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第181話 ロリコンの慟哭が響き渡った

「よしよし、順調順調」

「えへへ~」


 私は嫁達とそのお腹の子供に会いに来るというのを最近の日課にしていた。嫁達のお腹の中ですくすくと育っていく我が娘の様子を見るのがもう楽しみでしょうがないのだ。

 それで、今はルカの番というわけなのである。

 ルカは大きなお腹をさすりながら椅子に座って、私にお腹を撫でられながら実に幸せそうな顔をしている。もう蕩けそうな笑顔とはまさにこんな感じだろうなって思う。


「アンリ、私、今生まれてきて一番幸せだよっ」

「それ毎日言ってない?」

「だって、毎日この子達が大きくなってるんだもん、そりゃ今日より明日、明日より明後日がより幸せに決まってるよねっ」


 当たり前でしょって顔でルカがえっへんと胸を逸らすと、出会った頃はあんなに大平原だったのに今ではもうかなりの山脈となったたわわがゆさりと揺れた。

 ある意味一番変わったのはルカよね。ちなみに一切変わってないのがクラリッサだ。


「おっきぃね~、ルカママ、触ってもいい?」

「いいよいいよ~、触って触って」

「わぁい!」


 一緒に連れて来ていたナデシコが、喜々としてルカのお腹にべたっと抱きついて頬ずりをした。

 もう身長は70センチほどになっているナデシコは、背中に羽は生えてるけど外見的には人間の子供と大して変わらない感じである。

 そんなナデシコに抱きつかれてルカは――


「うへへへ~」


 だらしなく頬を緩めていた。やっぱりこの子……


「ねぇルカさんや?」

「なぁに? アンリ?」

「最近モテモテらしいね?」

「え、あ、う、うん……まぁね~」


 ルカは照れくさそうに頬を染めながら顔をそらした。


「そ、その……シンシアと、クラリッサから……えっと……よ、嫁になって欲しいって言われてて……」

「へぇぇぇ~」


 シンシアはずっと前からルカのことが好きだった節があるからねぇ。なんかこう、自分のお嬢様の次にからかうのが好きって言うか。好きな子ほどいじめたくなる的なというか。

 でも私にはあまりイタズラしてくれないのよねぇ、シンシア。なんでも私の言う事を聞いてくれると言うか、私に尽くすのを至上の喜びにしているようなところがあるのよね。

 どんなことをお願いしても「はい、わかりました。アンリエッタ様」って笑顔で何でもしてくれるのだ。

 まぁ思えば前世の『遥』も私に徹底的に尽くしてくれる子だったし、私の前では『遥』になっているんだろうと思う。いたずらっ子はこの世界の『シンシア』としての一面なのだろう。

