第145話 人妻にして母親かつ私の嫁メイド
「はい、お嬢様っ、あーんっ」
「ほら、こっちも美味しいですよ。腕によりをかけて作りましたからね、はい、あーんっ」
「どう? 美味しいでしょ? なんせアリーゼの料理の腕は抜群だからねっ、ほら、あーんっ」
「アンリエッタママッ、私のも食べてっ、はい、あーんっ」
次から次へと私の口へと『あーん』される料理を、私は美味しく味わっていた。
とっぷりと日も暮れて、今はアリーゼ先生が作ってくれた極上の晩御飯の時間である。
先生が作ってくれた料理は、エメリアの作ってくれるものとはまた違った味わいがあって実にいい。
「ほら、アンリエッタ、もっと食べてよっ、あーんっ」
私から贈られた首輪を付けたテッサ先生は私の横に座って、ぴっとりとくっついている。
その私のもう片方の隣の席にはエメリアが座り、負けじと私にくっついていて、当然のようにその首には首輪が巻かれていた。
対面にはアリーゼ先生とミリーが座り、同じく私に『あーん』をする隙をうかがっている。もちろんアリーゼ先生も他の彼女同様に首輪を巻いている。
「あ、あの、嬉しいんですけど、テッサ……近くありません?」
「ええ~だってさ」
テッサ先生はそう言うと、きゅっと私の腕に抱きつきながら私に潤んだ瞳を向けてくる。
「その……あんなに愛してくれたら、そりゃこうなるでしょ」
「テッサ……」
「愛してるよっ、アンリエッタっ」
子供を産んだばかりの人妻が、その結婚相手の前で私に愛をささやいているという背徳感溢れる行為に、私の胸は早鐘のように勢いよく鳴りまくる。
しかもその結婚相手も公認で、さらに言えばその結婚相手さえも私の嫁だと言うのだから、それはもう背徳感も二乗三乗でさらにドキドキしてしまう。
異世界万歳である。
「あらあら、あのテッサがこんなにデレデレになるなんて、どれだけ愛してもらったの?」
「えへへ~それはナイショ。でも、改めてアンリエッタの嫁になって良かったって思ったよ」
「まぁまぁ、ご馳走様っ。でもちょっと妬けちゃうなぁ」
「もちろん、アリーゼのことも愛してるよっ」
「ママ達ラブラブ~~」
いちゃつく婦婦と、その娘のにこやかな会話、実にいい一家団欒だ。まぁその一家も、みんな私の嫁になるんだけど。
「食べ終わったら一緒にお風呂入ろうね、アンリエッタ。背中流してあげるよ」
「ええ? そ、そんな、悪いですよ。だってテッサは私の嫁ですけど、先生でもあるんですよ?」
「いいからいいから、私がしたいからそうするんだよっ」
首輪を愛おしそうに撫でながら、テッサ先生は私にさらに体を寄せてくる。もう私、椅子から押し出されそうな勢いなんだけど。
「ささ、ほらほら、もっと食べて食べてっ」
「あ、はいっ」
「まだまだアンリエッタには、私のためにも体力付けて貰わないといけないからねっ」
「そ、そうですねっ」
私は同学年の女の子の中では結構食べる方だ。基本的に食べることが好きで、ついついいつも食べ過ぎてしまいその結果、カロリーを消費するために日々グラウンドを走る羽目になるのだが。
その点、隣でム~っとした顔をしているエメリアは羨ましい。
何せ食べても食べても全く太らず、全然運動なんかしていないのに腰とかは折れそうなほどに細いままなのだ。
とは言えその栄養がどこに行っているかは一目瞭然で、それは私の腕にむにゅりと押し付けられているのだが。
「お嬢様、私のも食べてくださいっ」
「あ、はいっ」
私は反対側を向いて、エメリアが差し出したスプーンに食いつく。たっぷりとした生クリームの味が口中に広がり、絶妙な塩加減で味付けされた鶏肉からはアリーゼ先生の確かな腕前が感じられた。
「そういえば、アンリエッタって、普段もこういう感じなの?」
「と言いますと?」
アリーゼ先生から尋ねられた私は、何のことかと聞き返した。
「いや、ほら、エメリアさんから凄く自然に『あーん』してもらってるから」
「あ、はい、そうですね」
