第183話 私にとってはまさに天国
「……は? お嬢様、今なんておっしゃいました?」
私からの提案に一同がポカンとする中、いち早く混乱から立ち直ったエメリアが私に聞き返してきた。
「だからね、この子も私の嫁にすることにしたの。将来的にだけど」
「……この子って……えええええ!?」
エメリアが大きな声を上げ、周りの皆もそれに続く。驚いていないのはアリーゼ先生とテッサ先生だけだ。
でもそれも無理もないよね。だって私がこの子、と呼んでいるのは今私の膝の上に乗ってはにかんでいる――
「そう、私もアンリエッタのお嫁さんにして貰うことになったんだ~えへへ」
まだ4歳にしかなっていない小さな女の子のミリーなのだから。
「あ、アンリエッタ、本気ですの!?」
「わ~、流石はアンリエッタ様、やりますねぇ~」
極めて常識的な感性を持つ優等生なクラリッサが当たり前の反応をして、私の過去を知っているシンシアが腕を組んでうんうんってしているのが対照的で面白い。
そしてルカ、親指を立てて「同士よ!!」って顔してるのやめれ。
違うからね? 私が好きになったのはあくまでも16歳の姿になった時点でのミリーだから。決してこの4歳の小さなミリーに惚れたわけじゃないからね?
そこがロリコンの君とは違うんだよ。
「まぁそういうわけですので、皆さんに集まってもらったんですよ」
「そういうことっ」
そう言いながらアリーゼ、テッサの両先生が私の側にやってきた。アリーゼ先生の腕にはミリーの妹であるロゼッタも抱かれている。
「新たな嫁がハーレムに加わるわけですから、皆さんの前でお披露目しませんとね」
「え、いや、でも先生……? ミリーちゃんってその……私よりはるかに小さいですよね……?」
そう言うのは、魂年齢こそ200歳以上なものの、肉体年齢的には12歳前後にして大きなお腹をしているという、背徳感溢れる見た目のマリアンヌである。
そのマリアンヌよりもこのミリーははるかに小さいのだからそのリアクションも当然と言える。
「そうね、でもこの子がアンリエッタのお嫁さんになりたいっていうから、親としては子供の幸せを願うものでしょ?」
「うんっ、私、ずっとアンリエッタのお嫁さんになりたかったんだ~」
ニコニコと笑っているアリーゼ先生とミリーに、クラリッサが待ったをかける。
「そ、それはそうですけど……!! それにしたって年が……!!」
「そうは言いますけどクラリッサさん、大貴族のあなたならお分かりでしょうけど、貴族ならこのくらいの年で許嫁がいても全くおかしくないでしょう?」
「っ……!! それは確かにその通りですわ……」
ぐうの音も出ないところを突かれてクラリッサが言葉に詰まる。そう、一応アリーゼ先生達って貴族なんだよね。そこまで爵位は高くないけど。
「それでも早すぎですわ……!!!」
「えええ? 今確かにその通りだって――」
「そ、その年でそんな――百合子作りなんて!!」
「してないよ!?」
え? 何? みんながそんな目で見ていたのはそう言う事なの!? 私そんなケダモノみたいに思われてたの!? しょっく!!
「え? してないんですか? お嬢様」
「してないわぁ!!!! するわけないでしょ!? こんな小さな子に!!」
「ええ~。でもお嬢様、女の子大好きですし……もしかしたらこんな小さな子もその毒牙にかけちゃったのかと……」
「かけてないよぉ!?」
エメリアさん!? もうちょっと妻のことを信用して欲しいんですけど!? いや、ある意味信用しているとも言えるのか!?
