第156話 ぴゅあな関係
コーデリア達の出会いがあった日の午後、私は彼女達全員に会議室に集まってもらっていた。
なぜ会議室なのかというと、流石に私と14人の彼女達に加えてナデシコ、ミリーにコーデリア達、合わせて19人は流石に私の部屋に入りきらなかったからだ。
思えば彼女――ナデシコは娘でコーデリア達はまだ彼女じゃないけど――も増えたものである。
「え~そういう事で、私のお友達になりました、コーデリアとディアナです!皆さんよろしくっ」
「コーデリアじゃっ! この度このユリティウス学園に転入してきた! 皆のもの、よろしゅうたのむぞっ!」
コーデリアが「ふんす!」と腰に両手を当てて、高飛車ながらも可愛く挨拶をする。
「いけませんよ殿下、殿下は下級生なんですから」
「む、いかんいかん、まだ慣れぬのぅ。では改めて……よろしくお願いするぞっ! 先輩方っ!」
「……まぁいいですか。え~私は殿下の専属メイドのディアナです。よしなにお願いいたします」
ディアナはメイド服の裾をつまんでふわりと優雅にお辞儀をする。
だけどその2人を見て、会議室に集まってもらった私とコーデリア達以外の全員が一様に困惑を隠しきれないでいた。
「どういうことですの……」
「わけがわかりません……」
「何が何やらさっぱりだよ……」
そういうリアクションになるのも無理はないよね。私もめちゃめちゃ混乱したし。
クラリッサ達ユリティウス生徒は、コーデリアが転入してきたと聞いてまぁそこそこ理解してきたようだけど、モニカやシスターノーラみたいな学園の外にいる子達にとってはそれこそ理解不能なレベルなのである。
「クラリッサと申します。えっと……コーデリア、でよろしいのかしら?」
「うむ、そなたたちはわらわの先輩じゃからの! 呼び捨てで良いぞっ」
中でもいち早く混乱から立ち直ったのはさすがの大貴族の娘であるクラリッサだ。王族と聞いても怯みはしないのだろう。
「えっと、つまりコーデリアはこの学園の生徒になった、という認識でいいんですわよね?」
「そうじゃぞっ! ちゃんと試験も突破して来た」
「ひぇぇ……マジか……転入試験なんて普通の入学試験よりよっぽど厳しいのに」
ルカの言う通り、ユリティウスは転入にはさらに高いハードルが用意されている。それを容易に突破してきたあたりは流石魔法王国の王族というだけのことはあるだろう。
「それにしてもなぜ王族の方がわざわざユリティウスに……?」
エメリアの疑問ももっともだ。ただその回答はかなりぶっ飛んだものなんだけどね。
「んむ、それはの」
コーデリアはそう言うと、ぎゅっと私の腕に抱きついてその平らなものを押し付けてきた。
「このアンリエッタの嫁になるためじゃ!」
「「「「ええええええええっ!?」」」」
コーデリアの回答に、皆が爆音のような音量の声を返してくる。いやまぁそらそうよね。
王族がわざわざ貴族の私の嫁になるために、最難関の試験を突破してまでここに転入してきたと言うんだから。
「ど、ど、ど、どういうことですか!?」
「説明してよアンリ!!」
「え、いや~その、何と言うかね」
どう話したものかと考えていると、ディアナさんがすっと前に一歩出てきた。助かった、ここで上手く説明してもらえると――
「端的に言いますと、殿下は陛下の姉妹百合ハーレムに入るはずだったんですが、それを蹴ってまでアンリエッタ様の嫁になりに来たんです」
「「「「ええええええええーーーーーーーっ!?」」」」
おいいぃぃぃ!? 確かに結果的にはそうなんだけどいろいろ端折りすぎでしょ!? わざとなの!? いや絶対わざとでしょこのドSメイド!? なんか横顔にやけてるし!!
「へ、陛下の百合ハーレム入りを断ってまでアンリちゃんの嫁になりに来るなんて……」
「あ、アンリ凄すぎ……いつのまにそんな王女様が転入してまで追いかけてくるなんて深い仲に……?」
違うんだルカ、この殿下とは初対面なんだ。
「まぁ確かにアンリエッタが好きそうなお方ですね」
シスターノーラからのその台詞はぶっ刺さるからやめてください、
「流石は私のお嬢様ですねっ!」
あとエメリアだけ正常運転なのは流石ね!?