 でも隣の芝生は青く見えるとは言うけれど、私もシンシアにイタズラされたいなぁ、とか思わなくもない。人間贅沢なものである。


「そうなんだ~。まぁ、クラリッサとはしょっちゅう一緒に寝てるもんねぇ」

「へ、変なことはしてないよ!? 一切、誓って!!」

「えええ~? あっやしいなぁ~??」


 女の子を抱っこしていないと眠れないというクラリッサは、私と付き合う前はずっとシンシアを抱っこして寝ていた。

 それが、シンシアとクラリッサが私の彼女になったことで、シンシアと私だけで夜を共にする時は1人で寝ないといけなくなってしまった。

 そこで選ばれたのが親友であるルカであり、1人で眠れないクラリッサに抱っこされに行っていたというわけである。


「3年間のうち、3分の1くらいはクラリッサと夜を共にしたんじゃない?」

「そ、そう言う言い方するとえっちだけど……!! な、何もないからねっ!」

「ほんとぉ~?」


 まぁルカの反応的に本当だって分かってはいるだけど、それでもルカはからかうと楽しいからついついいじめてしまう。

 シンシアの気持ちがよくわかるわ。


「ほ、ホントだって!!」

「キスとかしてないの?」

「キスもしてないよ!! ……い、一緒にお風呂入って流しっことかはしたけど、でもキスは一切してないよっ!!」


 そっちの方がアレな気もするが、ひとまずスルーだ。


「だ、だってクラリッサ、布団に入って私を抱っこするとすぐに寝ちゃうんだもん!! 3年間ずっとそうなんだよ!? 私の気持ちにもなってよぉ!!」

「あ、うん、それは、なんというか……」


 一緒に寝てくれるよう頼まれるほどの間柄だと言うのに、その相手と来たら自分を抱きしめながら1人さっさと寝てしまうのだ。

 その時のルカの気持ちはなかなか複雑極まりないものがあるのだろう。


「え、3年間で、全く何もないの? それだけ寝てて? ちょっとくらい何かない?」

「無いよぉ!!」


 うわぁ……クラリッサ、なかなかえぐい。それならルカから攻めてやればいいと思うんだけど、ルカはこんなボーイッシュな感じなのに中身は完全な乙女で、徹底的に受けタイプなのだ。

 クラリッサも完全に受け、それはまぁ進展しようも無いか……


「キスとかおねだりしてみたの?」

「う……そ、それは……何でしないのって聞いたことはあるけど……」

「それで? それで?」


 ルカは深くため息をついてこう言った。


「『そんなハレンチなこと、婚約してないといけませんわ』だって」

「おぅ……」


 クソ真面目だなぁ、クラリッサ。もうすぐ2児の母になると言うのに。


「でも、結婚は申し込まれたんだよね?」

「う、うん……『そろそろ卒業ですし、わたくし達も結婚しましょうか』って……!! 私のこれまでの悶々を返して欲しいよぉ!! そんなふうに考えてるなら早く手を出して欲しかったよぉ!!」

「あ~。うん、ご愁傷様です」


 何ともはやとしか言いようがない。まぁ恋愛にはいろんな形があるよね。


「で? 受けるの? 2人からのプロポーズ」

「え、あ……えっと……う、うん……アンリが許してくれたら、受けようかなって思ってる」


 ハーレムメンバー同士の結婚は、ハーレム主の許可を取るべしって一応決まりがあるらしいけど、ほとんど形骸化してるらしいんだよねぇ。

 昔ならいざしらず、自由恋愛の昨今では特にハーレム主が許可とか出さなくても普通に結婚とかしてるそうな。


「私は勿論賛成だよ。ハーレムメンバー同士仲がいいのが何よりだからね」


 エメリアは私の専属嫁だからダメだけどね。


「そ、そう、じゃあ……この子達を産んだら、結婚しようかな」


 うんうん、良きかな良きかな。

 さて、それはともかくとして本題に入らないとね。そのためにナデシコを連れてきたわけだし。


「ところでルカ?」

「え? なぁに?」


 話が終わったと思って油断しているのか、ルカはナデシコに抱きつかれてデレデレとしていた。

 だがそのナデシコのことで話があるんだよルカ君。


「ルカ――他に好きな子いるでしょ」

「えっ……!!!」


 不意打ちを食らったルカがぎょっとした顔になる。もう完全に思ってもみなかったところから攻撃されたって感じの反応だ。


「な、何のことかな……!? よ、よく言ってる意味が……」

「ほほう……じゃあ君のこの顔は何なのかなぁ?」


 私はこっそりと録画していた写し絵――映像記録用の魔道具――をルカに見せつける。

 そこには、ナデシコに抱きつかれて頬を緩め切っているルカが映っていた。


「うぐっ……!!!!」

「ルカ、貴方は嘘をついている……!!」

「な、なななな、何を言って――」

「ルカ、あなた――ナデシコのこと好きでしょ?」


 私はニヤニヤを抑えきれていないのを自覚しながら、ルカにその事実を突きつける。


「なっ……!!!!」

「これが何よりの証拠よ」


 私はルカを追い詰めるように、今もなお突き付けている写し絵の画面部分をコツコツと指で叩きながら、次々と画像を切り替えて見せつける。

 そこにはどれもこれもデレデレしきったルカが映っていた。


「そ、それは、ナデシコは私の娘でもあるんだよ!? そ、そりゃあ頬も緩むってものだよ――!!」

「意義あり!! これは娘に抱きつかれて喜ぶ母の顔ではありません!! これは好きな子に抱きつかれて喜ぶ女の子の顔です!!」

「ぐぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 間髪入れずに容赦ない指摘をされたルカが悶絶する。


