第159話 エメリアの妹
「さぁ、それじゃああともう少しで儀式を始めますよ?」
「それはいいんですけど……」
私達は百合子作りの最終段階である『魔力カプセルに私の魔力を封入させる儀式』を行うため、魔法の儀式場に集まっていた。
前にマリアンヌをホムンクルスに転生させた時と同じ場所だけど、床に描かれた魔法陣の書式は大きく異なっていて、それがすでに神々しい光を放っている。
場を取り仕切っているのはもちろんアリーゼ先生で、さっきから入念に魔道具のチェックを行っていた。
私のハーレムにおいて初めての儀式ということで、ミリーも含めて集まれる彼女達には全員集まってもらったんだけど……
いつの間にかそこに1人、見慣れないメイドさんがいるんですけど!?
大きなお胸とショートカットにした黒髪が特徴のこの子……一体何者? かなり可愛いけど。
「あの……」
「あ、初めまして、アンリエッタ様ですよね?」
「あ、うん、そうだけど……」
「突然部外者がお邪魔してすみません。でもどうしても儀式に立ち会いたくて……先生に許可は取っています」
「いや、それならいいんだけど」
この時期の百合子作りの儀式は授業の一環みたいなものなので、届け出さえ提出すれば誰でも見学が可能なのだ。
まぁこうやって魔法カプセルに魔力を込めて、それを女の子に飲んでもらうという儀式だから誰に見られても困ると言うものでもない。
それにしても大抵は縁のある子の儀式を見に来るものなんだけど……
「あの、それであなたは――」
「あ、申し遅れました。いつもお姉ちゃんがお世話になっております。私、エメリアお姉ちゃんの妹のサリッサと申します」
そのメイドさんはメイド服の裾をつまんで優雅にお辞儀をすると、その豊かなたわわがユサッと上下した。
おおう、見事に揺れている、これは凄い……じゃなくて、え??
今なんて言った?
「えっ、エメリアの……妹?」
「はい、今回アンリエッタ様のお子を宿すことになったエメリアお姉ちゃんの妹です」
えっ、何それいきなりすぎるんだけど。いきなりの登場に私が面食らっていると、そこにエメリアがすっ飛んできた。
「ええっ!? サリッサ、何でいるの!?」
「もうっ、水臭いなぁお姉ちゃん。せっかくの儀式なんだから呼んでくれたっていいじゃん」
「え、いや、だってその――」
なんかエメリア、凄く動揺している。
そう言えばエメリアって妹さんからすっごく熱烈にプロポーズされてたって言ってたっけ。曰く「お姉ちゃんに私の子供を産んで欲しいのっ」とかなんとかかんとか。
姉妹同士の結婚が当たり前にある世界ならではの求婚だけど、改めて凄いわ。
「サリッサ、ずっと私と百合子作りしたがってたでしょ? だから、その……私今からお嬢様のお子を授かるわけで……」
「私がショックを受けるかもって? やだなぁ、そんなことないってば」
「そ、そうなの……?」
「そうだよ。だって私のプロポーズをしっかり断ってくれたでしょ? 『私はお嬢様のためだけのお嫁でいたいんです』って。そこまで言われたら諦めるしかないでしょ」
か、間接的にそういう事を聞かされると一層照れるね……エメリアの顔も儀式場の薄暗い中でもはっきりわかるくらい真っ赤だけど、多分私の顔も同じような色をしているんだろう。
「で、でもサリッサ最近でも私のことデートに誘ってきたでしょ?」
「そりゃ姉妹なんだもん、健全なデート位したっていいでしょ?」
「ま、まぁね……」
どうもこれは、エメリアが思い込みをしていた……のかな? 妹の方ではもう諦めがついているという事なんだろうか。
「じゃあ、気にしていないの? サリッサ」
「当然でしょ? だってお姉ちゃんが愛しい相手の子供を授かれるんだもん。祝福するのは当然でしょ。おめでと、お姉ちゃん」
「さ、サリッサぁ……!!」
妹からの祝福の言葉に、エメリアは涙を浮かべて妹に抱きつく。
イイハナシダナー。しかもお互いに物凄いたわわだからそれがぶつかり合っているところも素晴らしい光景だなー。
「ごめんね、私サリッサのこと誤解していた……!!」
