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第175話 健全なデートを満喫した

「はふぅ……」

「大丈夫? コーデリア」

「だ、大丈夫じゃっ……ちょ、ちょっとドキドキしすぎただけじゃっ!!」


 店を出たばかりのコーデリアの足はよろよろとふらついていた。ただ私は何度も何度も『あーん』の攻防を繰り返しただけだと言うのに、なぜこうもコーデリアだけ消耗しているのだろうか。

 とりあえず近くに会った公園のベンチに座らせることにした。


「ふぅん? そんなにドキドキしたんだ?」

「ど、ドキドキするに決まっておろう……!! 恋人と、その……か、間接キスを何度も何度もしたんじゃぞ!? もうわらわの胸は張り裂けそうじゃ!! どうしてくれる!!」

「ほうほう。そのまっ平らな胸が張り裂けそうだと。それは大変だ」

「今に大きくなるのじゃっ!! 姉上……女王陛下はバインバインなんじゃぞ!! 今に見ておれっ!」


 年の割に大平原であることを気にしているらしく、ムキになって突っかかってくるが、やはり足が震えているのでまったくしまらない。


「楽しみにしてるね」

「うむっ、そうするがよいっ」


 とはいうものの大きくても小さくても私は好きだけどねぇ。どっちに転ぶにせよ成長は楽しみである。早く大きくなっておくれ。


「しかしほんと足プルプルね。もうちょっとお店にいた方が良かったんじゃない?」

「そなたがお代わりしようかと言って、わらわにもっと食べさせようとしたから慌てて出てきたんじゃが!? あのまま続け取ったらわらわの心臓がもたんわ!!」

「だって可愛かったんだもん」


 私がくわえていたスプーンをコーデリアの口の中に運んでやると、コーデリアは実に美味しそうにそのスプーンをはむはむとしたのだ。

 それはもっともっと見たいと思うよね。


「でも美味しかったでしょ?」

「う、うむ……」


 私の間接キスを思い出したのか、コーデリアは手を後ろに回してモジモジと身をよじった。めっちゃ可愛い。


「ふふっ、そんなに気に入ったなら、ディアナさんにもやってあげれば? 絶対喜ぶよ」

「でぃ、ディアナに……!?」

「そう、愛しの王女殿下のお口に運ばれたスプーンを、今度は自分の口に差し出されたらもうディアナさん感動するんじゃない?」

「そ、そうかの……?」

「そりゃそうだよ。だってディアナさんコーデリアのこと大好きでしょ?」

「う、うむ……早く子が欲しいとせがまれておる」


 あらあらまぁまぁ、お熱いことで。


「だからね、いきなり百合子作りに行こうとするからハードルがバカ高いんだよ。そこで間接キスとかから徐々にハードルを上げていけばいいんじゃないかな?」

「な、なるほど……!!」

「で、それに慣れてきたら本物のキスをしてあげるといいよ」

「う、うむ……!! そうやって慣らしていくのじゃな!? それなら何とかなりそうじゃ!!」


 コーデリアは顔をパッとほころばせた。しかし私も自分の恋人同士とは言えなかなかおせっかいなことをしているなぁ。

 とは言えコーデリアとディアナがくっつかないと、ディアナが私の嫁にならないからね。これは私のためでもあるのだ。


「……でも、コーデリアもディアナさんにお風呂で体とか洗ってもらってるんでしょ? それなのにキスもまだだったんだね」

「はぁ!?」


 コーデリアは心底驚いた様子でベンチから立ち上がった。


「な、何を言っとるんじゃ!? そんなハレンチな真似、しとるわけないであろう!?」

「えっ?」

「そ、それはまぁ、本当に小さい時には洗ってもらっておったぞ? じゃが、ここ数年は自分で体を洗っておる! それくらい1人でできるわっ」

「そうなの?」


 それは意外。王族なんだしてっきり全部お世話になっているものだとばっかり。だって貴族であるクラリッサとシンシアとか、シンシア何でもしてあげていたよ?


「そ、その……わらわは最初からディアナのことを嫁……というか女の子として見ていたからの……は、恥ずかしくてな……」

「わ~、むっつり~」


 でも確かにクラリッサは最初シンシアを恋人的な視点では見てなかったしなぁ、それならそういうものなのかもしれない。


「う、ううう、うるさいわっ!! ディアナ、若いころから凄く美人だったんじゃぞ!? 意識するなというのが無理というものじゃ!! ……いや、今ももちろん若いがの」


 たしか19歳だったはず。でもそう考えると……殿下大好きなディアナさんって結構なロリコンなのでは?