「もちろんですとも!」
エメリアはそう言いながら「えへん」とその大きな胸を反らそうとしたが、その大きなものは私に現在進行形で押し付けられているので、結果として更なる圧迫感を私にもたらすことになった。たまらない。
「お嬢様には、私がいつも『あーん』をして食べさせていただいてますっ」
その言葉通り、私は最近ではほぼ一切のことをエメリアのご奉仕に任せていた。
朝起こしてもらうのは勿論、着替えさせてもらったり、ご飯を食べさせてもらったり、お弁当を作ってもらっていたり、洗濯をして貰ったり、スケジュールの管理をして貰っていたり、お風呂で体を洗ってもらっていたりと、まさに至れり尽くせりなのである。
少しは自分でやろうかと提案もしたのだけれど、その都度「アンリエッタにご奉仕するのが私の一番の幸せなんですっ。どうかその幸せを取らないで下さい」と言われるので、エメリアの好きなようにさせてあげていた。
確かにエメリアって私にご奉仕しているときが1番幸せそうなんだよね。
「でもエメリアの気持ちもわかるな~。なんかこう、アンリエッタってお世話してあげたいって気持ちになるんだよね。私一応先生なのに」
テッサ先生が私の手をぎゅっと握りながら見つめてくる。その瞳は完全に私の嫁の目だ。
「あ~、わかりますね、私もアンリエッタになら何でもしてあげたいって気持ちになりますし」
「私も!! アンリエッタママになら何でもしてあげるよ!!」
アリーゼ先生、そしてミリーもそれに同意する。いや私、幸せ者過ぎない??
「あ~あ~、それ考えると、エメリアってホント羨ましいよねっ。だってアンリエッタの幼馴染専属メイドで、第1婦人もほぼ決まりなんでしょ?」
「だ、第1婦人かどうかはわかりませんけど、その……お嬢様の最初の子供は私とって言われています……」
そう言うエメリアの顔はもうこれ以上ないってくらい真っ赤っかである。
ハーレムには序列は無いものの、結婚に際して一応順番みたいなものはあるのだ。それ自体に意味はないが、気にする人は気にするらしい。
「1番最初に子供が欲しいって言われるなんて、第1婦人決定ってことじゃん! いいなぁ~私もせめてアンリエッタのメイドになりたい~。補佐でもいいからさぁ~」
「あ、わたしもなりたいな~なんて」
「私も!! 私もなりたい!!」
テッサ先生に続き、アリーゼ先生とミリーまで手をあげてきた。
何かこのやりとり、つい今しがた見た気がするんだけど。
「だ、ダメですよっ、専属メイドは私ですし、専属メイド補佐も3人埋まっていますっ」
専属メイドの下に付けられる、専属メイド補佐にはクラリッサ、シンシア、ルカの3名が入っている。
まぁクラリッサは家柄が高すぎるので正式に私のメイドにするわけにはいかないから実質2名なのだけど。
「ちぇ~っ」
残念がるテッサ先生に、ミリーが「あれ?」って顔をしながら声をかけた。
「あ、でもテッサママ、時々メイドさんの格好してるよね?」
「えっ」
何それ詳しく。
「あ、あれはその、アリーゼが着て欲しいっていうから、その……」
婦婦でメイドプレイというわけですね? 実にうらやまけしからん。
「ってことは、ママの正式なメイドさんじゃなくても、メイドさんの格好をするのはいいんだよね? エメリアママ?」
「うっ、た、確かにそれはそうですね……」
鋭い指摘にエメリアが狼狽する。つくづく3歳児とは思えない子だ。……ほんとに3歳なの?
「そっか! じゃあ、お風呂上りにはメイド服着よっと!」
「テッサ先生のメイド服!?」
見たい。超見たい。
「あ、やっぱりアンリエッタってメイド好き?」
「大好きです」
これには即答以外ありえない。私は心の底からメイドが好きなのだ。
「そっかそっかぁ、じゃあ、お風呂上りは楽しみにしててねっ、はい、あーんっ」
テッサ先生は私にお肉を突き刺したフォークを差し出しながら、心底嬉しそうに微笑んでいた。
人妻にして母親かつ私の嫁メイドかぁ……何それ最高すぎない?