「いいよお姉ちゃん、私も悪かったしね。私、お姉ちゃんとの赤ちゃん凄く欲しかったからつい無理を言っちゃって」
「いいよいいよっ」
エメリアは、潰れちゃうんじゃないかってくらいぎゅうぎゅうと妹を抱きしめる。
「お、お姉ちゃん、くるしっ……」
「あ、ああ、ごめんね、つい」
「もう、お姉ちゃんったらっ…………でも、やっぱり私、お姉ちゃんとデートはしたいなっ」
サリッサは甘えるように姉におねだりをしている。その姿は完全に仲のいい姉妹そのものだ。
「け、健全なのならいいよ……? 私、お嬢様の専属嫁なんだから……」
「うんうん、健全健全、それでいいよっ、じゃあ今度デートしてねっ?」
姉の熱烈なハグから解放された妹が乱れた服を直しながら微笑んでいると、そこにアリーゼ先生から声がかかった。
「エメリア~。最終調整するからそこの魔法陣の中心に立って~」
「は~い、わかりました~」
エメリアはそう言うと、晴れやかな顔をして先生のところに小走りで駆け寄っていった。懸念だったことが1つ片付いたのだから晴れやかになるのも当然よね。
そんなエメリアを見つめていると、サリッサが私の側にスススと近づいてきた。
「お姉ちゃんのこと、よろしくお願いしますねっ」
「もちろん!」
なんだ、聞いていたよりずっといい子じゃないか。エメリアの話から、姉に物凄く執着している子ってイメージがあったけど、話してみるととても普通のいい子だ。しかもエメリアによく似ていて愛いし。
「楽しみですねっ、お姉ちゃんとアンリエッタ様の娘さんなら絶対可愛いですよ」
「私も今から楽しみだよ」
まさか生粋の百合の私が我が子を抱ける日が来るなんて思ってもいなかった。こう考えると、無理心中させられた遥にも今は感謝だね。
そう言えば遥が転生してきているかもって考えたときもあったけどあれは結局考えすぎだったんだろうか?
――そんなことを考えていると、サリッサは更に私との距離を詰めてきた。もう肘と肘が当たりそうな距離だ。
「それでですね、ちょっとアンリエッタ様にお願いがあるんですけど」
「え、お願い? 何?」
今の私は最高に幸せな気分だし、大抵のことなら聞いてあげようと言う気になっている。しかも愛しいエメリアの妹というなら私の妹も同然なので、どんとこい、ってなもんである。
「いいよ、言ってごらん」
「あ、はい、そのですね……」
何か照れくさそうにもじもじとしながら頭の後ろをかくと、この世界では極めて珍しい黒髪がわずかに揺れた。
「いやぁ、いざ言うとなると恥ずかしいですね」
「恥ずかしいことなの?」
「うーん、いや何と言いますかですね、その、端的に言いますと――」
サリッサはそこで、私の腕にぎゅっと抱き着いてきた。
「えっ」
「――私のことも嫁にして欲しいんです」
「はぇ!?」
いきなり何言ってるのこの子!?
「だって、そうしたらお姉ちゃんともカノ友になるわけで、そうしたらアンリエッタ様のハーレムでずっと一緒にいられますよね?」
そうだけど!! いや、でもえええ!? いきなりそう来るの!?
「私、お姉ちゃんと離れたくないんです。なのでお願いします。私のことをアンリエッタ様のハーレムに加えてください」
姉と離れたくないから私の嫁になりたいって、やっぱりこの子姉のこと諦めてなくない!?
「私、お姉ちゃんとよく似てますし、アンリエッタ様の好みにも合うと思うんですけど」
それははい、確かにその通り。ぶっちゃけめっちゃタイプです。
「で、でも、エメリアは私の専属嫁だから、百合子作りはさせてあげられないよ?」
「それはまぁ、仕方ありませんね。お姉ちゃんの意思ですし。そこを曲げるつもりはありません。ただ――」
そこでサリッサは言葉を区切って、じっと私を見つめてくる。
その瞳はエメリアそっくりで、違うとわかっているのにエメリアに見つめられているようでドキドキしてしまう。
「――私を可愛がっていただくときは、ぜひお姉ちゃんも一緒に可愛がっていただけると嬉しいんですけど」
それまでの微笑みとは一線を画す小悪魔のような微笑みを浮かべながら、とんでもない提案をしてくるサリッサなのだった――