第166話 15人分でお願いします
「これはこれはアンリエッタ様、ようこそいらっしゃいました」
「どうもどうも、またお世話になります」
私達は、新たな彼女達に贈るための首輪を買いに街の首輪屋さんまで来ていた。
ついさっき知ったんだけどこの店、王家にも首輪を修めている老舗中の老舗らしい。どうりで店構えに風格があったわけだ。
「しかしまた何と言いますか……凄いですね」
「あははは……」
店長さんは私達一同を見回して感嘆の声を漏らす。でもまぁそれも無理はないよね。
だって彼女達と彼女候補全員で来たんだから、それはもう30人に届こうかという数で店長さんがこんなリアクションをするのも無理はない。
「私も長いところ店を構えておりますし、先代から引き継いだ記録とかも見ておりますけれどここまでのお客様はついぞいませんでしたよ」
「ですよね~」
「しかも……えっと、あの……コーデリア王女殿下でいらっしゃいますよね?」
「うむっ、いかにもコーデリアじゃ」
私が王族の姫までも嫁に迎えたと言う事実に、店長さんは驚きを隠さなかった。
まぁ私も一応……というかなんというか自分で言うのもあれだけど大貴族の娘だし、家柄的には王族の継承順位低めの姫を貰うこと自体は、珍しくはあるものの無くはない話らしい。
それでもまさか王族が直に店に足を運ぶなんて考えてもいなかったのだろう。
「わざわざこのような店に足をお運びになるとは……恐縮の至りです」
「よいよい。わらわも興味があったでの」
その言葉通り、コーデリアは興味深げに店の中を見渡している。こうして買い物に来る、という事自体がもしかしたら初めてのことなのかもしれない。
「ま、わらわもこうしてアンリエッタに一目惚れしてしまっての。将来的に嫁にして貰うことになったんじゃ。良いのを見繕ってくれ」
「は、はい、それはもう……!!」
コーデリアは楽しそうにしながら、私の腕にぎゅっと抱き着いてきている。
こんな小さな子に首輪をはめて将来的に自分の嫁にするとは、首輪文化とは何と背徳感溢れる行為だろうか……!!
いやでもまだ手を出してないしセーフ! セーフといったらセーフなのだ!!
「似合うのを選んであげるね、コーデリア」
「うむっ、頼むぞ先輩っ。これでわらわは名実ともにそなたのモノになるんじゃからのっ」
そんな可愛いことを言いながらパチリと小悪魔的にウインクなんかされると、手を出さないと決めた決意が崩壊しそうになるんでやめてもらっていいですかねぇ。
いや、断固まだ手は出さないけど!!
「えっと、それで、合わせて何名様分ご用意したらよろしいでしょうか?」
「あ、はい。15人分でお願いします」
「じゅ……!?」
店長さんが固まる。まさかの数だったらしい。
「あ、えっと……はい、承知しました」
不測の事態から生じたフリーズからわずかな時間で立ち直る辺りは、流石老舗の店長さんといったところか。
そして店員さんが恭しく運んできた箱に入ったきらびやかな首輪の数々から、それぞれ彼女達に似合うものを選んでいった。
「じゃあ……コーデリアにはこれで、ディアナはお揃いの奴がいいよね」
「はい、それはもう」
「じゃあ決定ね」
コーデリアとディアナに選んだのは、揃いの黒に金で縁取りされた気品漂う一品だ。これなら王族でも恥ずかしくない品だろう。
「サリッサは……やっぱりエメリアと同じ奴がいいよね?」
「流石アンリエッタ様! 良くお分かりで!!」
そりゃわかるわい。だってあなたエメリアの首輪さっきからガン見してるしね。
私がエメリアに首輪を買ってあげたキマーシュの街の店もこの店の支店らしく、おんなじ物が置いてあったのでそれにする。
「えへへっ、お姉ちゃん、お揃いだねっ」
「うん、そうだねっ」
最近一緒の時間を過ごすことが多いせいか、姉妹仲は良好なようだ。良きかな良きかな。
まぁエメリアは私のだから2人っきりとかにはさせないし、エメリアもする気は全くないみたいだけど。
