第144話 はい! この話やめ!!
「おじゃましま~す」
「おじゃましますっ」
私とエメリアはこれからしばらく住むことになったアリーゼ、テッサ両先生のお宅を訪ねていた。
本当は私だけで来る予定だったんだけど、「専属メイドたる私がお嬢様から離れるなんてありえません!」とエメリアが熱烈に主張してきたので同行してもらっていた。
私としてもこれまでずっとエメリアと一緒にいたわけだし、付いてきてくれるのはありがたいところである。
とは言え先生のところに来た目的が「テッサ先生との百合子作りが大幅に遅れているからそれを追いつかせるため」であり、焼きもちを焼かないかは不安ではあるんだけど。
でもエメリアは焼きもちを焼いているときが1番可愛いので敢えて連れてきたところも否定できない。
「いらっしゃい。ささ、上がって上がって」
笑顔で出迎えてくれたアリーゼ先生によって居間に通されると、そこには生まれたばかりの赤ちゃんを抱っこしているテッサ先生――例によって神々しいほど美しい――と、
「いらっしゃい、アンリエッタ」
「いらっしゃい! アンリエッタママ! エメリアママ!」
「み、ミリー、もうおっきくなってるんだ」
魔法の成長薬によって一時的に高校生ほどの年齢になったミリーがいた。
しかし改めて見てもなんて美少女なんだろう。
腰ほどまである髪はキラキラと艶めきながら波打ち、お顔の造形には非の打ち所がない。
テッサ先生譲りだろうと思われるきゅっと締まった体つきに、アリーゼ先生譲りのおおきなたわわが元気に主張している、まさに完璧なプロポーションだ。
クラリッサと比較しても遜色ない美少女なのに、クラリッサには無いたわわを持つと言うまさにパーフェクトな美少女なのである。
もちろんクラリッサのペタンコもアレはアレでクラリッサの美点であるし、私の隣にいるエメリアだって可愛さならまったく引けを取らないのだが。
要するに、私の彼女達に負けず劣らず可愛いという事である。実年齢は3歳というのが問題ではあるが。
「だって、アンリエッタママが私の家で暮らすんだもん! 目いっぱいおめかししないとねっ」
それはおめかしというんだろうか? 私は首を傾げた。
しかし外見は完璧な美少女であると言うのに、振る舞いは3歳相当の元気いっぱいという感じでそのギャップがまたたまらない。
「じゃあママ! 遊ぼっ遊ぼっ!」
「あ、あ~えっと、その、その前にちょっと用事が……」
「そうだよミリー、アンリエッタは私のためにわざわざ来てくれたんだからね」
テッサ先生は赤ちゃんをベッドにそっと寝かして立ち上がると、こっちに近づいてきて私の手をきゅっと握った。
「え、えへへ、ちょっと照れるね……でも、しばらくよろしくねっ」
「………………」
なにこれ可愛すぎるんですけど。テッサ先生が美人なのはわかっていたけど、それにしても可愛すぎない?
私は思わず手を握り返した。
「は、はい、えっとその、頑張ります!」
「あはは……う、うん、私も頑張るから、その――いっぱい可愛がってねっ」
ごはっ!!!!
この人妻、キュートすぎる!!!
私も前世で彼女は大勢いたけれど、それでも人妻はいなかったからなぁ……百合カップルをまとめてハーレムに入れたことはあったけど、明確に結婚している女性はいなかったし。
アリーゼ先生も同様に人妻だし、百合人妻をまとめて嫁にして良かったと今改めて思った。
背徳感溢れながらも全くもって合法、実に素晴らしい。
「じゃ、じゃあいこっか……」
「は、はい……」
そうして私は、テッサ先生に手を引かれながら婦婦の寝室へと案内されたのだった――
「ふぃぃ」
「お疲れ様です、お嬢様っ」
寝室から出てきて、居間のソファーに腰かけて休んでいる私にエメリアがねぎらいの声をかけてくれる。しかしやっぱり焼きもちを焼いているのか少しだけむくれているのがたまらなく可愛い。
私がハーレムを作ること自体にはなんの異論もないようだけど、それはそれとして焼きもちを焼いてくれるのがとても心地よいのだ。
だって他の子はそれが当たり前だと思っていて、焼きもちも焼いてくれないからね。贅沢すぎることだとは自覚しているんだけど。
「次は休憩を挟んで2時間後です。本日中にあと3回が予定となっていますからね」
「ふぁぁぁい」
遅れを取り戻すためにデスマ中、というわけである。デスマという割には天国だけどね。
「お疲れさま、アンリエッタ、これ飲んで頑張ってね」
「あ、アリーゼありがとう……ってこれ!?」
「妻のためだし、奮発しちゃった」
先生が差し出してきたのは魔力を回復させるポーション、しかも極上品だった。よく見たら部屋の隅に置いてある木箱、あれもしかして箱買い……!?
