第162話 奇跡以上の奇跡
「えへへへ~幸せですっ」
実家へと向かう馬車の中、隣に座ったエメリアが愛おしそうにお腹を撫でている。
百合子作りの儀式が終わり、先生が診察したところ見事にエメリアのお腹には新たな生命が宿っていた。
女の子同士でも子供が持てると言う、私からしたら奇跡以上の奇跡を実際に目の当たりにした私は震えた。でもそれ以上に愛おしさが湧いてきて、この子達を幸せにしようと心から思ったのである。
この子達、というのは、それから日を置かずに百合子作りの儀式を彼女達と進め、この帰省の日までに13人の彼女達のお腹に私の子供がいることになったからだ。
つくづく凄いことだと改めて思う。ちなみにお腹の中で育つの期間は10か月程度でその辺は変わらないらしく、その辺をいじることはいかなる魔法でも不可能らしい。
先生曰く「生命に対するプロテクトが働いている」とかなんとかかんとか。
そんなこんなで私はお腹に私の子を宿した彼女達と、まだお腹に宿してはいないけどそのうち宿すであろう彼女達を引き連れて実家へ向かっているというわけである。
もちろん全員に保護魔法を厳重にかけてあるので馬車での移動には差し支えない。
ちなみにごく最近彼女になったサリッサのお腹にも私の子供が宿っている。私頑張った。
「わたくしも、幸せですわ」
「私もだよ」
「私もですね~」
「まったくねぇ、こんな幸せでいいんだろうか」
前回の帰省時には2台だった馬車は今では3台に増え、彼女15人、彼女予定のコーデリア、ディアナ、ミリーとその妹、それに娘のナデシコに私を入れて計20人の大所帯だ。
そして私と同じ馬車に乗りたがる彼女達とローテーションをしつつ故郷への旅路というわけだけど、今のメンツはくしくも最初の方に彼女にした子達だった。
すなわち、エメリア、クラリッサ、ルカ、シンシア、そしてモニカである。
私の膝の上にはミリーと大の仲良しであるナデシコも座っている。ナデシコはずいぶんおっきくなってきていて、既に背が30センチほどもあった。
「はぁ……このお腹の中にアンリちゃんの子供がいるなんて、生きててよかったですわ」
「大袈裟だなぁ」
「大袈裟なんてことありませんわ。私にとってはこれ以上の幸せはありませんのよ」
クラリッサはそう言いながら幸せそうに目を閉じて、私に寄りかかってきた。
「そうですよ。私なんてお嬢様に愛していただくためにこの世に生まれたんだって思ってますし」
「あ、それは私もそう思うことある」
「私の場合はそれにクラリッサお嬢様が加わりますけどね~」
「私はアンリエッタ一筋かなっ」
彼女達がめいめいに思いのたけを口にしてくれる。その言葉は私をとても幸せな気持ちにさせてくれた。
ああ、幸せってこういう事を言うんだろうなぁ。
私の子供たちをその身に宿した女の子達に囲まれている。これ以上の幸せがあるだろうか。
しかも後ろから付いてくる馬車の中にも、同様に我が子を宿した女の子がいっぱい乗っている。もう幸せ過ぎて怖いくらいだ。
「いいなぁ~」
そんな幸せいっぱいの私の膝に乗っかったまま、ミリーが彼女達を羨ましそうに眺めると、ナデシコも真似をして「いいなぁ~」と言った。
そして口を開くと、とんでもないことを言いだした。
「ねぇアンリエッタママ――私もアンリエッタママの赤ちゃん欲しい!」
「ぶっ!?」
身をよじって私の方を見たミリーが、私に子供をせがんできた。いやいやいや!? まだ10年早いからね? いや10年でもまだ早いけどさ。
「まぁまぁ、ミリーちゃんはおませさんですわねっ」
「ですね。子供って可愛いです」
私がこの子と魔法誓約をしているという事情を知らない面々は微笑ましいものを見るように笑っているけど、それは知らないからこその反応なのだ。
しかもこの子、わざと冗談っぽく言っているけど目が笑っていない。ガチもガチ、おおガチなのである。
本気で私との子供が欲しいと思っているみたいだけど、いや流石に待ってくれ。将来的に嫁にはするけどそれまではなんとか逃げ切らないといけない。
だってそうしないと社会的に死ぬ。いや、この世界なら法律もないし死なないけど、前世の倫理観を引きずっている私にとってはやはり社会的に致命傷なのだ。
「そ、そうだね~。おっきくなったらね~」
冷や汗を流しながら何とか逃げ道を探る。
「えええ~。私、もう大人だよ~」
どこがじゃ!! まだあなた4歳でしょ!! 年齢詐称いくない。
「ほら、この薬、これを飲めば私も大人だよっ」
「ば、馬車の中狭いからやめとこうね~」
ミリーはぽっけから一時的に大人になれる成長薬を取り出すと、私に自慢気に見せてくる。そのお高い薬、持ち歩いてるのね……
先生達、娘に甘すぎない?
「ええ~この馬車広いもん、私ひとり大きくなっても平気だよ~」
確かに自分で言うのもなんだけど、大貴族である我が家の所有する馬車なだけあって、この馬車は広いからそれは方便というやつである。
ただこの薬、当然ながら服とかはそのままなので、今そんなもの飲まれて大きくなったらそれこそ大変なことになるのだ。主に私の理性が。
「ミリーちゃん、わがまま言ったらだめですよ~」
どうもこの子との誓約に感づいてるんじゃないかという節のあるシンシアがやんわりと止めてくれた。
助かるけどその目がちょっと怖い……。
「でも~」
「アンリエッタママは、素直ないい子が好きなんですよ~? アンリエッタママに好かれたいですよね?」
「ううん……わかった」
渋々と言った感じで、ミリーはぽっけに薬をしまった。
いや、ワガママな子も大好きだけどね。その子を手懐けていくのなんか最高だよ。
確かに前世ではそういう素直ないい子ばかりハーレムに加えていたけど、趣味というのは移ろいゆくものなのだ。
しかしそれにしてもミリー、成長してまた一段と可愛くなっている。完全に成長した後の姿がとんでもない美少女なのはわかっているけど、それでも今の姿もとても可愛い。いや私はロリコンじゃないけどね。
でもこの子を私好みに育てていって嫁にするのもいいかもしれないなぁと、膝の上のミリーを見ながらそう思った。
「それにしても……」
場の空気が一段落すると、エメリアがぽつりとつぶやいた。
「奥様びっくりするでしょうね」
「ああ、うん。それはね」
その理由は彼女が大幅に増えていることもあるだろうけど、それ以上にびっくりするだろうと言うのはコーデリアのことだ。
なにせ現女王の妹君であらせられ、れっきとした王女様なのだ。
その王女様が私と結婚を前提としたお友達付き合いをしていると言うのだから、聞かせたら卒倒しかねない案件である。
「えっと、仮にコーデリアが私の子供を産んだら……その子は王族になるの?」
「一応そうなりますね。大貴族の当主になられるお嬢様とコーデリア殿下なら家格も釣り合いますし。継承権はかなり低いですけど」
それでもれっきとした王族というわけか……いや、ホント凄い子なんだなぁコーデリア。
後ろの馬車に一緒に乗せているのが申し訳ないけど、断固私達と一緒にローテーションがいいと本人が言ったので、そこは仕方ない。
「娘が帰省してきたら彼女が6人、彼女候補が2人増えていて、しかもそのうち一人は王族とかもうそれは驚くだろうね」
まぁ驚かせようと思ってわざと伝えていないんだけど。
今から母親達がどんな顔をするのか考えるとそれは今からとても楽しみなのだった――