第170話 奇跡ってあるんだなぁ
「ふぅ……」
「どうしたんですか? アンリエッタさん」
「いえ、奇跡ってあるんだなぁと思いまして」
私はシスターノーラが淹れてくれたお茶を飲みながら、最近起こった奇跡に想いを馳せていた。
なにせ死に別れた――というか無理心中させられた――と思っていた遥と、思いもよらない再開を果たしたのだ。奇跡と思わずになんとしよう。
「奇跡、ですか」
「ええ、もう会えないと思っていた子に最近また会う事が出来まして」
「それはそれは……いいことなんですよね?」
「もちろん、会えてすごく嬉しかったです」
しかもそれが私の嫁になっていたのだから、なおさら嬉しいと言うものだ。
さらに言うなら、もうその遥――シンシアのお腹の中には私の子までいるのだ。
前世では決してかなわなかった、恋人との間に子を持つということが叶った喜びに私は感動しているのである。
「百合子作りってほんと凄いですよね」
「全くです。まさに百合神のなせる御業ですね」
「そうですねぇ」
百合子作りを行う過程において、その術式の構成を詳しく調べたところそれはただ純粋な魔法というわけでは無く、神聖魔法――すなわち神の奇跡にもまたがっている術式であることが分かっているのだ。
本来なら通常の魔法と神聖魔法は同じ魔力を使うものの、系統が異なるもののはずなのだけど、その異なる2つを絶妙なバランスで重ね合わせることにより構成されている点が、この魔法が『もっとも偉大かつ今後並ぶもの無き魔法』と言われるゆえんなのだろう。
「百合神のお力をお借りすることによって、私もアンリエッタの子供を授かることができたわけですからね」
シスターノーラはその小さな手で、自分のお腹を優しくなでる。
外見的には純粋のロリだから見た目的にかなーりアレなんだけど、それでも立派な成人女性だからセーフなのだ。
「もう動いたりとかしますか?」
「いえ、まだですね。アリーゼ先生が言うにはもう少ししたら動いたりするのがわかるそうですよ」
「それは楽しみだなぁ~」
まだ見ぬ我が娘のことを考えるだけで、胸がほっこりする。これが親になると言う気持ちなんだろうか。
「お腹に耳を当ててもいいですか? ノーラ」
「いいですけど、まだ聞こえないと思いますよ?」
「いいからいいから、そういう気分なんですよ」
「わかりました。はい、どうぞ」
シスターは手を広げて、私を迎え入れてくれたので遠慮なくそのお腹に耳を当ててみる。
「う~ん……」
「どうですか?」
「まだ聞こえませんね」
「だから言ったじゃないですか」
そう言いながら、シスターノーラはコロコロと笑う。こうした何気ないひと時でも、何とも言えずとても楽しい。
「ママですよ~。お~~い」
「もうっ、くすぐったいですよっ」
シスターノーラのお腹に口を近づけて、中の子供に語りかける。当然ながら反応はないわけだけど、やっぱり不思議と楽しい。
「そう言えば、会えないと思っていた子って、誰だったんですか?」
「え、あー、う~んと」
どうしようかな。正直に転生して来たとか話すわけにもいかないしなぁ。
「実はですね、シンシアと私が前に会っていたんですよ」
「シンシアさんが?」
「ええそうなんです。けっこう前に別れたので、お互い気付かなくって、それでつい最近そうだと気が付いたんですよ」
「はぁはぁそれはまた……まさに運命ですねぇ」
そうね、本当にそう思うわ。
「でも、そんなシンシアさんが運命の相手だったって、エメリアさんとかは焼きもち焼かなかったんですか?」
「あ~、その辺も話したんですけど、それでも私にとってはエメリアが一番ですから」
これは噓偽らざる私の本心だ。
何もわからないこの世界に来て、ずっと私に献身的に尽くしてくれて、愛を注いでくれた女の子、それがエメリアだ。
ゆえに私にとってはエメリアが特別な存在なのである。
「あらま、ご馳走様」
「もちろん嫁達みんな愛していますよ? 当然ノーラもです」
「め、面と向かって言われると照れますね……」
正面から見据えると、ノーラは恥ずかしそうに目を逸らした。可愛い。
「でもまさかこうして私がお母さんになれるなんて、思ってもいませんでしたから今は幸せでいっぱいですよ。ありがとうございます、アンリエッタ」
「いやいや、お礼を言うのはこっちの方ですよ。だって私と結婚してくれて、子供まで産んでくれるんですから」
もう感謝しかないよね。嫁達全員に。
「そう言えばアンリエッタ、前にお腹の子供が双子かもしれないって言いましたけど……」
「あ、はい、そうでしたっけ。それで、どうでした?」
「……えへへ、双子でした」
「え!? 本当!?」
マジで!? そりゃめでたい!!
「はい。ついさっきアリーゼ先生から魔力通信がありまして、診断結果から双子でまず間違いないそうです」
「はぇぇぇ~~~」
「あ、他にも双子の子がいっぱいいるって言ってましたよ?」
「えっ」
「ちなみにアリーゼ先生も双子らしいです」
「はぃぃぃぃ!?」
これは、高魔力の母親――この場合私だけど――との百合子作りで授かった子供は双子以上が多いらしいという、そういうのなの!?
「一説では、高魔力によって儀式を行うことによって百合神の加護を受けやすくなるからではないか? と言われていますけれど、そもそもそこまでの高魔力を持った子がそうはいないのでろくにデータが無いそうです」
「王族とかは?」
「確かに王族は双子が多い、とは聞きますけど……それでも誤差の範囲内なんですよね。嫁達のうちまだ何人が双子なのかは詳しく聞いていませんけど、それでも結構な数らしいですよ」
「ほぇぇぇぇ……」
卒業後辺りには20人以上の母親になると思っていたけれど、もしかしたら30人近くになるかもしれないってこと? 嬉しいけど心の準備が追い付かないよぉ。
「あ、さっき話に出たエメリアさんとシンシアさんなんですけど」
「その2人がどうしたの?」
「その……特に深い縁や愛がある相手とは、双子以上になりやすい、という……まぁ俗説の域を出ないんですけど、そういう話も聞いたことがあります」
「し、至急確認してくるね!!」
そうして私は彼女達のもとにすっ飛んでいくと、最初に付き合っていた9人全員が双子以上だという事が判明した。ちなみにエメリアの妹のサリッサとか、後から付き合った子達は双子では無かった。やっぱり縁の深さとかが関係しているんだろうか??
――以上、というのはエメリアとシンシアのお腹の子は……三つ子だったのだ。
「やっぱり、私とお嬢様は最高の相性なんですねっ」
「お姉さま、私、元気な3つ子ちゃんを産みますねっ」
嬉しそうに言う2人は、母として眩しいほどの笑顔を浮かべていたのだった。