第165話 幸せに浸る
「――それで、どうなりましたか?」
隣の部屋で妹達との話し合いをしてきた私をエメリア達が出迎えた。
「あ~えっとね~」
「まぁでもその嬉しそうな顔を見たら言わずともわかりますけど」
「あ、あはははは……」
母親達との会談が終わった後、妹たちの待つ部屋に行った私を待ち受けていたのは、凄まじいまでの妹達の歓待だった。
まず部屋に入るなり全員から抱きつかれ、挨拶もなしにキスをせがまれ、それにより主導権は一気に妹側に傾いてしまった。
そしてその流れのまま交渉のテーブルに着かされた私は、妹達からの要求を一方的に飲まされてしまったというわけである。
飲まされたとは言っても、それは全くもって私の損となるものではなく、「私達をお姉ちゃんのハーレムに入れてくれること。この夏休み中に全員と百合子作りを済ませること。首輪を贈ってくれること。全員を末永く愛すること。そして最低3人は子供が欲しい」というものだった。
「まぁ予想通りですね」
「そうですね~」
私からの報告を受けたエメリアとシンシアが呆れたような諦めたような顔をしながら手帳を取り出した。今後のスケジュール調整を行うんだろう。
いつもお世話になっております!
「だ、だってしょうがないじゃん!! あんな可愛い妹達から囲まれて「お嫁さんにして」って迫られたんだよ!? それにうんと言わないと解放してくれなさそうだったし!!」
「お嬢様? そういう割にはお顔がとてもにやけてますよ?」
「はっ……!?」
私ははっと顔に手を当てる。だってぇ! 色々タイプが違うけどみんな私の好みだったんだもん!!
それにずっと一緒に過ごしたという記憶も実際のところ「転生して来た私」には無いわけだから、妹というよりはただ可愛い女の子という存在なのだ。
そりゃ嫁にするよね。
「それで、今後のご予定はどうなっていますか?」
「あ、うん、えっとね……近いうちに街に首輪を買いに行こうって話になって」
要求された通り、全員分の首輪を買いに行くことになったのだ。
実の妹たちに愛の証として首輪を贈る……実に背徳的だがもう慣れたわ。
「わかりました。手配しておきますね」
「あと他にまだ首輪を受け取っていない子達も連れて行ったらどうですか~?」
「そうだね、そうしよっかな」
そう言えば百合子作りでバタバタしていて、最初の9人以外にはまだ首輪を贈っていなかった。不公平になってもあれだし、ここは全員に贈ることにしよう。
でも――
「えっと、コーデリアも欲しい? 首輪」
この子、由緒正しき王族の姫なんですけど。そんなことを考えながら聞いたけど、答えは即答だった。
「それは欲しいに決まっておろう」
「そ、そっかぁ」
恐れ多くも王族の姫に首輪を贈るというのは、慣れてきた私にもなかなかにアレなものがある。
でもまぁ本人が欲しいと言っているんだから、ここは素直に贈るべきだろう。
それによくよく考えたらこれはこれで、こう……いいよね。
「じゃあコーデリアも一緒に行こうか。大丈夫だよね? エメリア」
「はい、あそこは老舗中の老舗ですから、そこの品なら王族の方が身につけていても何らおかしくありません」
「うむ、クロエール領にある例の老舗のことはわらわも聞いたことがある。確か姉上……女王陛下も愛用しているとか」
「女王陛下が!?」
「うむ、妹たちに贈っておった。……思えばわらわも贈られる相手は違えど同じ店からの首輪を贈られるとは、これも運命かの」
おかしそうに、コーデリアがクックッと笑った。
「しかしせっかくじゃからの、皆で行くというのはどうじゃ? そっちの方が楽しいじゃろ」
「いいですわねっ」
コーデリアの提案に皆も賛同し、結局全員で街に行くことになった。……あれ? でも1点気になることが……
「あ、あの~、もしかして全員首輪していくの……?」
「もちろんです」
ひえええ。マジか。それ絶対リード付きだよね? そしてそのリードを持つのは私。
しかもまだ贈ってない子にも贈るから、えっと……計24人!?
24人の首輪付き女の子とのデート……凄い光景だな……
「そんなことでしり込みしていたらやっていけませんわよ? 妹さんたちとも百合子作りをするのなら、卒業した辺りでアンリちゃんは20人の子供のお母さんになるんですから」
クラリッサが目を細めながら、私の子を宿したお腹を愛おしそうに撫でる。
「いえいえお嬢様、双子って可能性もありますし」
「ああ、それそれ。確か2人の相性が良ければよいほど双子以上が生まれやすいんだよね」
何それ初耳。
「ルカ? それは俗説ですわよ。統計的にはそんなデータはありませんわ。それに相性がいいとかどうとか、どうやって判定してますの?」
「ん、まぁ確かにそれはそうなんだけどさ」
ルカもまた愛おしそうに自分のお腹を撫でている。
「でも、な~んか確信みたいなものがあるんだよね~。私、多分双子だよ」
「え、ルカもですの? 実はわたくしもそんな気がしていますのよ」
「あ、私もです」
「私もですよ~」
えっえっ、なにそれどういうこと?
私の子を宿した女の子達が私も私もと一斉に言ってきているんですけど。
「あ、アリーゼ、これはどういうことですか?」
「うーん、まだこの段階では双子かどうかは魔法的には判断できないんですがね……」
そう言いながら、先生も皆と同様にお腹をさする。
「しかしみんなの言う事も分かります。なんか私もそうなんじゃないかなって思っていまして……。いやその、相性が良ければ双子以上とかそういうのは俗説だとは思ってはいるんですが……」
「でもさ、規格外の魔力を誇るアンリエッタとの百合子作りの術式だよ? 可能性は捨てきれないんじゃない? かく言う私も何かそんな気がするし」
テッサはどっちかというと占いとかを信じるたちらしく、迷信めいたこととかも好きなようだ。
「ええええ……? ふ、双子?」
「いえ、お嬢様、あくまで予感ですよ、予感」
いやそれはそうなんだけどさぁ。みんなが揃って言うとなると、なんかそんな気がしてくるんですけど。
でもそうなったら私一体何人の子供のお母さんになるんだろう。幸せだけど。
「それに、私は何人でもお嬢様の赤ちゃんを産んで差し上げたいと思ってますし」
「ああっ、エメリア、抜け駆け禁止っ!! アンリ、私も何人でも子供欲しい!!」
「わたくしもですわっ」
彼女達が一斉に私に抱きついてくる。百合子作りが完了してからというものの、より一層愛が深まったらしく彼女達からの愛はそれこそ溢れんばかりに感じられるのだ。
「いいのう。わらわも早くそなたの子が欲しいぞ」
「殿下? それは私のセリフなんですけど……」
「うっ!? じゃ、じゃからの、それは臨機応変にと言うか、持ち帰って検討させて頂きますと言うか何というか……」
どこのお役人のセリフだ。あなた王女様だろう。
しかしこれに関しては、コーデリアは自分のメイドであるディアナに頭が上がらないらしい。
さっさと勇気を出せばいいと思うけど、恋愛にはいろんな形があっていいのだろう。
「それにしても……楽しみだなぁ~」
「私もですよっお嬢様っ」
私は愛しい彼女達のお腹を撫でながら、その幸せに浸るのだった。