どんだけ奮発したんだ? 嫁好き過ぎでしょアリーゼ先生。
百合子作りの儀式は主導側が魔力を大きく消耗する儀式であり、魔力回路というデリケートなものを結びつけるという大魔術である以上、それ相応の負担があるものなのだ。
「まぁアンリエッタの魔力容量からしたら気休め程度ですけどね、これでも」
「いえいえ、ありがたいです」
私はビンの蓋を開けてその中身で乾いた口の中を潤す。程よい甘みに柑橘系の爽やかさが混じった、実に爽快な飲み心地だ。
「本来はこれだけ魔力を消耗したら普通は立てないんですけどね、それを1日数回って、どんだけバケモノですかアンリエッタ」
先生は今更ながらに呆れたような褒めるような、複雑な顔をしている。
何回も言われてきたことだけど、今回は特に驚愕しているようだ。
「百合子作りは本来少しずつ少しずつ、じっくりとやってかなければならないのはこの魔力消費の大きさが原因なんですよ? それをこうもあっさり行使されてしまうと今までの研究とか何だったんだって思うくらい、常識が覆される思いですよ」
「いやまぁ……ははは」
私自身何でこんなに魔力があるか分かんないからね、確か常人の30倍超とかいうバカげた数字だったはずだ。
「でもまぁ、このペースなら追いつきそうですね」
先生は手に持った魔道具を見ながらそう言った。先生が持っているのは百合子作りの進行具合を計るための魔道具らしく、それでたった今ベッドで寝ている自分の妻を計測して来たらしい。
「たった一回でこの進行具合……どんだけ張り切ったんですか」
「いやぁ~その、テッサが可愛くて、つい」
「それは当然、テッサは可愛いですけどねっ!」
アリーゼ先生が自慢げに胸を張ると、そのおおきなたわわがゆさりと揺れた。
この嫁自慢するときのアリーゼ先生、凄くいいんだよねぇ。実に魅力的だ。
そんなことを考えながらアリーゼ先生をガン見していると、クイクイと手を引かれているのに気が付いた。
「ねぇねぇアンリエッタママっ」
手を引いているのは、ソファーの脇にしゃがみ込んだミリーだった。
「なぁに? ミリー」
上目遣いでじっと私を見つめてくるミリーは、実に魅惑的で――
「――私もママと百合子作りしたいなっ」
「ブーーーーーーーーーーーーッ!!」
私は貴重なポーションを吹きだしてしまった。
「あああっもう、勿体ないっ」
「す、すみませ…… ごほっ! がふっ!! い、いやでもだって!!」
そら3歳児からそんなこと言われたらびっくりして噴き出しもするわい!
ほら見ろ! エメリアも目をまん丸くしているじゃないか!!
「み、ミリー!? い、意味わかって言ってるの!?」
「わかんないっ。ママ達の寝室には入っちゃダメって言われるし。でもなんか楽しいことなんでしょ?」
楽しいと言うかなんというか!! でもあかんて!! とにかくあかんて!!
「も、もうっ、ミリーちゃんはおませさんですねぇ」
エメリアが額に汗を浮かべながら、なんとかこの場をごまかそうとしている。そりゃそうだ。まだこの子が知るには早すぎる。
「え、えっと、そうだ、ご本を読んであげますね、こっちに来てください」
「ええ~私もママと百合子づく――」
「さ~ほら、こっちですよ~」
エメリアに手を強引に引かれてミリーは部屋から出ていき、そこには私とアリーゼ先生だけが残された。
「アンリエッタ?」
「は、はい、なんでしょう……?」
先生はにっこりとほほ笑んだ。
「――あの子はあくまでも魔法薬で体が一時的におっきくなってるだけだから、まだ手を出しちゃダメよ?」
「出しませんよ!?!?」
私を何だと思ってるんだ!? それにだとしたら、そもそもあんな体を成長させる薬をあげるなし!! 可愛すぎるでしょ!?
何!? 私を試してるの!?
「あ、でも即嫁にすると誓えるのなら親としては考えなくも――」
「はい! この話やめ!!」
危険な方向に行きそうだったので、私は強制的にストップをかけたのである。