「私、確かに女の子だいっ好きだけど、卒業まで百合子作りとか我慢したじゃん!! それくらいの分別はあるんだよ!?」
「それはまぁ、確かに」
「でも私、付き合ってすぐにお嬢様の子供を身ごもりましたけど」
「い、いや、サリッサはすぐ子供欲しいって言ったじゃん」
お姉ちゃんとお揃いがいいと言ったのはサリッサで、それ故に付き合ってほぼ最速でその身に私の子を宿すことになったんじゃないか。
「えへへ、そうでした」
「でしょ? まったくもぅ」
てへへと笑いながら、サリッサは自分の大きなお腹を優しくなでている。この子との愛も徐々に深まっているのを感じていて、2人っきりで朝を迎えるのもそう遠くないのかもしれないと思っている今日この頃である。
「じゃあ、まだ何もしてないの?」
「………………」
それまでじっと話を聞いていたモニカから、鋭いツッコミを受けた私はそっと目を逸らす。
「アンリエッタ?」
「そ、添い寝を……」
「アンリエッタってば隣で寝てくれたの!!」
ミリーはそう言いながら私に嬉しそうに抱きつく。いやでも待ってくれ、このくらいの年の子に添い寝をしてあげるなんて別にやましいことでもあるまい。
寝る子は育つともいうし、そう、添い寝くらいならセーフセーフ。
「他には?」
「え、いや、その、えっと……」
「ほ・か・に・は?」
「ち、ちゅーを……」
「えへへ~、ちゅーして貰っちゃった~。アンリエッタったら『私から手を出すからね』って言って私のことを抱きしめて――」
「そうだけど!! その言い方だとちょっとアレだよ!?」
確かにちゅーしたけど、ちゅーって親愛的な表現でやることもあるわけで……いや、この子とは愛情でキスしたわけなんだけど……でもちゃんと大人の姿だったもん!!
だからせー……せーふ……? いやセーフに決まっている!!
「ちゅ、ちゅー……!!」
「い、いや、成長薬で大きくなった姿に、だからね!? ちっちゃいミリーとはしてな――」
「んちゅ~~」
……キスされてしまった。小さいミリーに。みんなの前で。これは言い逃れ出来ないです。
「アンリっ……!!」
だからルカ、親指立てるのやめれと言うに! 君と違って私はロリコンじゃないんだよぉぉ!! 断じて違うんだ――
「んちゅぅ~~~~」
違うんだよぉぉぉ!?
「と、とまぁそういう訳でね!!」
私はこのままだと何回ちゅーしてくるかわからないミリーを膝から下ろして立ち上がった。
「誤魔化した……」
「誤魔化そうとしてますね……」
「そういう訳で!! 将来的にだけど、この子と結婚することになったから!! みんなもカノ友としてよろしくね!!」
「えへへ~、改めまして、アンリエッタと将来結婚することになったミリーですっ! よろしくお願いしますっ!」
私の膝からぴょこんと降りて、ミリーはぺこっと可愛くお辞儀をした。
「アンリエッタって呼ばせているんですね」
エメリアが可愛く焼きもちを焼いている。でもエメリアは焼きもち焼いているときが一番可愛いのぅ。
「え、いやだって、将来結婚するのにママって呼ばせたままだとさ」
「だと?」
「……そういうプレイみたいじゃん?」
「プレイも何も、もう既にミリーちゃんはお嬢様の戸籍上の娘になるんですけど」
「うぐっ!!」
改めて、自分の娘を嫁にすると言う事実を突きつけられて前世の倫理観的にダメージを食らう。
しかもその母親『達』までもが私の嫁なのだからその背徳感たるや半端ないものがある。そこがいいんだけど。
「母娘揃って嫁にできるんですから、ホント凄いですよね~」
シンシアのその言葉の最後には「この世界って」が隠れているだろうことは私だけが分かった。
イヤ、ホントこの世界凄いわ。私にとってはまさに天国ね。
「ああそうだ、ちなみに……」
すやすや寝ているロゼッタちゃんを抱いたアリーゼ先生が含み笑いを見せる。あ、なんかアレな予感が……
「この子もアンリエッタと婚約してもらう予定なので、皆さんよろしくね」
「ええええええ!?」
その子!! まだ!! ホントに赤ちゃんなんですけど!?
「だって、私達がアンリエッタの嫁になるのに、この子だけ仲間外れってのも可哀そうよね?」
あああああああ!? そう来る!? そんなん言われたら断れないじゃん!! 保留中だったのにぃぃぃ!!!
「わ、わかりました……。婚約……させてただきます……」
「うんうん、それでいいんですよ、アンリエッタさん」
もう何と言うか、アリーゼ先生にはこの先も勝てないんだろうなぁと思わされた1日だった――