「えっとそれで……」
それから、生徒会長と副会長、そしてそのメイドさんに揃いの首輪を選ぶ。
この子達が、私が選んだ首輪を付けて壇上に上がるところとかを考えるとなかなかワクワクするものがあるなぁ。
さて次は妹達のかなとか思っていると、妹達がキャッキャッと声をあげた。
「お姉ちゃん、私、可愛いのがいいなぁ~」
「私は落ち着いたのでお願いします」
「えっとぉ私は~」
各々好みは異なるらしく、並べられた首輪を前に実に楽しそうに眺めている。
「妹さん、なんですか?」
「はい。そうです。この子たち7人、全員私の妹です」
「なんと、7人も……!!」
さっきのコーデリアの時ほどではないものの、店長さんはやっぱり驚いた顔を浮かべた。
まぁでもそれもそうよね。だって妹だし、7人だし。
「そうだよっ、私、お姉ちゃんのお嫁さんにして貰うんだ~」
「もう百合子作りだってしているんだから!」
「ねーっ」
妹達は仲良く「ねーっ」と声を揃える。
「こらこら、人前ではしたないでしょ?」
「だってぇ、嬉しいんだもん」
その言葉通り、もう既に妹達とは百合子作りの術式を開始していた。何せ私は夏休みが終わったらユリティウスに帰らないといけないから、その前に術式を完了させる必要があるからである。
しかし私も伊達に13人と百合子作りをしてきたわけでは無いので、もう術式を行使するのも慣れたものである。
7人同時百合子作り、しかも夏休みの間に、しかも他の彼女達ともしっかり仲を深める。という凄まじい条件の中、私はなんとかなりそうだなと思っていた。
このままのペースで順当に行けば、夏休み中に妹達は私の子供を宿すだろう。
ちなみにアリーゼ先生は呆れていた。曰く「もう何と言いますか、私の過去の研究がアホらしくなるくらいの魔力量ですね……」とのこと。
「お姉ちゃんとの赤ちゃん、楽しみだなっ」
「ふふっ、そうですね」
「私、もう名前考えてあるんだ~」
「いやはや、何ともご馳走様です」
ワイワイとはしゃぐ妹達を、店長さんが微笑ましいものを見るような目で見つめている。
「すいません、騒がしくて」
「いいんですよ。私も妻のところに嫁に行ったばかりのときは同じように浮かれていましたし、懐かしいです。あ、ちなみに私の妻というのが私の姉なんですけどね」
ここにも姉妹結婚した人が!! 結構普通のことなのね!!
「店長さんも姉妹結婚だったんだ! ねぇねぇ、お姉ちゃんと結婚するってやっぱり嬉しい?」
妹の1人で、ちょっと子供っぽいところが魅力の子が店長さんに質問をぶつける。同じ姉妹結婚という事で興味がわいたんだろう。
「それはもう、ずっと好きでしたからね。受け入れてくれたときは天にも昇る気持ちでしたよ」
「私と一緒だ~。私もお姉ちゃんのお嫁さんになれるって決まった時、すっごく嬉しかったもん!」
「こらこら、あんまりはしゃぐんじゃないですよ」
「ええ~? でもユノだって大喜びしてたじゃない?」
「そ、それはそうなんですけど……!!」
ユノと呼ばれたクールなタイプの妹がメガネを直しながら恥ずかしそうにしている。
全員タイプが違って、実に可愛い私の妹彼女たちである。
「おほん……さて、じゃあこんなところかな?」
7人全員の好みからそれぞれに似合うような首輪を選び出すと、妹達は満足げに頷いた。
「で、どうします? このまま付けていかれますか?」
「え、あ、はぁそれは――」
私は意見を伺うように彼女達を見渡したけど、全員が「当然」って感じで頷いたので、店の奥にある台座で全員に首輪を付けてあげることにした。
そしてその後、私は24人の彼女達のリードを持ったままという、凄まじい形のデートを継続したのだった――
お読みいただき、ありがとうございますっ!!
これにて第11章――3年夏休み、完結になります!
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