第180話 ま、まっかせろ~
「あれっ? サリッサ?」
「どもども~」
私はシスターノーラの様子を見に教会までやってきたら、そこにちょうどやってきたサリッサと出くわした。
「ここで何してるの?」
「何をと言われましても、礼拝をしに来たんですけど」
「そうなんだ」
「そうなんですよ。サリッサさんは熱心な百合神の信奉者ですので」
「あ、ノーラ」
話している私達を見つけたシスターノーラがとてとてと歩み寄ってきた。極めてロリな体形に対して、その大きくなったお腹のせいでだいぶ歩きにくいんじゃないかと思ったけど、そこは厳重にかけられている保護魔法のせいで足取りは軽い。
術をかけてくれたアリーゼ先生曰く、ほとんど子供を宿す前と同じ感覚で生活できるらしい。魔法さまさまというやつである。
「こんなところで立ち話もなんですので、奥でどうぞ」
「じゃあ、お邪魔します」
「私も~」
そして通された応接室で、私はシスターノーラの隣に腰かけてそのお腹をさすった。
「う~ん、大きくなったねぇ」
「えへへ、ありがとうございます。元気な双子ちゃんで、よく動くんですよ」
「どれどれ?」
私は愛しい妻のお腹に顔を当てると、それが分かったのかのようにお腹の中で赤ちゃんがお腹を蹴った。
「おおおっ! 動いた動いた! 元気だねぇ」
「もう毎日元気いっぱいですよ」
「楽しみだなぁ、早く会いたいよ。お~い、ママですよ~」
お腹の赤ちゃんに声をかけると、これまた聞こえたかのようにお腹で赤ちゃんは元気に動く。いやはや、本当に元気な子達の様だ。
しかし……この小さな体で私の子を2人も身ごもっているとは、なかなかに背徳感溢れる絵面だ。いやまぁれっきとした成人女性だし、何の問題もないのではあるがそれでも、ねぇ?
「アンリエッタ、私のも触ってくださいよっ」
そんな仲良くしている私達が羨ましかったのか、もう片方の隣に座っているサリッサが甘えるように声をかけてきた。
「うんうん、もちろんだよ」
私はこれまたサリッサのお腹を優しくなでると、この子も元気にお腹を蹴って反応してくれる。
「おお~、こっちも元気だねぇ」
「ふふん、でしょ~?」
サリッサが、そのエメリアに負けず劣らずの見事なたわわを揺らしながら「えっへん」と胸を張る。
しかしこうして私の子を宿した女の子に挟まれていると、何とも言えない幸福感を感じるよねぇ。
つくづくこの世界って最高だと思う。まさに私のためにあるような世界だ。
「今お腹にいるのは1人ですけど、次に百合子作りするときは多分双子ちゃんになりますね」
「そう?」
「はい、今からその予感があります」
そういうものかなぁ? 今回はたまたま……いや、彼女歴が長かった子達はみんな双子かそれ以上だったし、そう考えると次はそうなるのだろうか。
仲が深くてかつ高魔力の百合子作り主導者――この場合私のこと――の場合、双子以上になりやすいと言うのは俗説だと言われてきたらしいけれど、ここまで明確な結果が出ると真実だとしか思えない……
「だって、私とアンリエッタ様、凄く相性いいじゃないですか」
「うん、まぁそれは認める」
だってこの子、私の愛するエメリアにほんとそっくりなんだもん。性格こそかなりはっちゃけているけど、それ以外は瓜二つというやつなのだから、相性がいいに決まっているのだ。
「でも、サリッサって一番好きなのエメリアでしょ?」
「はい、それはそうです」
即答された。私の子をお腹に宿しているのにである。でもこうもきっぱり答えられるとかえって悪い気はしないから不思議なものだ。
「だってずっとずっと片思いしてたんですよ? だから百合神様への礼拝も欠かしたことはありませんし」
「百合神は片思いの女の子の味方ですから」
