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第160話 かなりぶっ飛んでるよね、この子。

「あ、貴方を嫁に……!?」

「はい、ぜひお嫁にしていただきたいです」


 流石の私も初対面のメイドさんから結婚を迫られるなんて激レア体験は今まで――いや、つい最近経験してたわ。

コーデリアとディアナから出会った初日に結婚を申し込まれてたんだった。


「どうですか?」

「ど、どうですかと言われても……!!」


 サリッサは先ほどからの小悪魔的な笑みを継続したまま、私の腕にそのエメリアに勝るとも劣らない見事なものをぐいぐいと押し付けてくる。

 この子、完全に自分の武器を理解してやっているわ。そして私はその武器にめっぽう弱いのだ。


「自分で言うのもなんですけど、私も貴族令嬢の専属メイドに選ばれた身、メイドとしては1流だと自負しています。アンリエッタ様へのご奉仕も完ぺきにこなして見せますよ」

「で、でもさ、貴族の専属メイドってことはその子のお嫁さんになる予定ってことなんじゃないの……?」

「いえ、それは必ずしもそうではないんですよ。私の場合は完全にお仕事としての専属メイドです。なぜなら私がお仕えするお嬢様はもう既に結婚相手を決めていましたので」


 そうなんだ。専属メイドって即許嫁的なイメージがあったけど違うパターンもあるのね。


「その結婚相手というのが母の年の離れた妹2人――つまりお嬢様の叔母なんですけど」

「お、叔母!?」


 それにはちょっと驚いたけど、姉妹での結婚すら当たり前のこの世界ではそこまで珍しいことでもないのかもしれない。

 確か結婚できないのは実の母と娘のケースだけだったはずだ。ここまでくるとなぜそこだけできないんだって気がしなくもないけれど。

 まぁそれにしたって事実婚って形で結ばれている家庭もいっぱいあると言うから驚きだ。

 ちなみに先生曰く、「百合子作りの魔法は近親交配的な問題も全てクリア―されています。だからこそ『歴史上もっとも偉大で今後並ぶもののない魔法』と呼ばれているのです」とのこと。

 いや色々と解決しすぎのような気がしなくもないけれど、そのおかげで様々なキマシタワーがあるわけだしまぁいいか。


「まぁそういうわけでして、私がお仕えするお嬢様との結婚問題は考えなくてもいいわけなので、遠慮なく私を貰ってください。……もっとも、アンリエッタ様が私のお嬢様に興味がおありでしたらご紹介いたしますけど」

「いやいい! それはいいよ!!」


 だってそうして万が一その子も嫁にすることになったら、もれなく叔母も含めて3人を嫁にすることになるじゃん!?

 だって婚約している女性を娶る場合はその婚約者も全員嫁にするのが決まりだからね!

 流石に短期間にそんな増やしすぎるとエメリアに怒られちゃうよ!!


「そうですか? なかなか可愛らしいお嬢様とその叔母達なんですけど」

「き、機会があればね……」


 危ない危ない。気が付くと嫁がもりもり増える状況になっている。流石にペースを落とさないと身が持たないわ。嫁は大勢いるのに私の体は1つしかないんだから。


「で、どうでしょうか? 私を嫁にする件」

「え、ええと~」


 私は私の腕にギュッと抱き着いてきているサリッサを改めて見る。

 エメリアと同様にこの世界では極めてまれな美しく短い黒髪、エメリアと同様に澄んだ色をした瞳、そしてエメリアと同様にたわわ過ぎるたわわ、そして何より私が大好きなメイドさん!

 つまりは私が愛するエメリアとそっくりに可愛い女の子なのである。性格はかなり違うようだけど。

 でもこの子の魔力容量って感じられる分としては多分人並だし、私に一目ぼれしたって感じじゃないのよね。

 恐らく……というか十中八九、姉と一緒にいたいと言う姉ラブの感情から、私の嫁になると言う手段を選んだんだろう。

 そんな子を果たして嫁にしていいものか、うーん、悩む。

 でも例えばお見合いとか政略結婚とかでも結果的に仲睦まじい夫婦になったりはするし、最初はそんな感じの関係があっても面白いのかもしれない。


「えっと、1つ聞きたいんだけど、私の嫁になりたいって言うのは私に惚れたからなの?」


 ここでウソをつくようなら嫁には出来ない。でももし正直に言うのなら――


「いえ、まだ惚れてはいませんね。会ってみて魅力的な方だとは思いましたし、お姉ちゃんからの手紙とかで散々惚気られましたからよーく存じ上げてはいましたけど」


 うむ、ひとまずここは合格。小悪魔的なのは私も好きだけどまず正直者でないとね。


「これから好きになっていきたいなって思ってます」

「なれそう?」

「はい、お姉ちゃんがずぅっと好きだったお方ですから、私も知り合っていけば好きになるに決まっています。だって私はお姉ちゃんの妹ですから」


 きっぱりと、私の目を見てそう言い切った。凄い自信だ。


「う~ん、それじゃあまずはお友達からってことでどう? 将来的には嫁にするってことも考えてるけど」


 そう提案すると逸れに不満だったのか、わずかに顔を曇らせた。


「えっと……私的には直ぐにでもお付き合いして頂きたいんですけど」

「なんで?」

「だって、私早くアンリエッタ様との赤ちゃん欲しいですし」


 ぶーーーーーーっ!!!