「ち、違うんだってばぁ!!」
「なんじゃ? 大体そんなもんじゃろ」
「細かいところが色々と違うでしょ!?」
具体的にはまず「入るはず」じゃなくて「入ってくれとお願いされた」でしょ!? そうじゃないとまるで私のために家出してきたみたいじゃない!!
あと私の嫁になりに来たと言うより、私に会ってみたかったって方が正確よね? それでわざわざ激ムズ試験を突破してくるあたり相当だけど。
「まぁわらわとアンリエッタ先輩は初対面じゃ、姉上のハーレムに入る前にどうしても噂のハーレム主に会ってみたくての」
「そうそう、そうなんだよ、それでね――」
「――でな、いざ会ってみたら惚れてしまってな、そなたの子が欲しいとお願いしたのじゃ」
ぶーーーーーーーーーーーーーーっ!!
「お、お嬢様!?」
「やっぱりアンリって小さい子が好きなの!?」
「でしょうねぇ、私を嫁にするくらいですから」
「わ、わたくしも一部は凄くロリですわ……!! 言ってて悲しくなりますけど」
「で、で? それでどうしたんですか? もしかしてアンリエッタさん、もうこの殿下をその毒牙にかけちゃったんですか」
かけるかぁ!! マリアンヌやシスターノーラと違ってガチのロリなんだよ!?
そもそも毒牙って、アリーゼ先生私のことを何だと思ってるの!?
「まだ何もしてないよ!? だってこの子と会ったの今日の昼だよ!?」
「いやぁ……でもこんなアンリエッタの好みド真ん中のロリっ子なら、会ったその日に部屋に連れ込んでもおかしくは……」
そんなことしないよテッサ先生!? 私が部屋に連れ込むのはちゃんと仲を深めて恋人同士になってからだよ!?
だってあなた達恋人以外とそういう関係になった子いないもん!! 適当な子を手当たり次第に食べたりとかしてないもん!!
「わらわとアンリエッタ先輩は、まだいわゆる「ぴゅあな関係」というやつじゃぞ。わらわとは友達から恋人になる過程を楽しむ、という約束になっておるからの」
それはこのコーデリアがある程度大きくなるまで、私がロリコンになるのを回避するための方便なんだけど、そんな言い方をするとそういうプレイみたいなんでやめてもらえませんかねぇ。
「まぁでも、将来的には嫁にして貰うがの。のう、アンリエッタ先輩?」
「う、うん、まぁそれは勿論構わないけど」
「で、そちらのメイドさんは……? やっぱりアンリの嫁に?」
ルカが興味津々と言った感じで突っ込んでくる。
「はい、私は殿下と将来を誓い合った仲ですから、殿下を貰う以上当然私のことも貰って頂きます」
そういいながら、メイドさんは誇らしげに首輪から伸びるリードを手に取って皆に見せる。それが伸びる先は当たり前ながら殿下の手の中だ。
そしてそれを見て皆から「おお~」という歓声があがる。
「いや~、でも王族の方の専属メイドさんまでお嫁さんにする予定とは、アンリエッタ様凄いですね~」
「そんな凄いことなの?」
「それはそうですよ~。王族専属メイドと言えば、メイドの中の頂点と言ってもいいでしょう。なにせ王族の方の嫁になるにふさわしいと認められたという事ですから、私達メイドの憧れの存在なのですよ~」
「いえいえ、そんなことありませんよ」
謙遜する姿さえ美しいメイドさんである。
「謙遜するな。そなたはわらわが嫁にと選んだメイドなのじゃ、もっと誇るとよいぞ」
「――だとしたら早く私を本当の嫁にして欲しいんですけど」
「うっ、ま、まぁそれはそのうちにな……」
他の人に聞こえないように、そっとメイドさんが殿下に耳打ちをする。
まだそういう関係では無い2人だっていうことはこの場では私しか知らない事実なのである。
「ま、まぁそういうわけでの、そなたらとは「カノ友」になるというわけじゃ、よろしく頼むっ」
そう言うと、コーデリアはペコリとお辞儀をして見せ、それにディアナが満足げに微笑んでいる。早速なじもうとしている主人の姿に感慨深いものがあるのだろう。
そうして、新たな私の嫁候補と嫁達との顔合わせは無事に終わったのだった。
しかしこれで嫁は16人。ミリーや実家で待つ妹たちも考えると24人かぁ……我ながら凄いなぁ……