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第169話 何となくファーストキスのような感じ

「いやぁ……でもまさかこうして再び遥を抱きしめれる日が来るとはねぇ……」

「今まで何回も抱きしめられてきましたけど」

「いや、だってまさかシンシアが遥だなんて思わなかったし」


 私は存分に大好きな遥のうなじを堪能した後、そのまま久しぶり――でもないけれどやっぱり久しぶりの遥の感触を味わいながら、ぎゅっと抱きしめ続けていた。


「ん~いい匂い、前の遥とはまた違った匂いよね」

「やぁん、くすぐったいですよぅ、お姉さまっ」

「だってぇ、久しぶりなんだもん」


 今度はシンシアの髪に顔を埋めて、その匂いを堪能している。髪の色も匂いも違うけれど、それでもたまらない匂いだった。

 本当は直ぐにでもベッドに連れ込みたいけど、そろそろクラリッサが用事から帰ってくる頃なのでいちゃつくだけにしておく。もうちょっと我慢我慢だ。


「ねぇ、いつから私だって気付いていたの?」

「そこそこ最近ですね。ほら、首輪デートした時あったじゃないですか? その時にお姉さまだって分かったんです」

「なんで?」

「いや、百合魔力感応が発現したのがその辺りだったので。それでたまたまお姉さまが私のことを思い出したのを感じて、確信したんです」


 ん? 確信したってことは、そうかもしれないって思ってたってことなの?


「お姉さまがブルマとかミニスカメイド服とか、どう考えてもあっちの世界のものとしか思えないものを持ってきていたので、可能性としてはあるかなと思ってたんです」

「ああ、なるほど……」

「で、それの出どころのモニカさんを問い詰めてみたんですけど、そこは『企業秘密だからいくらシンシアでもデザイナーAのことは教えられない』って突っぱねられまして……」


 あ~、まぁ確かに、モニカって社長モードのときって物凄く手ごわいやり手社長だもんね。普段は気のいい子なんだけど。


「で、その周辺にお姉さまがいるんじゃないかってずっと探っていたんですけど、まさかお姉さま本人だったとは……灯台下暗しってやつですね」

「私もまさかシンシアが遥だとは思っていなかったよ……ってさっき言ったわね、これ」


 そう言うと、シンシアがプッと吹き出した。これは前世で遥がよくしていた仕草だ。なんかとても懐かしい。


「でも、よくよく考えたらアンリエッタ様がお姉さまだって分かりそうなものなんですよね。だってあんなに女の子が好きなんですから」

「あ~、いやでもさ、この世界の女の子ってみんな女の子好きでしょ?」

「それなんですよ。だからこそかく乱されたと言いますか……いやそれでもアンリエッタ様の女の子好きは群を抜いていましたけどね」


 そうかなぁ。私的にはかなり節度を持って過ごしてきたつもりなんだけど……

 だって女の子同士で子供が作れる世界だと言うのに、その私が卒業するタイミングまで我慢したんだから、これは褒められてもいいんじゃないだろうか?

 いやまぁここは勉強するところだからってのもあるけど、他の子はけっこう子供作っていたんだよ?

 それを考えるとかなり模範的な学生だったのではなかろうか。


「模範的な学生は卒業あたりに20人以上の子持ちにならないと思うんですよ」

「心を読むのは止めなされ」


 防壁をカットしていたら、普通に心を読まれた。それはまぁ接触しているから当然なんだけど、それにしても不公平である。


「いいなぁ~それ、私も欲しい」

「欲しいと言われましても、これはその、ほら、可愛がられる方にしか発現しない能力ですし」

「じゃあ無理ね」

「あっさり断言しますね。まぁお姉さまらしいですけど」


 当然である。私は女の子を可愛がるのが好きなのであって、可愛がられるのはさっぱりなのだ。まぁそもそもそっちの経験は全くないわけなのだが。


「私で良ければ可愛がってあげますよ?」

「だから心を読むなと言うに。……それはクラリッサにしてあげなさい」

「はぁ~い」


 もうすぐ帰ってくるクラリッサのことを考えたのか、シンシアがニンマリと笑う。もう完璧に力関係は決まっていて不動のものらしい。


「そういえばさ、これからは遥って呼んだ方がいい? それとも今まで通りシンシアがいい?」

「シンシアでお願いします。もうこっちの名前にもすっかりなじみましたし」

「ん、わかった。じゃあ今まで通りシンシアって呼ぶね」

「はい、お願いします。お姉さま」

「ところでさ、シンシアはどんな感じで転生したの?」


 ここは結構気になるところだ。


「えっと、学園に入る4年前くらいですかね……」

「そんな前なの!? 私入学前日だよ!?」

「それはまた凄いですね……準備期間とか何もないじゃないですか」

「うん。訳も分からないまま学園に来た感じ」


 いや、ホントびっくりしたなぁあの時は。この子と無理心中させられたと思って気が付いたら姿が変わって別世界にいたんだもの。

 そして魔法学園に入学して、その世界ときたら女の子同士で子作りができるときたもんだ。

 もう嬉しいなんてものじゃなかったわ。正直前世に残してきた私の恋人達のことは気がかりではあるんだけど、でもまぁそれは考えても仕方がないからねぇ、だって帰る手段なんてないわけで。


