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第171話 迫りくる現実をひとまず先送りにする

「まぁ……!! 3つ子ちゃんですの……!!」


 シンシアからの報告を聞かされたクラリッサは、それはもう驚いた顔をしていた。

 そしてその驚きが収まった後、クラリッサは――


「――それはおめでたいですわっ!! 良かったですわねっ! シンシア!!」


 シンシアをぎゅっと抱きしめて祝福した。


「お嬢様っ……!!」

「わたくしも双子ですし、娘たちにいっぱいお友達を作ってあげれますわね。今から楽しみですわっ」


 そのままぎゅうぎゅうと、潰れちゃうんじゃないかってくらいの勢いでクラリッサはシンシアを抱きしめていて、事実シンシアのたわわは盛大に押しつぶされ変形していた。実に素晴らしい眺めだ。

 でも今の私にはどうしても聞かねばならないことがあるのだから、いつまでもその絶景を眺めているわけにもいかない。


「あ~えっと、クラリッサ?」

「なんですの?」


 愛しのメイドを抱きしめたまま、クラリッサがこちらを向く。その顔は幸せで満ち溢れていて、なんというか陳腐なたとえだけど聖母の様だった。


「その……気にしないの?」

「何をですの?」


 クラリッサは不思議そうに小首をかしげた。私が何を言っているのかさっぱりわからないと言った感じだ。


「いや、ほら、何て言うか、その……」

「変なアンリちゃんですわね。一体どうしたんですの?」


 デリケートな話題だし、どうにも聞きにくい……けど聞かないわけにはいかないよねぇ。


「あ~、えっと……エメリアとシンシアだけ3つ子だったじゃない? それについてなんだけどさ」

「??? よくわかりませんけど……それがどうかしましたの? ただおめでたいことじゃありませんの」

「え、あ、いやそうなんだけどさ……その、クラリッサは双子だったわけじゃない? でもシンシアは3つ子だったわけで……気にしてないのかなって」

「――はぁ? そんなの気にするわけありませんわ? 何言ってますの?」


 きっぱりと、本当にきっぱりとした口調でクラリッサは言い切り、そこには一切のウソも誤魔化しも感じられなかった。

 心の底から気にしていない、むしろ何でそんなことを聞くのか? といった顔をしている。


「だって、私の愛しいシンシアが、これまた私の愛しいアンリエッタから3つ子ちゃんを授かったんですわよ? 両者の妻としてこれ以上嬉しいことがありますの?」


 実に晴れやかな表情だった。

 クラリッサのこういうところに私は惚れたんだろうなぁ。


「お嬢様っ……!!」


 シンシアもたぶん同じ気持ちなんだろう。感極まったといった感じで愛しのお嬢様を抱きしめ返している。

 遥も、こっちの世界で存分に幸せになれるだろうと確信した瞬間だった。


「良かったですわねっ、シンシア」

「はいっ……!!」


 でも良かった。2人だけ3つ子だったと知った時はどうなるなぁとか考えたけど、心配することは何も無かったようだ。

 しかし……エメリアとシンシアが3つ子だった辺り、俗説だとは言うけれどやっぱり深い縁と高魔力が子供の数に関与しているのはどうも間違いない感じがするなぁ。

 だって後から彼女になった子達は1人だったのに対して、先に彼女になっていた子達はみんな双子だったし、後でアリーゼ先生に聞いてみよう……

 でもそんな私の考えをよそに、抱き合った2人は猛烈にイチャイチャをしていた。


「お嬢様っ……私、今晩張り切っちゃいますねっ!」

「いや、その、お手柔らかに頼みますわ……『お姉さまっ』」

「ダメです~。今はもう目いっぱい『クラリッサ』を躾けたい気分なので!」

「もうっ……『お姉さま』ったらっ」


 2人は主従であると同時に、メイドとしての『姉妹』でもあるのだ。当然ながら妹メイドであるときのクラリッサは、姉であるシンシアに一切逆らうことができない。

