第158話 儀式は3日後
「え? は? 7人……? どういうこと?」
「私も初耳なんですけど……」
私からの相談を聞いた先生とエメリアが目を丸くしている。いやそれはそうよね、私だっていまだになんだそれって思ってるし。
「え、えっとですね、ほらこの国の女王陛下いらっしゃるじゃないですか」
「ええ、陛下がなにか?」
「いえ、その、陛下のハーレムのことを聞きまして」
この国の女王は自分の百合ハーレムを作るにあたり、それを自分の姉妹たちだけで作ると言うもの凄いことをやってのけたのだ。
前女王、すなわち現女王の母親には大勢の妃がいたそうで、その妃たちから生まれた現女王の姉や妹たちは、その申し出に喜んで応じて嫁に行ったらしい。
姉妹同士の百合結婚が当たり前にあるこの世界ならではのハーレム形態だけど、何とも素晴らしすぎる。
ちなみにその中で唯一嫁になるのを断って私の嫁になりに来たのがあのコーデリアなわけなんだけど。
「で、それでその……実家にいる妹たちにですね、冗談交じりで私の嫁になる気はあるか~なんて聞いたところ……」
「全員嫁になりたい、そう言ったんですね」
「はい……」
隣に座っている焼きもち焼きのエメリアが若干問い詰めるような目を向けてくる。
「はぁ……それで、その妹さんというのは?」
「はい、それがですね」
私の母親、つまり現クロエール家当主には当然ながら大勢の嫁がいて、私には実の妹や腹違いの妹が7人いるのだ。
その年齢は私と数か月離れているだけの子や、下は私の4歳下までで、計7人。
そのことを伝えると、先生が頭を抱えた。
「なんとまぁ……確かにアンリエッタの魔力容量から言えばまだまだ余裕ではありますけど……それでも妹たち7人って」
「いや、まだ嫁にするって決めたわけじゃないんですけどね」
そもそも今の私からしたら帰省時にしかあったことのない女の子、という認識しかないんだけど。
ほとんどなかった記憶はだいぶ戻してきたものの、それは何と言うか記録画像を見させられているようなもので、イマイチ私の実体験だとは思いにくいのが現状なのだ。
なので帰省時に仲良くはしてきたけれども妹という実感はほとんどない。
「でも全員お嬢様に似て、お美しい方々ですよね。お嬢様的には嫁にしたいんじゃないですか?」
「え、いや、そりゃあ嫁にできるならしたいなっては思うけどさ」
私の母も、その妻たちも凄い美人ぞろいなので、当然その間に生まれた私の妹たちはみんな器量よしだった。
美人系から可愛い系まで揃っていて、実家に帰るたびに眼福だったものだけど私は未だに前世の感覚を引きずっているところがあって、流石に妹たちを恋愛対象としては見ていなかった。
でもその妹たちから好意を向けられていたというこの現状に1番私が戸惑っているのである。
「でもさ、妹だよ?」
「はぁ、それが何か?」
さも「何言ってるんですか?」って感じでエメリアから返された。いやそりゃこの世界の感覚から言ったらそうなんだろうけどさぁ。
「そうですよアンリエッタ、妹だからどうしたっていうんですか? 私にも妹いますけど、散々求婚されましたよ? テッサ以外に興味無かったので断りましたけど」
「あ、先生もですか? 実は私もなんですよ~、妹から「お姉ちゃんの子供が欲しい」って迫られまして」
和やかに話してるけど前世の感覚からしたら凄い内容である。
しかしそう言えばそうだった。エメリアにも妹がいて、その妹から結婚したいとせがまれていると聞いたことがあるような気がする。
私一筋だからと断ったって聞いたけど、そう言えばその子どうしたんだろうか? なんか今年からユリティウスに入ってくるとか聞いたような??
「あの、そう言えばエメリアの妹って……」
「はい、ユリティウスに貴族令嬢の方の専属メイドとして入ってきてますよ。従者科に」
「あ、専属メイドってことはその貴族の子と結婚するの? エメリアのことは諦めたのかな?」
「それがいまだに諦めてくれていなくて、実はしょっちゅうデートに誘われているんです。断ってますけど」
「はぁ……大変だねぇ」
エメリアとしても妹のことが嫌いではないみたいなんだけど、それ以上に私のことが好きらしいのだ。照れる。
「まぁ可愛い妹なんですけどね、それでも私にはお嬢様がいますから」
「はっきり言われると、その、照れくさいね」
「何度でも言いますよ。私はお嬢様に愛されるために生まれてきたと思ってますし」
きっぱりと、私の目を見て言い切った。
若干重いけど、そこがエメリアの良いところだ。
「ああもう、いちゃつくのは部屋に帰ってからにしてって言ってますよねっ」
「「はぁーい」」
「ええと、話を戻しますけど……妹さん、7人でしたっけ?」
「あ、はい、そうです」
「とは言っても聞いた限りですと、今すぐ結婚とかそういう話じゃないんじゃないですか? 将来的に結婚したいならすればいいとは思いますけど、まずは話し合ってみるのがいいんじゃないですかね」
正論である。
どうも話の流れで妹たちとも百合子作りしなければいけないんじゃないかって思いこんでいたけれど、別にそんな事は無いのだ。
そもそも結婚するかどうかさえよくわからないんだし、ひとまず帰省時にじっくりと話し合ってみることにしよう。
まぁでも可愛い子達だし、嫁にはしたいかなとは思うんだけど。
「まぁとりあえずアンリエッタさんの当面やることとしては、終業式前までに9人分の百合子作りの術式を完了させることと、後は……追加の3人をどうするか、ですね」
「そうですねぇ……」
3人をどうするかとは、今年卒業する予定の生徒会長とそのメイド、そして副会長との百合子作りの術式についてだ。
この子達とは卒業までにはタイミングが合わないかなと考えていたから卒業後にじっくり、と思っていたけど、合わせられるならそれに越したことはない。
「ひとまず相手の意志を確認してはどうですか? 通信魔法のパスは与えてあるんですよね?」
「あ、はい、それはもちろん」
離れた相手との通話を可能にする魔法契約を互いの間で結べば、いつでもどこでも会話可能なのだ。
何かこの辺携帯っぽいよね。
とりあえず本人たちの意志を確認するため通信をしてみたところ、即答で「ぜひ!!」と3人とも返ってきた。
「えっと、今から頑張れば、終業式前までに間に合いそうなんですよね?」
「そうですね、儀式場の予約は3人分ならやりくりすればなんとかねじ込めそうです」
「ううん……じゃあエメリア、スケジュールお願いできる?」
「はいはい、わかりました。やりますとも」
エメリアはそう言うとメイド服のポケットから手帳を取り出した。
「悪いね。せっかく最近余裕ができてきたっていうのに」
「いいですよ。お嬢様が女の子大好きなところも含めて私は好きなんですから」
エメリアは手をシャカシャカと動かして手帳に書き込みながら、私に微笑んでくれる。
「よし、じゃあこれで以上かな? エメリア、3日後に儀式だからね」
「はいっ……!!」
先生からそう話を向けられたエメリアの瞳は、はっきりと喜びに満ちているのだった――