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第143話 頑張れ私!! 耐えるんだ私!!

「はい、アンリエッタ、抱っこしてあげて?」

「ひえっ!? い、いいんですか……?」


 ミリーが腰にしがみついた態勢のまま、テッサ先生から赤ちゃんを抱いてあげるように促された。

 でも私、前世で妹とかいなかったし、赤ちゃんを抱っこした経験なんて無いけれど大丈夫なんだろうか?


「大丈夫だよ。生まれたばかりの子には厳重な保護魔法がかけられてあるから、万一落としたりしても絶対にケガとかしないし」

「そ、そういうものですか……」


 魔法ってすごい。言われてみるとテッサ先生が抱えている赤ちゃんは淡い光を放つ強い魔力で包まれていた。確かにこれならダンプカーでもはじき返すだろう。

 それでも恐る恐ると言う感じで、私は先生から生まれたばかりの赤ちゃんを受け取った。


「おおお……か、軽いような重いような……何グラムでした?」

「3200グラムね、極めて健康体よ」


 アリーゼ先生がニコニコと笑いながら教えてくれた。3200か……私もあまり詳しくは知らないけれど、たしか前世でも赤ちゃんはそれくらいで生まれてきたような気がする。

 この辺はだいたい同じなんだなぁ。


「でも、凄いですね……」


 何が凄いかって、それは勿論この子が目の前にいる女性2人を親として生まれたと言う事実だ。

 ミリーがこの2人から生まれたとは聞かされてはいたものの、こうして現に私の手の中に女性だけから生まれたばかりの赤ちゃんを抱いていると、その感慨もひとしおである。

 女同士で子供が作れる世界、なんて素晴らしいんだろうか。


「凄いって、百合子作りのこと?」

「はい、そうです。まさに奇跡ですね」

「そうね、この魔法が完成してからずいぶん経つけど、未だにこれを超える魔法は存在しないし、これからも生まれないだろうと言われるだけのことはある、と私も今実感してるわ。2回目だけど」


 アリーゼ先生も感慨深げである。でもそれは当然だろう、愛する女性との間に新たな生命が生まれたのだから。

 そしてそれを見て微笑むテッサ先生は、それはもう綺麗で綺麗で、美人なのはわかっていたけど改めてここまで美人だったかと驚愕する。やはり母は美しいのだ。


「どう? アンリエッタ、可愛いでしょ」

「はい、可愛いですね」


 私は手の中にいる子を覗き込む。生まれたばかりであるけれど目鼻立ちは整っていて、この時点で将来美人になることを確信するのに十分すぎるほどだった。


「将来アンリエッタの嫁になるかもしれないんだからね。仲良くしてあげてね?」

「ぶっ!?」

「どしたの?」


 いきなりぶっこんで来るテッサ先生である。

 い、いや、前に言われていたけど、それ本気なの!?


「ま、マジですか?」

「マジもマジ、大マジだけど?」


 テッサ先生の目は冗談を言っている目には全く見えない、真剣そのものだ。


「そうですよ、アンリエッタ。もちろんこの子の自由意思に任せますけど、出来ればこの子を嫁に貰って欲しいと、貴方の嫁として、そしてこの子の母として真剣に思っていますよ?」


 アリーゼ先生の目も口調も同様に真剣だった。どうもマジでこの子を嫁にして欲しいと考えているらしい。


「だってアンリエッタママ、私と結婚するんでしょ? だったら私の妹も一緒にお嫁にしてあげて欲しいなっ」

「ふ、ふええ……?」


 ミリーまで超乗り気である。

 つまりあれなの? この部屋にいる女の子は私を除いて5人、そのうち娘であるナデシコを除いた4人が私の嫁になるってこと? そ、それはなかなか凄い話だ。


「う、生まれたばかりの子をそう言う目では見れないんですけどっ」

「それはそうでしょ。……でも私とアリーゼの子供だよ? 絶対美人になるし、それにアンリってこの子のタイプだと思うな~」

「そ、それこそ生まれたばかりじゃないですかっ、そんなの分かるわけが……」


 とはいうものの、私に引っ付いて離れないミリーを見るに、それはだいたい予測できる未来だった。この子は私に一目惚れをしたと言っていたし。


「私がアンリエッタママを大好きなんだもん! この子だってアンリエッタママを好きになるに決まってるわ!」


 ミリーは自信満々に、目をキラキラと輝かせている。その純真ながらも私のことを絶対に逃がさないという執念のようなものを感じさせる瞳に、何回目かわからない末恐ろしさを感じる。

 私この子にだけはかないそうにないなぁ。


「ま、まぁその、その件はこの子がある程度大きくなってからという事で……」

「そうだね、で、この子もアンリのことを好きになったらまた『誓約書』を用意してあげるからね」

「ひええええ」


 アリーゼ先生が柔らかい微笑みとは裏腹に、有無を言わせないような凄みを感じさせながら羊皮紙をひらひらとさせる。

 そして何かを思い出したように「あっ」という顔をした。


「そうだ、アンリエッタ」

「なんですか、アリーゼ」

「テッサとの百合子作りの件なんですけど――」

「ブーーーーッ!!」


 吹きだした。いや、だって!


「あ、あの!! そう言う話は、今はその……!!」

「どしたの?」


 テッサ先生が不思議そうな顔をしながら聞いてくる。いや、なんでそんな平静なんですかねぇ?