 まぁ私もロリコンみたいなものだし話は合いそうだけど。


「しかし……ディアナがわらわのくわえたスプーンをその口に……ふふふ……胸が高鳴るのう……」

「えっち~」

「な、なんじゃ!? わらわとディアナは婚約しておるのじゃ!! 何もやましいところはないぞ!?」


 それはそうなんだけど、えっちなものはえっちである。


「良いものを教えてもらった。アンリエッタ先輩には感謝しかないのう」

「どういたしまして、これでゆっくりと距離を縮めていくといいんじゃない?」

「う、うむっ……」


 うんうん、若い2人に幸あれである。もっとも、2人共私の嫁になるんだけど。


「そういえば、ディアナさんいつごろまでに子供が欲しいって言ってたの?」

「……」


 あれ? 黙ってしまった。


「どうしたの?」

「……それがの、できれば20歳になる前、遅くても20歳のうちには欲しいと言っておっての」

「あらまぁ」


 それは大変だ。コーデリア、勇気を出さないとね。


「百合子作りの儀式、自分で言うのもなんだけど結構時間かかるよ?」

「わかっておる……じゃから、今回のか、間接キスは本当にいいものを教えてもらったのじゃ。これで慣らしていけば、そのうち、きっと……おそらく……」

「うん、がんばれ」

「他人事みたいに言っとるがの、わらわはそなたの妻なんじゃぞ? 妻のピンチにはもうちょっと助けてくれても良いのではないか?」

「そんなこと言われてもなぁ……それは2人の問題だし、それに私は我慢するので大変だったくらいだから」

「おぅ……」


 コーデリアが呆れたような顔になる。こんな子供からこんな顔をされてしまったい。


「早く百合子作りしたかったんだけど、まぁ私一応学生だしその辺は節度を持ってと思ってね」

「推薦入学で学年1位が一応とはこれいかに」

「まぁまぁ、その辺はね、私の魔力は努力して手に入ったものでもないし」

「そこなんじゃよなぁ……貴族の持つ魔力にしてはけた外れにも程があるのよな。ぶっちゃけ姉上より魔力高いと思うぞ?」

「そうなの?」

「うむ。姉上の魔力は常人の20~25倍ほどと言われておるからの。これでも歴代の女王の中では飛びぬけて高い魔力なんじゃ。じゃからこそわらわの姉妹達も喜んで姉上のもとに嫁に行ったわけだしの」


 確か王族は例外なく魔力が高いはずで、だからこそより魔力の高い女性に惹かれるものらしい。

 コーデリアが私に一目ぼれしたのも、魔力がかなり大きな要因になっているとか。


「その、どういう気持ちなの? 高魔力の子に会った時の気分って」

「前に言った気もするが、そうじゃのう……」


 コーデリアは、ちょっと考えた後隣に座っている私の手をぎゅっと握った。

 そして私のことを真剣な目でじっと見つめてこう言った。


「――早くそなたの子が欲しいと思っておるな」

「お、おおう……」


 ちょっと不意打ちでどきっとした。こんな小さな子から言われるとより一層である。


「例えば、この後すぐにでもそなたがわらわのことを欲しいと言ったら、わらわは二つ返事で頷くぞ?」

「よ、よくわかった……」


 これはまた惚れられたものである。かなり照れる。

 しかし私相手にはこんなこと言えるのに自分からはディアナさんに迫れない辺り、やっぱりディアナさんに食べてもらった方が良いのでは??


「ま、最初は一目惚れじゃったがの、それでも今はアンリエッタ先輩のことをちゃんと好きじゃからの、そこは勘違いせんようにな?」

「まぁそれは、さっきの『あーん』でよくわかったけど」

「そ、それを言うなと言うに……っ」


 また蒸し返されたコーデリアが可愛く頬を膨らませる。いやぁ可愛い可愛い。


「さて、この後はどこへ連れて行ってくれるんじゃ?」

「そうだなぁ……コーデリア本好きでしょ? だったら本屋さんに行って~」

「おおっ! 実に楽しみじゃ!!」

「その後はお芝居かな。今話題作をやってるらしいよ」

「聞いたことがあるぞ!! わらわも見たかったのじゃ!!」

「その後はご飯を食べて、それから――」

「百合子作りじゃな?」

「それはない」

「ちぇ~、やはりひっかからんかぁ」


 そうそう簡単に言質を与えてなるものか。あくまでも私とこの子は当面清いお付き合いをするのだ。


「さ、それじゃあ行こうか?」


 立ち上がった私が差し出した手を、コーデリアはしっかりと握って立ち上がった。


「うむっ、この後もしっかりエスコートしてもらおうかのっ」

「はいはい、お任せあれ王女様っ」

「うむっ、苦しゅうないぞっ」


 おどける私に、コーデリアはしっかりと乗ってくれた。いい子や。

 そんな王女様の手を引きながら、私達は健全なデートを満喫したのだった――


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