第150話 ベテランロリシスター(合法)
「どうしたらいいと思いますか? シスターノーラ」
「う、うう~ん、これはまた凄い相談ですねぇ~」
私からの相談を受けてくれているシスターが何とも言えない顔をする。
「私もそこそこシスターとして経験を積んできましたけど、ここまでの相談は初めてですよ」
「ですよねぇ」
私がしている相談というのが、新たに彼女になりたい子がいっぱいいるからどうしたらいいのか、というものだ。
もうそろそろ卒業が見えてきているという事もあり、どうも駆け込みで私の嫁になりたいと思った子が大勢いて、その子達をルカとクラリッサが調整してくれた結果5人まで絞り込んでくれたらしい。
一体最初は何人だったのか、聞くのさえ恐ろしい。
「追加で5人ですかぁ」
「いや、その中から選んでハーレムに追加してもいいってことらしくて、必ず選ばなくちゃいけないってわけでもないんですよ」
そうは言ってもせっかく2人が選抜してくれたわけだし、全員まとめて嫁にするのも悪くはないんだけど。
ざっと資料に目を通したところ、現生徒会長と副会長、それに生徒会長のメイド、あとは下級生が2人らしい。
下級生の2人はヤキュー部なあたり、ルカの推薦によるものだろうか。
「でも流石に、今から私達には追いつきませんよね、百合子作り」
「流石にそうですね」
現状私の嫁達である9人にはまだ百合子作りの儀式が途中なので、そこにさらに追加する余裕は全くない。
そもそも百合子作りは1人と行うのでさえ大変な術式なのだ。9人同時並行にやっているだけでとんでもないことなのである。
「もうすぐですね。楽しみです」
シスターは他の子達同様に、そこに近々宿るであろう私との子供のことを想って自分のお腹を優しくさする。
「そうですね」
こんな小さい外見の女の子――実際は立派な成人女性だけど――が自分の子供を産んでくれるなんて、その事実に私は本当にドキドキする。
こんなこと前世だったら全く考えられなかったことで、まさに異世界万歳である。
「それにしても、この私がお母さんになれるなんて、何と言うか感慨深いですよ……ずっと他の子の恋愛相談に乗ってばっかりでしたからね」
もうシスターはいい年なのに、彼女が今までいなかったのはその外見のせいらしい。
私なんかは凄く可愛いと思うんだけど、この世界の女の子達はあまり小さい子に興味を示さないみたいなのだ。いや、それが当たり前なんだけどね?
「でもこれで、百合神の司祭としてまた一歩成長できたというわけですよ!」
そう言いながら、シスターは腕まくりをして見せる。
ほっそくて、どう見ても子供の腕にしか見えないけど、それでもその顔は自信に満ちていた。
相談経験は豊富だったものの、自身の経験が皆無だったシスターはついにその欠けた部分を補う事が出来たので、今以上に人気が出ているらしい。
「指名もすごく多くなってるんですよね?」
「はい、おかげさまで」
相談の指名を多く受けたからといって報酬が上がったりするわけではないものの、女の子同士の恋愛が大好きで大好きで仕方ない子達が付く職である百合神の司祭は、指名の多い少ないはそのやりがいに直結するらしいのだ。
おかげでシスターは日々忙しそうにしながらも、その顔はもの凄くイキイキとしていて、毎日が充実しているのがよくわかった。
「それもこれもアンリエッタの彼女になれたからですね、本当に感謝しています」
「いや、こちらこそですよ」
ミリーの件で悩んでいたけれど、その時ちょうど私の迷いを払ってくれたのがシスターノーラで、シスターのおかげで「ロリコンでもいいや」って悟ることができたのだ。
「……で? 他にまだ相談があるんじゃありませんか?」
「うっ」
私の内心を見透かすように、ベテラン――まだ20代だけど――のシスターはその両の目で私を見据える。
口元は柔らかく微笑みながらも、その目の奥の光は全てお見通しだと言葉に出さずとも伝えて来ていて、これが長年相談を受けてきた高位司祭の眼力なのかと、ちょっとゾクリとした。
「い、いやぁ~その……ハハハ……」
「何ですか? 何でも相談してくれていいんですよ? アンリエッタのことだから絶対女の子絡みでしょうけど」
信頼が厚いなぁ。そんなに私女の子好きって思われてるんかね。いや事実なんだけれども。
「えっとですね……その、女王陛下なんですけど」
「??? 女王陛下がどうかしたんですか?」
話がいきなり飛躍したので、シスターが不思議そうに首をかしげる。
「女王陛下も、ハーレム持ってるじゃないですか」
「ああ、そうですね、確か自分の姉妹を全員嫁にしたんですよね。いや、凄いお方ですよね」
そうね、いろんな意味で凄いわ。
人数もさることながら、全員血を分けた姉妹を嫁にしたっていうところにこだわりを感じるわ。
もっとも王族っていうのは前世でも近親婚を繰り返していたとかそんな話は聞いたことあるような気がしなくもないけれど、ここまで凄いのは聞いたことない。
「それで? その女王陛下の姉妹百合ハーレムがどうしたんですか?」
「あ~……えっとですね……」
言いにくいなぁ……でもシスターのこの興味津々というお目目、これは話さないと解放してくれそうにない。部屋の扉はシスターの背後にあるし、そもそも今夜はシスターの部屋に泊まる予定なのだ。
絶対話せ話せとせっつかれるに決まっている。
「わたしにも妹がいまして――」
「!?!?」
そう言っただけでこれまでの流れから全てを悟ったのか、シスターが席から立ち上がり目を見開く。
「ま、まさか」
「ええ、そのまさかなんです……その、妹たちがどうも私の嫁になりたがっているらしく……」
「あらまぁ」
シスターはその幼い外見に似つかわしくなく、頬に手を当てながら感嘆の声を漏らした。
「その、そんなに仲が良いとは思ってなかったんですけど、どうもそれは私のことを遠巻きに見ていて言い出せなかったらしく……」
「実際のところはアンリエッタのことを大好きだった、と?」
どうもそうらしい。私が転生する前の厨二バリバリな頃は、本当に距離を置いていたみたいなんだけど、女の子大好きになって彼女を大勢家に連れてくるようになったことで、「私もお姉さまの嫁になりたい」と思うようになったらしい、と手紙にはそんなふうに書かれていた
「それで? 妹は何人いるんですか?」
「7人……」
「7人!? それはそれは……」
その全員が私の嫁になることを希望しているらしい。今から帰省時のことを考えると頭がいたい。
マジでどうしよう。
「魔力容量的には足りるんですよね?」
「足りる」
「それが信じられないんですけどね……どんだけなんですかアンリエッタ」
私も何でこんなに魔力があるのかわからない。ただアリーゼ先生曰く、どうも前世の行いが魂に影響しているんじゃないか、とのことらしい。
先生の言う前世って言うのはあくまで「こっちの世界」の前世のことと考えているだろうし、私が別の世界から来たとかそう言う事に関しては気付いていないようだったけど。
やっぱりアレかなぁ、私が前世でも百合ハーレムを作っていたことが影響しているんだろうか。
「で、どうするんですか? 嫁にするんですか?」
「それを考え中なんですよぉ~」
私はシスターの前で頭を抱えた。
「まぁ今夜は、このベテランシスターがじっくり聞いてあげますから、ぜひ頼ってくださいねっ」
その顔はどう見ても好奇心を隠しきれていなかったけど、頼りになるのは間違いない。
お言葉に甘えて、今夜はじっくりとこのベテランロリシスター(合法)に悩みを聞いてもらうことにしよう、私はそう決意したのだった。