そう言えばそうだったけど、シスターノーラがそう言う割にはご利益が……いや、結果的には想いを遂げているんだからご利益はあったと言うべきなんだろうか。
だって結局姉とはカノ友になれて、私の相手をする時は必ず姉と一緒という約束まで取り付けたのだし、サリッサ的には大勝利と言っても間違いは無いだろう。
「なので婚約して、お腹に子供を授かったとしてもそうはなかなか想いを断ち切るのは難しいですよ」
「うん、まぁ気持ちはわかるけど」
「あ、でもお姉ちゃんと百合子作りするのは諦めてますから、そこは安心してください。前にも言いましたけど流石に専属嫁の契約をされたら、それで食い下がるのは野暮ってものです」
このさっぱりしたところがエメリアとはまた違った魅力なんだよねぇ。エメリアは、こう、何と言うか凄く情熱的だから。
「それに……私の中での好感度はアンリエッタ様が愛しのお姉ちゃんを猛追してるんですよ? 気付いてます?」
「あ、うん、それは何となく」
最近ものすご~くサリッサがベタベタしてくるようになったのだ。それこそ妹にエメリアが焼きもちを焼くほどに、である。
「いやぁ~私もびっくりなんですけどね、お腹の子が大きくなるにつれてなんかこう……そのお母さんであるアンリエッタ様も一層愛おしく感じられてきまして」
「私も、サリッサのこと好きだよ」
「えへへ……照れますねぇ」
サリッサはポリポリと、赤くなった頬をかいた。可愛いやつである。
「ま、そういうわけなので、これからも末永く私のことを可愛がって下さいねっ。専属メイドではありませんがお姉ちゃんに負けないくらい、誠心誠意お仕えしますので」
「お仕えって、サリッサは私のメイドである以前に妻なんだからね? そこは忘れないでよ?」
「あはは、それもそうでした」
「うんうん、仲が良くて何よりです」
ニコニコとしながら話を聞いていたノーラがうんうんと頷いている。女の子同士の恋愛を司る神様に仕えているだけあって、この手の話は大好物なようである。
「ノーラも、愛してるよ」
「えへへ……嬉しいです」
腰に手を回して抱き寄せてあげると、ノーラは嬉しそうに目を細めて私に寄りかかってきた。
「私、元気な赤ちゃんを産みますねっ」
「あ~それなんだけどさ……ちょっと不安なのが、その……ノーラ体小さいじゃない?
「はい。それが何か?」
ノーラは不思議そうに首を傾げている。
「ほら、体への負担とか大丈夫かなって」
年齢的にはれっきとした成人女性とは言え、ノーラの体は小学生程度の大きさしかない。これで出産の負荷に耐えられるんだろうかととても不安になるのである。
でもそんな私の不安をよそに、ノーラは実にあっけらかんとした感じだった。
「ああ、それは問題ありませんよ。産科の魔法の発達によって出産に伴う危険は皆無と言っていいくらいに無くなりましたから。昔は色々と大変だったらしいですけどね」
「はぇ~」
やっぱり魔法ってすごい。
「と、いうわけなので何の心配もありませんので――」
「うん」
「――この子達を産んだらまたお願いしますね? 私、アンリエッタとの子供いっぱい欲しいので」
ノーラにしては珍しく甘えるような声で、私におねだりをしてきた。これは妻冥利に尽きるってものよね。
「まっかせなさい。それで、ノーラ的には何人くらい欲しいの?」
「えっとですね……」
「うんうん」
そこでノーラは恥じらうように頬に手を当てて、上目遣いをしながらこう言った。
「――聖歌隊が作れるくらい欲しいです」
「えっ」
聖歌隊って、何人? もしかして10人以上?
「あらあら、それは頑張らないとですね~。アンリエッタ様」
「お、おおう……頑張る……」
「あ、私の方はそこまでは考えていませんけど、それでもいっぱい子供は欲しいですので、よろしくです」
「ま、まっかせろ~」
私は愛しい妻たちの願いを叶えるため、頑張ろうと心に誓ったのである。