「だ、だって、ミリーがいるじゃないですかっ!!」


 恋人同士の秘め事を、こんな小さい子がいる前でするのはいかがなものかと思うんですよ!


「え? ミリーも百合子作りに関しては知ってますよ?」

「はっ!?」

「そう言う教育方針ですから。若いころからそういうことも教えていかないといけませんし」


 若すぎませんかねぇ!? モノには適切な年齢ってものがあると思うんですけど!!


「あ、勿論具体的にどういう事をしてるかは教えてませんよ? 当たり前ですけど」


 アリーゼ先生がそっと耳打ちをしてくる。いや、全くもって当たり前ですね!!


「い、いえ、その、お家の教育方針については口を出しませんけど……」


 どうりでこんなおませな子になるわけだ……いや、多分にこの子本人の資質が影響してそうではあるんだけど。


「私達もあまり家格は大したことないけど、一応貴族だしね。そう言う教育はしっかり行うのが義務なんだ~」


 それにしても早すぎる気が大いにするんだが。いや、まぁいいか……


「それで、百合子作りがどうしたんですか?」

「いやほら、テッサってお腹に赤ちゃんいたから、その、百合魔力結合が進んでなかったじゃないですか」


 確かにそれはその通りだった。テッサ先生も私のローテーションには入っていたけど、お腹に赤ちゃんがいる以上その上から別人の魔力結合を進めることは不可能なのだ。

 だからテッサ先生だけは私の子供を産んでもらうのはしばらく先かな、と思っていたんだけど。

 そう考えていたら、テッサ先生が実にあっけらかんとした感じでこう言った。


「私もアンリの子供すぐ欲しいから、頑張ってね?」

「……はい?」


 えっ!? いや、えっ!?


「だって、私もアリーゼと同じタイミングで子供欲しいし」

「そうですね、私も同意見です。なのでアンリエッタには頑張ってテッサと魔力結合してもらわないといけません」

「私も! 妹また早く欲しい!!」


 はいいいいい!? いや、でもそれ、大丈夫なの!? ほら、テッサ先生産後間もないんですけど!?


「あ、私は大丈夫だよ? そのためにアリーゼに回復呪文とかドサドサかけてもらったし、もう健康そのものだから」

「そ、そうは言いますけど……!! ホントに大丈夫なんですか!?」

「私を誰だと思ってるの? そんなの大丈夫に決まってるじゃない」


 アリーゼ先生が、その豊かな胸をエヘンと張る。確かにアリーゼ先生はこの国でも有数の魔術師だけど、それにしても凄すぎない!?


「愛するテッサのためですからね、魔晶石……魔力を回復させる秘石もどっさり使って全力で回復させたのよ」

「あれめちゃくちゃお高いですよね!?」


 流石はユリティウスの教師である。娘にポンと高価な魔法薬を与えたり、実にお金持ちだ。大貴族の娘の私が言えた話ではないだけど。


「ま、そういうわけだから、テッサを他の嫁達に追いつかせるために頑張ってもらわないとね、あ・な・たっ」

「ちなみに、ローテーション管理のエメリア達には話を通してあるから、もうスケジュールは調整済みだよ」

「えっ」


 そう言われて来月のスケジュールを確認してみると、確かにテッサ先生がぎっしりと予定に組み込まれていた。

 仕事ができる子である。


「こ、これは頑張らないとですね……」

「ああそうだ、そのため、と言っては何なんだけどさ」

「はい?」

「アンリエッタ、明日からしばらく――百合魔力結合が他の子に追いつくまで我が家で寝泊まりしてもらうから」

「はぃぃ!?」

「だってその方が効率良いでしょ? ずっと私と一緒に過ごすんだし」


 テッサ先生は、母にして嫁の顔で私に微笑みかける。今のその笑顔は反則だと思うんですけど。


「わぁい!! アンリエッタママがうちに来るの!?」

「そうよ、ミリー、いっぱい可愛がってもらいなさいね?」

「うん! ママ、いっぱい遊ぼうね!!」

「う、うん」


 このぉぉぉ!! そんな嬉しそうにされたら、断るなんてできるわけないじゃないかぁ!! この子これを計算づくでやってそうなのが恐ろしいのよねぇ……


「あ、そうだアンリエッタ」

「ま、まだ何かあるんですか……?」


 アリーゼ先生が意味深に微笑んでいる。この笑顔は絶対よからぬことを考えている顔だ……


「ミリーにあげる成長の魔法薬なんだけど」

「は、はい……」

「――どっさり買い込んであるからねっ」


 ひえっ……!!


 あの薬を飲んで15、6に成長したミリーって、本当に目が覚めるような美少女なのよね……!! それこそ絶世の美少女であるクラリッサに引けを取らないほどなのだ。

 その状態のミリーと、一つ屋根の下でしばらく過ごす……?

 やばい、それはやばいよ? 私ロリコンの汚名を着せられてしまう……!!

 いや、あんなにロリなシスターノーラとかを嫁にした以上今更な気もするけど、アレは合法ロリ!! こっちは違法ロリ!!

 それ関連の法はこの世界に存在しないんだけど!! それでもねぇ!?


「うふふ、ママっ……楽しみねっ」

「そ、そうだねぇ~」


 私は私に抱きついたままのミリーからの上目遣いにゴクリと息を呑む。

 頑張れ私!! 耐えるんだ私!! さもないと完全なロリコンコースだぞ!!


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