 あ、赤ちゃん!? いきなりそう来る!?


「な、な、な!? 今はまだ私のこと好きってわけじゃないんだよね!?」

「はい、今はまだ」

「じゃあなんで!?」


 どうしてすぐにでも私との子供を欲しがるの!?


「だって、お姉ちゃんとアンリエッタ様との娘と、私とアンリエッタ様との娘を幼馴染にしてあげたくて」

「は、はぇぇぇ」


 この子、お姉ちゃんのこと好き過ぎない!? 計画が遠大にも程があるんだけど! 愛が重いよぉぉ!


「そしてできればその2人同士を許嫁にして、結婚させてあげたいんです」


 ぶーーーーーーーーーっ!!!


 私はまた吹き出した。

 なんてとんでもないこと考えてるんだこの子!?


「だって、愛するお姉ちゃんの娘と私の娘が結婚するなんて、考えただけでもゾクゾクしません? しかも私とお姉ちゃんの相手は同じ相手で、つまり腹違いの姉妹!! これはもう実質私とお姉ちゃんの結婚と言ってもいいのでは?」


 いや、そうはならんだろ。


「ず、随分と長期計画ね……そんなにお姉ちゃんのこと好き?」

「はい! だってお姉ちゃんから『アンリエッタ様の専属嫁になるから、サリッサの嫁にはなれない、ごめんね』って正式に断られるまでは、ずっとお姉ちゃんに私の子供を産んでもらうのが私の夢でしたから」

「でも、エメリアは私のだから」

「はい、それは諦めました。流石に専属嫁宣言をされたらそれ以上迫るのも野暮ってものです」


 だからと言ってその結婚相手の嫁になろうとは普通思わないと思うんだけどなー。この辺かなりぶっ飛んでるよね、この子。


「まぁそういう訳でして、私は私の願いのためにアンリエッタ様のお嫁になりたいんです。もちろん将来的にはきちんと愛が芽生えるといいなとおもってますけど」


 そこまではっきりと言われると、毒気を抜かれるというかなんというか、まぁいっかなって気になってくるから不思議なものだ。

 しかしアレね、この儀式の準備をしているさなかに新たな嫁を迎える話をしているとか、嫁が出産で頑張っているときに浮気している亭主的なものを感じなくもない。


「あ、そうそう、そういえばなんですけど」

「なに?」


 私が聞き返すと、サリッサは頬にちょんと人差し指を当てて実に可愛いポーズをとった。そして――


「――私まだ生娘(きむすめ)ですから。その辺はご心配なく」


 ぶーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!


 一日で3度も吹き出すとは思わなかったわ!! 何なのこの子!!


「お嬢様とは添い寝とかはしていましたけど、私に全く手を出してきませんでしたので。よっぽど叔母たちが好きだったんですねぇ」


 コロコロとサリッサは笑っているけど、いやそれ凄いことよ?

この子と添い寝して手を出さないとかどんだけ鋼の精神なんだ? もしくはまな板じゃないとダメとか?? 逆にちょっとそのお嬢様に興味が湧いてくるわ。

 

「そういうわけですので、私を存分にアンリエッタ様の色に染め上げてくださいまし」

「そ、そういう言い方は卑怯だと思うよ……?」


 だってエメリアそっくりな美少女が、こんなにも魅力的な小悪魔的微笑を浮かべながら私を上目遣いで見てくるなんて! こんなの反則でしょ!? 審判呼んで!!

 なんて思いながらあたふたとしていると――


「あの~お嬢様、そろそろ儀式を――ってサリッサ!? 何してるの!?」


 審判が現れた。

 そしてその審判の前で反則行為をしているサリッサは、更にわたしにぎゅうっっとしがみ付く。だからそれ反則ぅ!!


「あ、お姉ちゃん、私、アンリエッタ様の彼女になったから」

「ええええええ!?」


 い、いや、まだ正式に返事はしてないぞ!? とは言ってもこの誘惑に抗える気は全くしないんだけど。


「私が今からお嬢様のお子を授かるこのタイミングで――どういうことですか!?」

「い、いやそれがその……」


 だってエメリアそっくりで可愛いしぃ!


「これで、私とお姉ちゃんはカノ友だね、これでずっと一緒だよっ」

「な、な、なななな……えええ……」

 

 これから私の子供を授かるための儀式に臨むエメリアは、突然の事態に困惑を隠せないのだった――


お読みいただき、ありがとうございますっ!!

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