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第172話 油断も隙も無いわこの子

「のう、アンリエッタ先輩」

「何? コーデリア?」


 私とコーデリアは、健全な学生のお付き合いということで学園内にある喫茶店でお茶をしていた。

 健全とは言っても、コーデリアの首に巻かれた首輪から伸びるリードが私の手に握られている、という一点を除けばなのだが。

 いやまぁ私とコーデリアは将来を誓い合った仲だし、コーデリアの年齢を考慮して清い関係であるものの将来的には私の嫁になることは確定しているので、

 この世界の倫理観的に何の問題もないんだけど前世の記憶を持つ私からしたらアレな絵面である。

 でも仕方ないのだ。お茶をしようと誘ったらいそいそと首輪を付けてやってきて「ほら、これを握るがよいぞ」なんて喜色満面でリードを差し出してきたんだから。私は悪くない。


「ちと頼みがあるんじゃが……聞いてもらってもよいかの?」

「もちろんいいよ。だって私はコーデリアの先輩であり、彼女なんだから」

「そ、そうじゃの……! 彼女なんじゃしな!」


 彼女と言われたコーデリアが顔をほころばせる。今絶賛恋をしている真っ最中のコーデリアは、私のちょっとした一言で胸をときめかさせているのが伝わってきて、こっちまで照れてしまう。


「で? 何をして欲しいの?」

「う、うむ……実はの……」


 コーデリアは手を胸の前でモジモジとさせながら頬を染めている。何ともいじましくて年相応に可愛い振る舞いである。だが――


「実はの――そなたの子が欲しいのじゃ!!」


 ――内容はかなり大人なものだった。


「は、はぁ!?」

「聞こえなかったのか? わらわはそなたの子が欲しい、そう言ったのじゃ」


 聞き間違いじゃなかった。いや、どう聞いても聞き間違いをするような内容じゃなかったけれど、聞き間違いであってほしかった。

 だって今この子に手を出すつもりないもん!!


