第177話 幸せを噛みしめる
「あ~幸せだなぁ~」
私はミニスカメイド姿のエメリアに膝枕をされながら、目の前のだいぶ大きくなってきたお腹を優しくさすっていた。
「この中に私とエメリアの赤ちゃんがいるんだよね。それも3人も」
「ええ、そうですよ。アンリエッタ」
頭上から降ってくるエメリアの声は慈愛に満ちていて、その手も自分のお腹を優しくさすっている。
もっとも、例によって偉大なる下半球に遮られてエメリアの顔は全く見えないんだけど。
しかし休日の昼下がりに、自分の子を宿した愛しい女の子に膝枕をされてそのお腹を撫でているなんて、私以上の幸せ者はそうはいないんじゃないだろうかなんて思いに駆られる。
「私の3つ子ちゃんに早く会いたいな~。絶対可愛いでしょ」
「私こそ早く会いたいですよ。それにアンリエッタと私の子供なんですから、可愛いに決まってます」
「だよね~」
もう生まれる前から親バカそのものだけど、幸せだからいいのだ。
「ああ……幸せ……今の私の幸福感に勝てる人いないでしょ……」
私は今日だけで何回言ったかわからない『幸せ』を再度口にすると、対抗する様にエメリアが反論してくる。
「いえいえ、私の方が絶対に幸せです。なにせ愛しのアンリエッタの赤ちゃんを3人もお腹に宿しているんですよ? これはもう世界一の幸せ者に決まってるんです」
「そんなことないよ! だって愛しのエメリアに私の赤ちゃんを3人も産んでもらえるんだよ? 私の方が幸せだよ!!」
「いいえ! 私ですー!! 私の方が幸せですー!! アンリエッタは私がどれだけアンリエッタのことを愛していて、赤ちゃんが欲しかったか知らないからそんなことが言えるんですー!!」
私達はどっちが幸せかという、はたから見たら赤面してしまうような言い争いを続ける。
「いーや! 私だよ!! だって私、エメリアを心から愛してるもん!」
「……っ!! ど、どれくらい愛しているんですかっ? 言ってみてくださいっ!!」
攻められるのに弱いエメリアの声に動揺が混じる。ここが攻めどころだ。
「どれくらい? どれくらいってそりゃもう――」
エメリアがゴクリと息を呑んだのが分かった。
「――今の3つ子ちゃんを産んだら、直ぐまた私の子供を宿して欲しいと思ってるくらい愛してるよっ!」
「ぴゃぅっ!?」
上から変な声が聞こえた。
「子供を産んだら、またエメリアと百合子作りの術式を再開したい……エメリアはどう?」
「わ、私もっ……何人でも赤ちゃんは欲しいですっ……!! で、でも、私とアンリエッタは……その、ふ、深く愛し合っていますから、またたぶん3つ子ちゃんですよっ」
「いいじゃない。愛しいエメリアとの子供なら何人でも欲しいよ」
私は即答した。それ以外の返答はあり得ないからね。
「あ、アンリエッタっ……!!」
感極まったような声が聞こえた。エメリアも私と同じ気持ちでいてくれたのだろう、そうと確信するに足る絆が私達にはあるのだ。
「わかりましたっ……!! 私、アンリエッタの子供、いっぱいいっぱい産みますねっ」
「うんうん。エメリアは私の専属嫁なんだからね。私も頑張るよ」
「はいっ……!!」
ちなみに専属嫁であることを誓っているのは現状エメリアだけだ。
ハーレム内は基本恋愛自由だけど、専属嫁の誓いを立てた者はハーレム主以外との恋愛を一切せず、ハーレム主のためだけに愛を注ぐことになる。つまり契約をしても何も得はないのだけれど、貴方だけを愛すると言うこれ以上ない証になるのだ。
クラリッサはシンシアと結婚するし、ルカともまだお互い恋人には至ってないようだけど結構いい仲っぽい。
そのシンシアもルカに狙いを定めているようだし、ルカのやつモテモテである。まぁそのルカは我が娘のナデシコが気になっているようなんだけど……あの子もたいがいロリコンである。
