてもやりますよね~。まさかユリティウスの教師2人とシスターまで嫁にしちゃうんですもん。結構話題になってましたよ?」
「そうなの?」
「そりゃそうですよ。アリーゼ先生は魔力の腕に加えてあの美しさ! アタックして玉砕した子は数知れずって言われてますし、テッサ先生はアリーゼ先生以外には見向きもしませんでしたからね。それはアリーゼ先生も同様なんですが」
「シスターノーラは、赴任早々にお嬢様の嫁になることが決まりましたからね。そっちでも話題でしたよ?」
「なんて?」
「噂のロリっ子シスターが速攻であのアンリエッタに食べられたって」
間違ってはいないけど!! 言い方!!
「それ以来お嬢様にロリコンの称号が与えられたそうです」
「ああ、うん……それは、まぁ覚悟してたし……」
その上ミリーとの婚約も発表したからね!! もうヤケである。
「大丈夫だよアンリ!!」
ロリの話を聞きつけたロリコンのルカが話に入ってきた。ほんとロリが好きな奴だ。
「ほらよく言うじゃない? 『ロリが好きなんじゃない! 好きになった子がたまたまロリだったんだ』って!」
いや、よくは言わないけどね?
それにルカよ、あなたはたまたまロリだった、じゃなくてただただロリが好きなんだろうがい。
「はぁ……ちっちゃい子っていいよね~」
ルカはどこから連れてきたのか、嫁にする予定であるナデシコを抱っこして頬ずりまでしている。
おまわりさーーーん!! ここにロリコンがいますよぉぉぉ!! ただこの世界の法ではルカは罪に問えないのだ。なんてこったい。
「もう、ルカってばはしたないですわっ」
そのルカの隣に座ったクラリッサが軽くたしなめる。が、
「あ、私的にはクラリッサもロリの範疇だよ」
「なんでですの!?」
「だってそんな見事な大平原、そんじょそこらのロリでもお目にかかれないし」
「ぶっ飛ばしますわよ!?」
「あれっ? 未来の嫁をぶっ飛ばすの?」
「ぐっ……!!! こ、このっ……最近手ごわいですわっ……!!」
最近かなりいい仲になってきているだけあって、夫婦漫才に磨きがかかってきたこの2人である。
「ふっふ~ん、お母さまの負け~。惚れた弱みってやつだよね~」
「も、もうっ、マリアンヌったらっ……」
娘からもからかわれてクラリッサが頬を染めているけど、そのあなたの娘さん、あなたのことも狙っていることに気付いてあげた方がいいと思いますよ?
まぁそのうちクラリッサはマリアンヌに落とされるんだろうけど。戸籍上は実の母と娘だから結婚は出来ないんだけどね。
「あ、モニカだ」
観客席にモニカの姿を見つけた私が手を振ると、モニカも手を振って返してくれた。会社で忙しいだろうにわざわざ来てくれてありがたいことだ。
在校生の席にはサリッサの姿を見つけた。この子だけなのよねぇ、私が在校生と子供をもうけたのは。これからの学生生活を子供持ちで送ることになるので、しっかりと学外からサポートしていかないとね。
「コーデリア様達もいらっしゃいますね」
「あ、ホントだ……ってあれ」
何かよく見たらコーデリアとディアナ、仲良さげに手を繋いでない? これは怪しいなぁ~? もしかして、一線超えちゃったのかしら? 後でキッチリ問い詰めないと。
「思えば遠くまで来たものねぇ……」
改めてしみじみと呟く私に、両隣りに座る愛しいメイド2人がその手をそっと乗せてきた。
「まだまだ、私達の生活はここからがスタートなんですよっ」
「そうですよ~? もっともっとい~~~~っぱい愛していただきますからね~? 覚悟しててくださいよっ」
「もちろん、覚悟していますとも。全身全霊であなた達を愛していくからねっ」
私が覚悟のほどを告げると、2人は満足げな顔をして――
「はいっ、期待してますよっ、アンリエッタっ」
「期待してますよ~、お姉さまっ」
――私の両頬にキスをしてきた。
そして私は愛しい嫁達に囲まれて、今日この日、学園を卒業したのだった――
お読みいただき、ありがとうございますっ!!
これにて本編は完結いたしまして、後は個別エンディングになります! あともう少しだけつづくんじゃ。
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