「な、なんでそんないきなり……!? その、学生恋愛を楽しもうってことになってたよね!?」

「それはそうなんじゃがの……ほら、先輩の奥方達……その、皆ほれ、子を授かったじゃろ?」

「あ、それは、うん」


 最近では少し中で動いているのも確認できるようになってきていて、彼女達に会いに行くのが楽しみでしょうがない毎日を過ごしていた。

 愛しい嫁達のお腹の中で、我が娘がすくすくと育っていくのを確認することがこんなにも楽しいなんて想像もしていなかった。

 まさに母と父の喜びを両方味わっているところなのである。


「それで?」

「それでの、幸せそうにしている奥方達と、先輩を見ていたらその……羨ましくっての」

「そ、そっかぁ」


 確かに最近の私すっごい浮かれていたし、お腹の子に会いに行くのが楽しくてついついコーデリアと過ごすのが疎かになっていたかもしれない。これは反省しなくては。


「ごめんね、寂しい思いさせちゃったかな?」

「いや、そんなことはないぞっ。ただ、純粋に羨ましかっただけじゃ」


 腕を組みながら、ぷいと顔を背けてしまった。どう見ても寂しかったようである。悪いことをしてしまった。


「それでの、わらわも先輩の子が早く欲しいと思ったのじゃ。じゃからの……?」


 コーデリアはその小さな手を伸ばして、私の手に重ねてくる。

 その瞳は私をじっと見つめてきており、その手の温もりと合わせて私の愛を求めているのが伝わってきた。

 でもダメなのです。まだこの子は小さいのだから。

 見た目こそ小さいものの魂年齢は200を軽く超えているマリアンヌや、同じく小さいもののれっきとした成人女性のシスターノーラと違って、この子はガチで小さいのだ。

 そこだけは私の倫理観的に譲れないところなのである。


「ごめんね? まだコーデリアとそういう事をする気はないんだ。もうちょっと大きくなってからね」


 私はきっぱりと彼女に告げた。


「なぜじゃ!? わらわは先輩の彼女で、将来の嫁であろ? なら何の問題もないではないか」


 私の方にあるんです。この世界が許してもそれはダメなのです。


「むぅ~っ、わらわがちんちくりんじゃからダメなのか? やはりディアナみたいなバインバインでないとダメなのか?」

「そんな事は無いよ? だってほら、シスターノーラとか……」

「…………それもそうじゃの。シスターの外見はわらわとほとんど同じじゃ」


 むしろシスターノーラの方が小さくさえあるけどね……

 それでもくどいようだが彼女は成人女性だからセーフなのだ。


「そういうわけで、もうちょっと我慢してよ」

「じゃが……羨ましいのじゃっ」

「それはわかるけどさぁ」


 私の子を宿してくれた彼女達は本当に幸せそうで、見ているとこっちまで幸せな気持ちになってくる。

 それを見ていたコーデリアが羨ましく思うのも仕方はないのだけど、ここは我慢してもらうしかない。


「むぅ~っ……」

「まぁまぁ、とりあえず学生としてのお付き合いを楽しもうよ」

「そうは言うがのう、まだエメリア達も学生じゃろ? それなのに百合子作りはしておるではないか」

「でも、百合子作りの術式を開始したのは3年になって卒業が見えてからだよ? 学生生活に支障が出過ぎないようにね」

「それは聞いておるが……よく我慢できたの」

「そこはまぁ、ね」


 前世でやらかした経験もあったし、ある程度の歯止めが必要だったからね。


「そういうわけなので、コーデリアも我慢してね?」

「まぁ……わかった」


 不承不承といった感じでコーデリアが頷く。だが、それでもキッと私を見据えると――


「じゃがの! わらわもれっきとしたそなたの彼女なのじゃ!! 最近のそなた、お腹の子に会いに行ってばっかりじゃぞっ――!!」


 コーデリアは言ってから「しまった」といった顔になった。やっぱり寂しかったんじゃないか。


「ごめんね?」

「う~~っ」


 感情を持て余して唸るコーデリアを抱き寄せて頭を撫でてやると、むくれた顔が少し直った。


「……昔から言うじゃろ? 釣った魚には餌をあげろ、と」


 こっちの世界ではそういう言い回しなのか……あっちの世界では釣った魚には餌を上げない、って言われてるんだけど。


「わらわはそなたに釣られたのじゃから、そなたはわらわに餌をあげる義務があるのじゃ」


 コーデリアは私の腕の中で甘えるように頬を摺り寄せてくる。いい匂いがして、少々危険だわこれ。


「そっかぁ、私が釣ったんだから、釣った責任はあるよね」


 まぁ釣ったと言うよりあっちから網に飛び込んできたんですけどね。でもそれは言わぬが花というものだろう。


「そうじゃぞ? リリアーヌ王国第8王女、コーデリア・リリアーヌはそなたのものなのじゃ。この首輪がその証拠、誇るがよい」


 ふふんと腕の中で胸を張りながら、首輪に指をかけて見せびらかすようにしてくる。


「そうね、じゃあ餌をあげよっか……今度の週末、街に2人でデートに行こう」

「デート!? あの恋人たちがすると言うデートか!? 本で読んだことがあるぞ!!」


 コーデリアの顔がぱっと明るくなる。


「そうだよ。そのデートだよ」

「一緒にご飯を食べて、買い物をしたり――」


 しかしコーデリア、恋人であるディアナさんとデートとかしたことなかったんだろうか? まぁでも王族だし、そうそう自由に外出とかもできなかったのかもしれない。そう考えると少々不憫である。


「そうそう」

「芝居やスポーツを見たり――」

「そうそう」

「そして最後は百合子作りを――」

「しないからね」

「むぅ。……引っかからんかったか」


 油断も隙も無いわこの子。流石は小さくても王族というわけか。


「まぁよい。週末、楽しみにしておるからのっ。しっかりとわらわに餌をくれるんじゃろうの?」

「それはもちろん。ご期待にお答えしましょう、お姫様」

「うむっ」


 私の返事を聞いて、コーデリアは満足げに頷いたのだった。


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