クラリッサの戸籍上の娘であるマリアンヌは、その母に母娘の愛以上のものを持っている節がある。――なおクラリッサはそのことに全く気づいていない。この2人もどうなるか実に楽しみだ。
モニカは比較的私一筋だけど、それでも専属嫁の契約は結んでいない。たぶんマリアンヌのことが気になっているんだろうなぁ。
アリーゼ先生とテッサ先生は既に婦婦だし、その娘のミリーはナデシコと『将来結婚する~』なんて言っている。
おいおい『ミリーが14になるまで恋人を作らなかったら私と結婚する』という誓約はどうなったんだと思いたいが、『まだ恋人じゃないしセーフ』とみなされていて誓約書はバリバリ生きている。ガバガバすぎる……
シスターノーラはどうも私と専属嫁の誓いを結びたがっているようなので、近日中に契約をするかもしれない。そうすれば私だけのノーラになるというわけである。
エメリアの妹であるサリッサはエメリアのことを諦めてはいるものの、それでも夜は必ず姉とセットであることを断固として譲らないし、私を心から愛しているのか? と聞かれると、うーん、と言わざるを得ない。
まぁそれでも最近ではだいぶ心が通ってきたような気がするし、そのうちこの子も専属嫁になるんじゃないかなって予感はする。何となくだけど。
だって私が愛しているエメリアの妹だからか、私とサリッサってお互いに相性が抜群なんだよねぇ。
他の子達とはまだ愛を深めている最中だからまだ色々検討中である。
生徒会の子達は3人仲良しだし、下級生の子2人も相当仲がいい。
妹達とは手紙のやりとりはしてるけど、夏休み以来会ってないしなぁ。その妹達のお腹にも私の子供がいるわけなのだし、卒業したら存分に語り合うつもりだけど。
現状はこんな感じかなぁ。なんて思いながら、私はエメリアのお腹を撫で続けていると……自身に降ってくる影の大きさに改めて戦慄した。
「しかし……まだまだ成長の余地を残していたのね……」
「はい、えっと……赤ちゃんが大きくなってきて、こっちもその……育ってきてしまいまして」
「ああうん、育っているなっていうのは私が一番実感しているよ」
「も、もうっ、アンリエッタったらっ……」
エメリアがもじもじと恥じらうと、私に落ちている影もゆさゆさと揺れる。いやほんと凄い。
クラリッサなんて子供が出来てもいまだに完全なる大平原だと言うのに。現実は残酷である。まぁ大平原も好きだけど。
「重くない?」
「重いに決まってますよぅ……!! もう肩がこって肩がこって……誰かに分けたいくらいです」
「クラリッサが聞いたら血の涙を流しそうね」
「さ、流石にクラリッサ様の前では言えません」
そりゃそうだ。オーバーキルにもほどがあるからね。
「でもあれね、私達の子供なら、やっぱり大きくなりそうね」
「それは確定だと思います。多分この子達も私同様肩こりに悩まされる生涯を送るんでしょうね……。でもこれは我が家の宿命みたいなものなので、仕方ありません」
「あ~……サリッサも大きいもんねぇ」
「はい、我が家は代々こんな感じなんです。それが専属メイドを数多く輩出している理由でもあるんですけど」
「なるほど」
確かにここまで秀でた長所があれば、専属メイド選抜試験でもそれは有利に働くよねぇ。
たとえ試験当時にそこまででもなくても、親族を考慮に入れて将来性を加味したらそりゃ高ポイントを付けるよね。
「でもそっかぁ、そんなに重いのね」
「はい、重いです……」
「じゃあ私が肩を揉んであげよう」
「いいんですか? でも悪いですよ」
「いいのいいのっ」
私はぐっと体を起こすと、エメリアの後ろに回り込んだ。
「エメリアはメイドである前に私の妻なんだから、身重の愛しい妻の体をいたわるのは妻の役目でしょ?」
「アンリエッタ……ありがとうございますっ。じゃあお願いしますねっ」
「あいよっ! 任された!」
そして私は私の子を身ごもってくれている女の子の肩を揉みながら、幸せを噛みしめるのだった――