「う、うぐぐぐぐ……」

「ほらほら、ルカ、ゲロって楽になっちゃいなよ……?」


 私はルカの肩に手をかけて、優しく諭すように返事を促す。そしてもう逃げきれないと判断した被告――じゃなくてルカがポツリポツリと喋り出した。


「ううっ……そうだよぉ……ナデシコのこと好きだよぉ……」


 やっぱりか、このロリコンめ!! ……まぁ私が言えた台詞ではないが。


「ルカママ、私のこと好きなの? 私も大好きだよっ!!」


 ナデシコが純粋な笑顔をしながらルカの膝に抱きつくけど、今のルカには痛恨の一撃だろう。


「違うんだよ~? ルカの好きと、ナデシコの好きはちょっと違うんだよ?」

「そうなの? どう違うの?」


 ナデシコはキラキラとした好奇心いっぱいの瞳で私達を見つめてくる。


「それはね~」

「まって、アンリ」


 説明しようとした私を遮り、ルカがナデシコに向き直った。


「わ、私……!! ナデシコのこと好きなの!!」

「私も好きだよ?」

「そ、そうじゃなくて……!! いや、そうなんだけどなんて言うか、その……!!」


 ルカはしばしの間頭をガリガリとかくと、覚悟を決めたように私を真剣な目で見つめる。


「アンリっ……!!」

「なに?」


 ルカは、そこで深く深呼吸をして、呼吸を整えて、私にこう言ったのだ。


「お嬢さんを――私に下さいっ!!!」

「ぶっ!?」


 そう来るかぁ!! ちょっと驚き。


「な、ナデシコまだ2歳にもなってないんだよ?」

「だって好きなんだもん!!」

「ろりこん……」

「しょうがないじゃん!!! だって好きなんだもん!!」


 大事なことなのでルカは2度言った。


「ほうほう……まぁ私はルカにならナデシコをあげてもいいと思ってるけど……あとはナデシコの気持ち次第だね」

「ほぇ?」


 何かよくわかってない感じのナデシコである。しょうがないよね、だってまだ2歳にもなってないし。


「えっとね、ルカママがね? ナデシコをお嫁にしたいんだって? どう?」

「私を……お嫁に?」


 ポカンとしているナデシコを、ルカは食い入るような目で見つめていて――


「いいよ。私、ルカママ好きだもん」

「い――ぃやったあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 オッケーの返事を貰えたルカがその場で飛び上がった。

 良かったね、これでルカも立派なロリコンの仲間入りよ?


「ありがと!! アンリ!!」

「いやいや、いいってことよ」


 私は恋する女の子の味方なのだ。


「ナデシコ、私、元気な赤ちゃん産むからねっ」


 あ、そっちなんだ……。徹底してるというかなんというか。


「あ、でもまだナデシコ生殖能力ないよ?」

「えっ」


 ルカが呆然とした顔をした、いや、そんな顔されても。


「いや、『えっ』もなにも、まだ2歳にもなってないって言ってるでしょ?」

「だ、だって……!! マリアンヌは1歳にもなってないのに子供出来たでしょ!?」

「それは、魂年齢が200歳とかだったからだよ? ナデシコはガチの生まれたてだから」


 成長の早いホムンクルスと言えど、百合子作りの術式の行使には少なくとも数年はかかるだろう。

 そもそもこんなガチの子供にはそういうことは早すぎるでしょ。私の倫理観的に、そして母的にも許可は出せんなぁ。


「そ、そんな……!!」

「まぁそういう訳で、そういうことはしばら~くお預けね?」

「そんなぁぁぁぁぁぁ……!!!!」


 部屋の中に、ロリコンの慟哭(どうこく)が響き渡ったのだった――


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