 そして2人はその関係を楽しんでいるのだから、なんともご馳走様というやつである。


「はいはい、そういうのは夜やってね~」


 私は2人の世界に入っていた2人に割り込んでこっちに引き戻す。ご馳走様ではあるものの、蚊帳の外にされるのもつまんないからね。野暮だけど。


「そ、そうですわねっ……つい盛り上がってしまいましたわ……お恥ずかしい」

「クラリッサってさ、シンシアと2人っきりの時はいつもあんな感じなの?」

「ふぇ……!? い、いえ、そんなことは決して……!!」

「そうですよ~。お嬢様ったらお風呂から上がったら、何も言わなくてもメイド服に着替えますし~」

「ちょ……!! シンシア……!!」


 ほうほう? 続けて?


「そしてスカートの裾をつまみながらこう言うんですよ。『本日もご指導よろしくお願いいたします。お姉さま』って。もう可愛くて可愛くて……!!」

「それは可愛いだろうねぇ……!!」

「あああああーーーーー!! い、言っちゃダメですわっ!!!」


 クラリッサの顔はもうこれ以上ないほどに真っ赤っかだ。可愛い。


「でもいいなぁ~。私もお姉さまって呼ばれたいな~」

「ダメですよっ。お嬢様のお姉さまは私だけなんですっ。ねぇお嬢様?」

「ふぇ……!! あ、えっと……そ、そうですわねっ、お姉さま……」

「ちぇ~」


 まぁ嫁同士でそういう『特別』があってもいいだろう。良きかな良きかな。


「ところでお嬢様、私の娘が3人でお嬢様の娘が2人だとちょっと余ってしまいますね」

「そうでもありませんわ。長女はウィングラード家の跡取りとして育てますから、即座に許嫁を決めるわけにもいきませんわ」


 んん? 2人共何の話をしているんだろう。


「あ、そうでしたね。じゃあちょうどいいですかね」

「それに、ハーレムって考えもありますわ。それに……これからいっぱい子供は授かるわけですし」

「おお~それはいいですね~。夢が膨らみます」


 2人揃って私の方を熱っぽい目で見てくるけど、だから何の話よ?


「ねぇ、何のこと?」

「何のことって……それは勿論結婚相手のことですわ」


 え、誰の?


「そうですよ~。私とお嬢様の娘たちを許嫁(いいなずけ)の関係にしようかっていう話です」

「ほぁ……!?」


 許嫁!! そう言えばそんなこと言ってたような気もするけど、アレマジだったの!?

 母親両方私なんだけど!? でもそれがアリなのがこの世界なのよねぇ。


「あ、そうだ、アンリエッタ様」

「何?」


 シンシアはうっとりとした顔でお腹を撫でている。


「まだ先の話ですけど、この子達を産んだ後はお嬢様のお子を授かる予定ですので、前に言った通り出来ればその子達はアンリエッタ様のお嫁さんとして考えて欲しいんですけど」

「えええええ!?」


 た、確かにそれも前に言っていたけど、現実になってくると凄い話過ぎるよ!? 自分の嫁同士の間に生まれた子を嫁にするとか、もう色々とハチャメチャである。


「ふふふっ、わたくしとシンシアの仲ですもの。きっと双子以上が生まれますわ。アンリエッタ、頑張ってくださいね」


 が、頑張れと言われてもですね!?

 私もう既にアリーゼ先生達の娘2人を貰うように言われているんですけど!! 4歳と0歳よ!? ……まぁミリーはおそらく将来的に嫁にするけど!

 それに加えてまだ産まれてもいない子と結婚してくれとか気分早すぎない!?


「大丈夫ですわ。わたくしとシンシアの娘ですし、絶対可愛いですわ」

「お胸は平均値になりそうですけどね~」

「――何か言いました? シンシア」

「ナニモイッテナイデス」


 そういう問題かなぁ!? いや、でもまぁ強制ってわけでもないし、その子達の自由意思を尊重するから、産まれて大きくなってから考えればいいよね!!

 そうして私はその迫りくる現実を、ひとまず先送りにすることにしたのだった――


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