第147話 壮大すぎる夢
「こってるね~。アンリ、お疲れさまっ」
「うぁぁぁぁ~~効くぅぅ~~~。ルカ~~ありがとね~~~」
私はベッドにうつ伏せになって、メイド服姿のルカに乗っかられながらマッサージを受けていた。魔法スポーツを専攻しているだけあってルカのマッサージはいつもやってもらっているエメリアのマッサージとはひと味違う。
どう違うかというと、エメリアのは優しく揉みほぐすような愛の溢れるマッサージであるのに対して、ルカのはこっている箇所を容赦なく、徹底的に狙ってくるまさに職人的なマッサージなのだ。
アリーゼ先生のような治癒魔法もいいものだけど、こうして直にマッサージされるのもまたいいである。
しかも最近では授業も熱心に受けているルカは、その魔力による筋力増強をマッサージに応用するすべも身につけており気持ちいいなんてもんじゃない。
デスマ――という名の天国――での疲れがす~っと消えていくのを実感した。
「ずいぶん無茶なスケジュールだったんでしょ?」
「まぁね~」
無茶なスケジュールというのは、しばらくの間テッサ先生たちの家に泊まり込んで、テッサ先生との百合子作りの遅れを取り戻していたことのことだ。
出産したばかりのテッサ先生には、私の子供を産んでもらうのは他の子達よりだいぶ先になると思っていたからね。
その優に2か月は遅れていた百合子作りを、他の子達に追いつかせようと言うのだからそりゃ無茶にもなるというものだ。
テッサ先生もよく頑張ったなと思うほどの実に過密なスケジュールだったけど、テッサ先生は終始もの凄く幸せそうで、家をお暇する時なんてなかなか放してくれなくて大変だった。
「で? 追いついたの?」
「うん、追いついたよ」
大変だったけどね。色々と。
「儀式の2か月分を1週間でって……アンリの魔力、相変わらず底なしだね。あと体力も」
体力に関して言えば、アリーゼ先生から回復呪文かけてもらっていたからね。それが無かったら流石に無理よ。死んじゃう。
「それにしても……天下のユリティウスの美人教師2人を嫁にするなんて改めて凄いことやったよね、アンリ」
確かに、言われてみるとそうかも。この国でも最高の魔術師しか付けない職であるユリティウスの教師を、2人も嫁にしたのだ。
先生達を母に紹介した時の、母の喜びっぷりと言ったらそれはもう凄いものだったし、よくそんな2人を落とせたものだ。
しかもその2人はもうすぐ私の子供を産んでくれるときているし、改めて凄いことだよね。
「でもこれで、卒業したあたりでアンリは9人の子供のお母さんになるんだね。私も早く産みたいなぁ~」
ルカが私の背中に乗っかりながら、お腹を撫でているのが分かった。お約束の百合子作りジョークだ。
「まだそこにはいないでしょ」
これもお約束のツッコミである。でもボケたらツッコむのが礼儀ってものだから仕方ないね。
「それに、9人とは限らないでしょ? 双子とかもあるかもだし」
「そう言われると確かにそうだね」
百合子作りの術式では生まれてくる子供は必ず女の子になるけど、その子供が1人か双子か、はたまたそれ以上かは神のみぞ知る、というやつなのである。
それに関しては、人体は魔法の干渉を一切受け付けないらしいのだ。
「でも私、今すっごい幸せなんだ~。なんせ世界で一番愛している女の子の子供を産めるんだもん」
「せ、世界一って、照れるよルカ」
「だって私が愛してるのはアンリだけだし、ならアンリが世界一でしょ」
それはそうなんだけどね、こうも愛してるとはっきり言われるとやはり照れてしまう。
「あ~私とアンリの子供か~。楽しみだなぁ~。絶対すごい選手になるよ!」
「やっぱり子供にもヤキューやってもらいたいの?」
「それは勿論だよ!! まぁあくまでも私の希望であって、娘の意志を尊重するけどね」
もう既に卒業後の進路としてプロチームに入ることが決まっているらしいルカは、前から自分の娘にもヤキューをやってもらいたいとことあるごとに言っていた。
しかしすでにプロチームとリーグ戦が整備されているあたり、ヤキューどんだけ人気なんだって思う。
「私とアンリの娘なら、確実に世界を狙えるよ! 私ももちろん狙うけどね」
「世界かぁ」
「うん、国別対抗戦の選手って事ね」
どうもこの世界、スポーツがかなり盛んらしく国別対抗戦にかなり熱意を燃やしているらしい。
戦争とかなにそれおいしいの? って感じで、外交上の問題とかはスポーツで解決するものと考えているそうな。相変わらず色々と常識が通用しない世界のようだ。
「私の夢はプロで活躍して、そして国別対抗戦の選手になって優勝することなんだから!」
それも何回も聞いた。それで優勝することは、魔法スポーツ選手において最高の栄誉らしいのだ。
そのためにはまずプロリーグで活躍して、代表に選ばれないといけないそうだけどルカならきっとやってのけるだろう。ヤキューに関しては努力家だし。
「あ、でも夢はもう1つあって……」
「何?」
「え、えっとね……」
私の姿勢からはルカの顔は見えないけど、その顔が真っ赤になっているだろうことは容易に想像できるほど、ルカの声は高揚していた。
「……アンリとの子供で、ヤキューチームを組むこと……なんだ」
「それは……かなり頑張らないとね」
お互いにね。
でもヤキューチームって、まさか控え選手まで含めてではあるまいな? それはかなり大変だぞ? まぁ求められたら頑張るけどね!
「2人目、3人目は直ぐに欲しいなっ。だってそれくらい張り切らないとヤキューチームは作れないからねっ」
「あ……でもさルカ?」
「何?」
プロヤキュー選手として活動していくと言うルカに、前々から聞きたい疑問があったのだ。
「その、いっぱい子供が欲しいっていうけど、その……プロ活動は大丈夫なのかなって」
色々と制約を受けるからね、身重だと。それがスポーツともなるとなおさらだ。
「へ? そりゃ保護魔法かけりゃ大丈夫でしょ?」
ところがそんな私の疑問とは裏腹に、「何をいまさら?」って感じの声が返ってきた。
「そうなの?」
「当然でしょ? それでプレーしてる現役選手なんていっぱいいるよ? まぁ流石に予定日近くは休むけど」
「ほええええ」
魔法ってすごい。改めてそう思った。
「母体と子供を守るための魔法はもうすでに完成されているからね。需要も多いからそれを専門に行う魔術師も多いんだよ」
「そうなんだ」
「プロ魔法スポーツ界では常識なんだけど、知らない人は知らないんだね」
そもそも魔法スポーツ自体、授業でやってるくらいしか知らないからね。
でもなるほど、それだけ保護魔法が発達しているなら、何の問題もなさそうだ。
これで気兼ねなくルカと百合子作りに励めると言うものである。
「あ~早く娘とキャッチボールがしたいな~」
「あ、やっぱそういうのやってみたいんだ」
「そりゃそうだよ!」
前世でも、父親としての夢の1つに「息子とキャッチボールをする」というものがあると聞いたことがあるようなないような気がするけど、そういうのはこの世界でも共通のようだ。
「そして将来は、1番から9番まで私とアンリの子供で打線を並べて、国別対抗戦で相手の国をぼこぼこにするんだよ!」
壮大すぎる夢のように聞こえるけど、ルカとならそんな夢を見てもいいのかもしれない。
私はそんなことを考えながらマッサージの気持ちよさで眠りに落ちていったのだった――