「私も最初は混乱しましたけどね、気が付いたら貴族令嬢の専属メイドになっていたわけですし」

「で、クラリッサに惚れちゃった、と?」

「そうなんですよ~。もうお姉さま以外の人に恋をするなんて思ってもみませんでしたからもう私自身びっくりでびっくりで! この胸の痛みは何なんだろうってしばらく自問自答してましたもん」


 そんな可愛いことを言いながら頬を染めるシンシアはとても可愛くて、焼きもちを焼く気にもならなかった。だって可愛いし。


「どこに惚れたの?」

「うう~ん、よくわからないんですけど……最初はまぁその、事務的にご奉仕をしていたんですよね。なぜかメイドとしての技能は完璧に覚えてましたし」

「え、そうなの? 私何も覚えてなかったんだけど、転生した時」

「そうなんですか? 私のときは、このシンシアとして過ごしてきたそれまでも全部覚えていましたけど……。こう、2つの人生を同時に生きていたような感覚と言いますか」


 何それ。何で私だけ事故っているの? やっぱり魔力容量のせい??


「それでその、お嬢様の優しさに触れているうちに、2年目あたりには恋に落ちてました」

「早いのか遅いのかわからない時間ね」


 まぁでもクラリッサって優しいいい子だし、惚れるのも無理はないわよね。だって私もクラリッサのこと大好きだし。


「ふぅ~ん?」

「でもお嬢様ったらアンリエッタ様に夢中で……私がどれだけアピールしてもちっとも振り向いてくれないんですよ? 寝るときは私を抱っこしてないと寝れないくせに!」

「昔っからなのね、それ」


 今でもクラリッサは1人ではなかなか寝られないらしく、私と寝るときは私を、シンシアと寝るときはシンシアを、そのどちらでもないときはルカやマリアンヌを抱っこして寝ているらしい。可愛い。


「でもまさかその、私が将来嫁ぐだろうと考えていたアンリエッタ様がお姉さまだったなんて……これも運命ですねっ」

「ほんとにねぇ」


 どのみち私と遥は再会する運命だったのだ。なかなか気の利いた運命じゃないか。


「あ、そういえばさ、ヤキューとかお好み焼きとか広めたのもシンシアなの?」


 あれずっと不思議だったんだよね。どう考えてもこっちの世界のものじゃないし。


「はい」

「なんでそのラインナップ……」

「だって、お姉さまとデートした時に野球観戦に連れて行ってくれたじゃないですか、そこで食べたのもお好み焼きでしたよ?」

「そう言えばそうだったわね」

「それで、メイド同士のツテを頼って、そういう事に興味がありそうなお嬢様にお仕えしているメイドの子に『異国の本で読んだんだけど、こういうのが流行ってるらしいですよ』って吹き込んで広めてもらったんです」


 そういうわけだったのか……謎が1つ解けたわ。


「あ~、えっとさ……一応確認しておくけど、私がハーレムを作っているのは構わないのね?」

「はいっ! 複数人の女の子を好きになることの素晴らしさを私も知りましたからっ。……できればエメリアやルカさんとも結婚したいんですけど……」

「エメリアはダメ。あの子は私の専属嫁だから。ルカは頑張って口説いてみなさい」

「はぁ~い! 頑張って口説きますねっ!」


 そう言ってシンシアは微笑んだ後、ふっと2人の間に沈黙が訪れた。


「シンシア……」

「はいっ……」


 ゆっくりと目を閉じたシンシアに、私は何度も何度も熱い口づけをする。もうこの子とは何十回何百回としてきた口づけだけど、何となくファーストキスのような感じがするから不思議なものだ。


「ぷはっ……」


 解放されたシンシアの口が、酸素を求めて大きく開く。


「もう離さないよ、シンシア」

「はい、お姉さまっ……これから一生愛してください」

「もちろんよ」

「私、お姉さまの赤ちゃん、いっぱい産みますねっ」

「クラリッサとの赤ちゃんと交互に、でしょ?」

「それはもちろんですっ」


 そんなことを言いながらにっこりと笑うシンシアの顔は、今まで見てきたシンシアの笑顔の中で一番素敵だった――


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